HPの仮想化技術は“禅”の境地?

2005/10/29

 日本ヒューレット・パッカード(HP)は10月28日、同社の研究所と英ケンブリッジ大学が協力して開発を進めているオープンソースソフトウェアの仮想化エンジン「Xen」(ゼン)について、ヒューレット・パッカード 研究所 プラットフォーム仮想化グループ 主席研究員 トム・クリスティン(Tom Christine)氏が説明した。

お寺の境内で「Xen」の説明をするヒューレット・パッカード 研究所 プラットフォーム仮想化グループ 主席研究員 トム・クリスティン氏
 Xenは、ケンブリッジ大学がメインに開発したオープンソースの仮想化エンジン。HPは「仮想化こそ次世代インフラのメインになる。オープンスタンダードな環境下で仮想化技術を発展させていきたい」(クリスティン氏)という発想の下、Xenの共同開発に取り組み、XenのソースコードのIA-64化などを担っている。同社では、仮想ネットワーキングや仮想サーバの管理・制御、パフォーマンスの測定・監視の3分野において、GPLを使用しているという。2004年5月には「Xen 2.0」をリリースしており、2005年12月末〜2006年2月くらいのリリースをめどに「Xen 3.0/3.1」を開発中だ。

 日本HP マーケティング統括本部 インフラストラクチュアマーケティング本部 本部長 清水博氏は、「仮想化技術の発展によって次世代インフラストラクチャ=仮想化というレベルにまで高まっている」と仮想化技術の発展を評価。「禅を英語で説明する際に“no mind”と表現することがあるが、何もないところに物を作り出す仮想化は、まさに禅の境地に似ている。HPの仮想化技術は、禅の境地といえるだろう」と語った。

 クリスティン氏は、仮想化のメリットとして、分散と自動的なシステム管理を実現できる点や、リソースを抽象的に管理することで動的な割り当てができる点などを挙げた。中でも、OSやシステムに依存することなく共通のインターフェイスやアーキテクチャを提供し、“複雑性を隠ぺい”できる点を強調した。

 Xenでは、“パフォーマンスが悪い”という仮想化のデメリットをカバーするために、VMM(仮想マシンモニタ)をAPIによって補完する技術である「パラ・バーチャライゼーション」を開発し採用した。しかし、Xenを使用するためにはOSが仮想環境を認識できるように修正しなければならないという。しかし、今後リリースするXen 3.0以降では、64ビットプロセッサをサポートするほか、インテルの「Vanderpool」やAMDの「Pacifica」をサポートすることで、OSの修正が不要になるとしている。

「Xen」に掛けて、発表会は鎌倉の「建長寺」で行われた
  クリスティン氏はXenで実現するサービスとして、ユーティリティ・コンピューティングを挙げた。米国の映画製作会社であるドリームワークスは映画「シュレック2」制作時にHPのユーティリティ・データセンターを利用し、50万を超えるフレームレンダリングのために、1000プロセッサによるグリッド技術を利用したという。この際、ドリームワークスからは「データの保護と、ほかからの完全な隔離」を求められたために、HPとドリームワークスを専用の光ファイバで結び、物理的に隔離したという。クリスティン氏は、「グリッドやユーティリティ・コンピューティングでは、データ保護の問題は重要だ。ドリームワークスのケースでは、物理的に隔離することで、未公開映像データ漏えいによる損害賠償請求のリスクを回避したが、Xen普及時にはこの問題を解決する必要があるだろう」と警告した。

 また、Xenの応用例として考えられるケースとして、「I/Oの仮想化」や「ネットワークの仮想化」(VNETs)、「ストレージの仮想化」「自動的なリソース管理」を挙げ、「特にXen普及時には、システムリソースを監視し、常に最適なリソース配分となるよう、ハードウェア上の仮想化システムを移す必要があるだろう」(クリスティン氏)と語り、仮想化技術の今後を予測した。

(@IT 大津心)

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