「研究のルーツはSFヲタクな工作少年の夢」と題して、中学生のころから作り始めたさまざまな作品を紹介。
水陸両用ロボット、ロボットアームなど、当時制作した作品を通じて、「仕組みが解ればものは作れる」という、いわゆる「厨二病のこじらせ」を発露し、学生時代に所属していた人工知能研究会に話が及ぶ。人工知能研究会では、当時まだ名前も決まっていなかった、3Dのビューアーやヘッドマウントディスプレイなどの装置類を開発。
ヘッドマウントディスプレイの開発はその後も続けられ、前田先生のライフワークとなる。ヘッドマウントディスプレイやロボット装置類の研究がテレイグレジスタンス(遠隔存在感)の研究として、触覚の提示装置や機械式巨大システムなどを構築する。
さまざまな機構・ロボットを作る試みの中から、前田先生は「ヒトの仕組みが分かれば、ヒトを作れる」という思考に到達する。
ヒトがどうやって世界を見ているか、視覚の仕組みを研究して博士論文に仕上げ、その後も人間が空間をどう知覚しているかの研究は続く。
その結果、「錯覚」を利用して感覚を提供することで、人間を動かすことが可能になる、という結論に至ったのだという。「動かす」といっても強制するわけではない。ムリヤリ動かすと人間は抵抗してしまい、かえって危ない。人間の知覚の仕組みを使って、感覚を刺激して「自然とそちらに行ってしまう」ようにすることが前田氏の研究だ。
冒頭に紹介した「パラサイト・ヒューマン」や、「人間ラジコン」はその錯覚インターフェイスがもたらした成果である。人間ラジコンは、体験者が傾いているような錯覚を提供し、体験者がそれに反対するような動きを提供することで、狙い通りに人を動かすことを可能にしている。
冒頭で稲見氏が「感覚・知覚のマジシャン」と語ったとおり、人間に与える情報を変えると、世界がまた違って見えてくる。まるで「ここではない世界」はコンピュータで作ることができ、それは物理的な影響力を人間に与えることができる。
世界は簡単に変わることができて、僕らもそれによって変えられることができる。今日や明日でなくても、ますます僕らの目の前に触れるものが進化していくことが、今回の研究100連発から見えてきた。
今回の研究100連発の映像は、ニコニコ動画にもYouTubeにもアップされている。ぜひ生で見て、目の前のものが変わっていく感覚を味わってもらいたい。
ニコニコ学会βは、ユーザー参加型の価値を追求する新しい形の学会だ。学会の研究発表は、デモ映像がYouTubeなどの動画サイトにアップされることで、社会からコンテンツとして受け入れられつつある。軍用の4足歩行ロボット「bigdog」や防衛庁の球形飛行物体などは、さまざまなブログやニュースサイトで取り上げられ、既に「コンテンツ」として受け止められているといえる。
一方、インターネットのおかげで、研究機関以外の場所で行われている「研究」が世間から注目されることも多い。今回のニコニコ学会で行われたセッション「きのこ会議」では、写真家/きのこ文学研究家/ブロガー/菌類学者がそれぞれのキノコへの想いを語り、ニコファーレはコメントで埋まった。研究を見る人も研究をする人も、インターネットを通じて学会の外にどんどん広がっている。
ニコニコ学会βでは、それら「研究者による研究」そして「研究機関の外で行われている、研究と呼べるもの」を集め、誰が見ても楽しめるものとしてインターネットで配信するシンポジウムを行っている。
イベントがニコニコ生放送で配信されることと、ニコニコ学会βという名称からよく間違えられるが、ニコニコ動画やドワンゴが運営しているわけではない、独立した組織である。産業技術総合研究所の江渡浩一郎氏が運営組織の委員長を務め、委員や幹事は完全ボランティアで行っている(僕も実行委員として参加している)。
早くも2014年4月27〜28日には、ニコニコ超会議と併催して、第6回ニコニコ学会βが、2日間にわたって幕張メッセで行われる。ニコファーレと違い、多くの人が会場で体験できるイベントになる。ぜひ、会場で見てもらいたい。
ウルトラテクノロジスト集団チームラボ/ニコニコ学会β実行委員
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジー/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
第6回のニコニコ学会βシンポジウムをニコニコ超会議3との共催として、幕張メッセにて行います。乞うご期待!
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