Weekly Top 10
もう「IT業界」とは言えない
2008/06/02
先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングのトップは情報処理推進機構(IPA)が主催したイベントの討論会をレポートした記事「『10年は泥のように働け』『無理です』――今年も学生と経営者が討論」だった。半年前に行われた同様の討論会のレポート記事「IT業界不人気の理由は? 現役学生が語るそのネガティブイメージ」と同様に、ソーシャルブックマークやブログを中心に議論が巻き起こった。
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ネットでの議論を見守りながら思ったのは、もうIT業界という言葉は軽々しく使えないということだ。記者はこれまでIT業界という言葉を何気なく記事に使ってきたが、その言葉が指す対象は幅広く、本来は軽々しく使うことができない言葉だ。IPAの討論会が(主に経営者側の発言で)毎回大きな議論となるのは、参加者が考えるIT業界の意味が、ばらばらだからではないか。
IT業界とは、ある人にとっては、ハードウェアからソフトウェア、システム構築、サポートなどをフルラインアップで提供する垂直統合的な企業を指し、ある人にとってはパッケージソフトウェア専業、ある人にとってはWebアプリケーションを開発し、Web上でサービスを提供する企業を指す。つまり、人によってまったく違う世界を見ているのだ。
そのために、あるIT業界では当然の言葉が、別のIT業界では大きく反発されるということが起きているように思う。@ITをはじめとするメディアも多様な状況にある業界を十把一絡げにして取り上げて議論してしまうのは乱暴だったと反省している。
@IT記事についての批判もあった。アプレッソの代表取締役副社長でCTOの小野和俊氏は、ブログ記事「大手メディアによるIT業界ネガティブキャンペーン」で、「どうにも理解に苦しむのは、自分たちが専門としている業界について、なぜネガティブな個所を強調した記事が大手メディアに連続して掲載されるのか、ということである」と指摘した。
記者はこのIPAの討論会には出席しておらず、記事でしか討論会の内容を知らないが、別のブログの「IPAX 2008を見に行ってきた」(発声練習)を読むと、@IT記事が討論の一面しか取り上げていないことを痛感する。同時に記事内容についてブログでご指摘をいただけるこの時代に編集業務を行えることの幸せも感じる。
ただ、理解をしてもらいたいのは、@IT記事は日本のIT業界全体を外部から応援するのが目的ということだ。少なくとも記者は日本のIT業界全体に期待しているし、同時に、その愛する日本のIT業界の一部分が深く病んでいることも分かっている。IPAの調査からは、そのようなIT業界の特殊性やひずみが見て取れる(参考記事:「IT技術者の4割は月200時間以上労働――IPAが調査」「下請けは労働生産性が低い――IPAが『労働集約的』と指摘」)。
もちろん、IT業界を応援する立場でいえば、業界にとって一部分に過ぎない都合の悪い情報に目をつむってITのすばらしさだけを伝えることも可能だ。しかし、それでは読者を裏切ってしまうことになるし、この国のIT業界はいつまでも世界の辺境にとどまることになるのではないだろうか。
IT業界といっても、その人の立場で意味はまったく異なる――このような状況になったのは旧来のITゼネコン的な企業以外に、数多くの魅力的な企業が登場して注目を集めているからだ。記者が望むのはこのような魅力的な企業がさらに成長し、グーグルやFacebookと互角に戦うようになっていく姿を見守りたいということ。旧来のITゼネコンとITゼネコンを温存する業界構造に対するオルタナティブが生まれることによって、人も動き、技術開発も活発になる。そのためには応援をする立場として、これからも問題は問題として指摘していくべきと思っている。
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