定性データ分析の効率・品質を両立、QSR Internationalが日本法人設立へ分析にテクノロジを使う意義

定性データの分析ソフトウェア「NVivo」を提供しているオーストラリアのベンダー、QSR Internationalが2013年中をめどに日本法人を設立するという。

» 2013年10月08日 22時31分 公開
[内野宏信,@IT]

 ソーシャルメディアなど、オンライン上のデータや組織内の業務文書など、定性データの分析ニーズが高まっている。だがテキスト、音声、動画など、データの種類と量が増えている中で、分析の質と効率を両立することは難しい。また、企業においては、業務部門とIT部門の人材が協働する分析専門組織の設置が有効とされているが、チームで分析に取り組むためにはプロジェクトの進捗や成果物のバージョンなどを管理することもポイントになる。

 オーストラリアのベンダー、QSR International(以下、QSR)が提供している定性データの分析ソフトウェア「NVivo」はこうした課題に応えた製品だ。拠点を持つ米国、英国、オーストラリアを中心に、企業、教育・研究機関、政府・公共機関など700以上のユーザー組織を持つが、2013年中をめどに日本法人を設立。より広いマーケットで分析ニーズの高まりに応えていく構えだという。QSRのCEO、ジョン・オーウェン(John Owen)氏に詳しい話を聞いた。

種類もフォーマットも異なるデータを単一の環境で整理、分類、検索可能に

 「ソーシャルデータやフィールド調査データ、顧客インタビューなど、定性データの種類は多岐にわたる。テキストやPDF、画像などデータフォーマットも多様化している。こうした定性データから得られる発見、洞察の重要性は研究活動だけではなく、ビジネスの上でも高まっているが、種類とフォーマットが異なるデータを個別に閲覧し、関連性を探る作業は非常に手間が掛かる。NVivoは各種データを整理・分類し、単一のPC画面でスムーズに閲覧可能とすることで分析作業の質と効率を大幅に高める」

ALT QSR International CEO ジョン・オーウェン(John Owen)氏

 オーウェン氏はNVivoについてこのように解説する。具体的にはテキストや音声、画像、動画といった各種定性データをNVivoに直接インポートし、トピックごとに分類したり、関連がある情報にタグを付けたりすることで、データの閲覧性を高め、分析作業を効率化するという。

 特徴は大きく3つ。1つはWebページの他、Facebook、Twitterといったソーシャルメディアなどインターネット上のデータも直接取り込めること。「例えばTwitterのタイムラインを眺めながら、興味のある発言だけその場で即座に取り込むこともできる」。他社のソフトウェアとの連携も可能で、例えばネットリサーチ/アンケート調査のアプリケーション「SurveyMonkey」や「IBM SPSS」「Evernote」などで集めたデータも取り込める。動画や音声ファイルについては再生速度の変更や繰り返し再生ができる他、トランスクリプト(文字起こし)機能も利用できる。

 2つ目はデータ検索を行う「クエリ」機能。完全一致するテキストや類似する単語を検索する「テキスト検索クエリ」、任意のトピック内でタグ付けされたデータのみを検索対象とする「コーディングクエリ」、両者を組み合わせた「複合クエリ」など、任意の視点で柔軟に検索できるという。

 3つ目は、アイデアやデータ同士の関連性などをモデルを使って表示できる可視化機能。クエリによる検索結果やデータ同士の関連性を、タグクラウド、ツリーマップ、単語ツリーといったフォーマットを使って可視化できる。また、例えば「30歳代の顧客」など、属性ごとにタグを付けて分類したデータの量を、円グラフ、棒グラフなどで表示することも可能だ。

 「一定のアルゴリズムに基づいて自動的に分析結果を出すBIやテキストマイニングツールとは異なり、NVivoの場合、実際に分析して洞察を導き出すのはあくまでリサーチャー自身だ。しかし種類やフォーマットが異なる多種多様なデータを、単一の環境で、任意の観点から整理、分類、可視化することで分析の効率性、確実性は大幅に高まる。NVivoのユーザーは大学や研究機関が中心だが、近年は企業のマーケティング部門での導入例も増えつつある」

分析にテクノロジを使う意義

 ただ定性調査については、数値を基にした定量調査に対して科学的ではないのでは、といった議論がなされ続けてきた経緯がある。そこで「フィールドワーク」「参与分析」など、さまざまな方法論が創出されてきたわけだが、近年は分析の客観性を担保する上で大きく2つのトレンドがあるという。

 1つは定量調査を組み合わせ、定性分析の結果を数値で検証したり、統計から得られた発見を定性データで裏付けたりする「混合研究法」の適用例が増えていること。もう1つは分析の正確性を担保するために、過去の分析結果に戻って再検証する、新たな発見やデータを付け加えて再検証する、といった作業が求められていることだ。オーウェン氏は「こうした作業を効率化・確実化する上でも、NVivoのようなテクノロジの重要性はますます高まっている」と指摘する。

 また企業の場合、各社独自のリサーチプロセスを持っている例が多い。その点、テクノロジを使うことでスタッフ全員がプロセスに沿って作業できる環境が整う。つまり作業の属人化を防ぎながら、独自プロセスの強みを生かした分析をより確実に行える。NVivoではサーバ上で稼働する「NVivo Server Solution」も用意。「プロジェクト管理、成果物のバージョン管理機能も備えている他、複数のスタッフが単一のサーバにアクセスして作業することで、よりセキュアかつ効率的に作業を進められるよう配慮した」という。

 オーウェン氏は、「調査の現場で使われてきた中で、方法論とともにテクノロジも年々洗練されてきている。特に昨今はデータの種類やボリュームが増大し、全てを手作業で行うことはもはや難しくなっている。逆にいえば、手作業では手に負えない量、種類のデータを扱わなければ、重要な発見を見逃す危険性が高まっている」と指摘。定性データ分析に対するニーズが「これまでになく高まっている」今、大学、企業を中心に、「日本市場にも定性データから得られる価値と、価値を獲得できる方法論を提案していきたい」と話している。

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