日本SGIがLinuxにこだわる理由

2004/12/8

日本SGI 代表取締役社長 和泉法夫氏

 日本SGIは12月7日、エンタープライズ分野のLinux事業を推進する「エンタープライズLinuxソリューションセンター」を設立した。センター長には元OSDLジャパンのディレクタ 高澤真治氏が就任した。専任スタッフはエンジニア3人を含む5人。サイエンス&リサーチ市場におけるCAE分野での大規模Linuxシステムの構築・運用実績を生かし、ISVと連携しながら、エンタープライズ分野でのLinuxの普及・拡大を支援する。

 「エンタープライズLinuxソリューションセンター」の活動にはNPO的な側面がある。例えば、同社内に蓄積されたオープンソースソフトウェアおよびLinuxに関するシステム構築技術やLinux開発環境をユーザーコミュニティに開放し、課題の洗い出しや性能検証を行うといった活動は、直接の営利活動とはいえない。ただし、エンドユーザーが抱える“Linuxへの期待と不安”に対する回答や導入に向けた具体的なビジネスモデルの提案などを行う機能もあり、これらの活動は料金体系は明らかではないが、システム構築のためのコンサルティング提案といえる。2005年1月を目処に各種業界標準のISVアプリケーションのポーティングを推進する「エンタープライズテスティングラボ」も設置する予定だ。国内の独立系ISVと「緩いパートナーシップを築きながら」(同社 代表取締役社長 和泉法夫氏)、「エンタープライズLinuxソリューションセンター」を核としたコンソーシアムを構築していく計画もある。

 同社の狙いはエンタープライズ分野におけるLinux市場の地ならしである。実際、「エンタープライズLinuxソリューションセンター」周辺の活動によって同社が莫大な収益を得ることはない。あくまでLinux市場を拡大し、さらにLinux市場における日本SGIの存在感を強化することで、得意分野である「可視化システム」の販売につなげていくという目的である。

 SGIの強みは、MIPS時代に築いた可視化システムの技術力とブランド力だが、IT業界の技術トレンドがオープン環境に移行するに従い、MIPSにこだわった同社の業績は急激に落ち込んだ。起死回生の策として打ち出したのが、「IA-64ベースのLinuxシステム」であり、日本SGIとしてはこのオープンプラットフォーム上でSGIの強みであるヴィジュアライゼーションの技術ノウハウを発揮したいと考えている。現在、同社の全売り上げに占める可視化システム(Silicon Graphics Prismシリーズ)の販売比率は全体の40%、サイエンス&リサーチ分野および自動車業界を中心としたデジタル・エンジニアリング分野でのハイ・パフォーマンス・コンピューティング(SGI Altixシリーズ)が40%である。

 「エンタープライズLinuxソリューションセンター」を巡る活動において和泉氏は「ハードウェアには一切こだわらない。当然SGIのハードウェアである必要もない」とし、あくまでハードウェアに関してはベンダフリーの立場をとるが、それは当然、長期的な視野でみたときのSGI製ハードの優位性、技術力を信じているからにほかならない。短期的な視野でみた場合、まずは市場形成を優先させるのが得策だと同社は判断したわけである。

 和泉氏は以前から、SGIの強力な可視化技術が企業の業務分野やクライアントPC環境に適用できると主張してきた。しかし、いつも時代より数歩先を行く和泉氏のビジョンはなかなか市場に受け入れられなかった。日本SGI、すなわち和泉氏のビジョンは常に一貫しているが、市場開拓の尖兵は変化し続けている。かつては「マルチメディア」、近いところでは「ブロードバンド」、そしていまは「Linux」である。

(編集局 谷古宇浩司)

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