食品物流大手のニチレイロジグループは、大規模災害などの発生時にも速やかに物流基幹システムを復旧し、全国を網羅する食品物流網を安定運営していくためのBCP強化の柱として、東西データセンターに設置した2台の「Oracle SuperCluster」によるディザスタリカバリー環境を構築。内閣府が国土強靭化に向けて推進するレジリエンス認証も取得した。
2011年に発生した東日本大震災は、災害など緊急事態の発生時にも事業を速やかに復旧/継続できるよう備える「BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)」の重要性をあらためて多くの企業に認識させた。平時から事業継続の備えを固めておくことは、いざというときに自社や従業員を守るだけではなく、関係する取引先や顧客のビジネス、さらには地域や国家の経済活動を安定させることにもつながる。大規模災害の教訓から、経営方針の一環としてBCPの強化に取り組む企業も増えている。
BCPの策定/強化に際しては、企業のビジネスインフラであるITシステムを迅速に復旧し、稼働を維持する方法も重要な検討事項となる。しかしながら、システムのBCP対応に要する工数やコストなどを理由に、実現が遅れている企業も少なくない。
そうした中、わが国の社会生活を支える極めて重要なインフラである“食品物流”を担うニチレイロジグループは、物流基幹システムのBCP対応を完了した。新たな環境は東日本と西日本に設置した2台の「Oracle SuperCluster M7」によるディザスタリカバリー(DR)構成となっており、いずれかが災害などで停止した場合でも、短時間で全サービスを復旧させることが可能だという。同社は基幹システムのBCP対応に当たり、どのように検討や構築を進めたのか。また、その基盤としてOracle SuperClusterを選択した理由は何か? プロジェクトのキーマンらに聞いた。
ニチレイロジグループは、食品関連の多様な事業を展開するニチレイグループにおいて、特に「低温物流」に関わる事業を担っている。取引先は約5000社を数え、その物流ネットワークは国内外の食品産地や食品メーカーと消費者との間をくまなく網羅している。国内における物流事業所数は114カ所、設備能力は約145万トンに上る(国内外合計は約200万トン)(いずれも2018年4月時点)。
食品や物流に関わる環境は、国内外の経済情勢や社会情勢、気候、季節などによって目まぐるしく変化し続ける。ニチレイロジグループでは、それらに機敏に対応しながら、積荷の品質を保ち、効率良く、確実な輸送を実現するための各種サービスをグループ内外の企業に広く提供している。そんな同社は、1995年の阪神/淡路大震災、そして東日本大震災といった大規模な災害の経験を通じて、「被災した地域で暮らし、復旧のために働く人たちを支えるためにも、“食品物流を止めない”ことが重要なミッションであるとの思いを強くしました」とニチレイロジグループ本社 技術情報企画部 部長の粟村義親氏は話す。
「そのミッションにIT部門として貢献するには、物流の基幹システムを24時間365日、安定して稼働させ、想定外の事態が起きたとしても決して止めないことが求められます。当社では、あらゆる備えを含めて、そのための取り組みを進めてきました。今回の複数拠点化によるシステムのBCP強化も、その一環として実施したものです」(粟村氏)
幾度にわたる組織再編や会社統合を経てきたニチレイロジグループでは、15年ほど前まで全国4カ所に主要な物流基幹システムが分散していた。この状況を改善し、ビジネスの機動性とコスト面の競争力を高める目的で、同社は2003年から分散した基幹システムの統合に着手。「Lixxi(リクシー:Logistics information-system 21)」と呼ばれる新たな物流基幹システムを構築した。
Lixxiでは、物流に関わる入庫、出庫、在庫などの情報がリアルタイムに管理され、多数の取引先システムとのデータ接続も行っている。文字通り、物流ビジネスの基幹インフラであり、高いミッションクリティカル性が要求されるシステムだ。Lixxiでは、堅牢性、可用性、安定性といった要件を高いレベルで満たすために、旧Sun MicrosystemsのSPARCサーバとSolaris、Oracle Database、そしてWebLogic Serverの組み合わせを基盤として採用していた。
LixxiのBCP対応に向けた動きは2015年に具体化する。これまで東日本にあるデータセンターで稼働していたLixxiを、西日本のデータセンターとの間で二重化し、どちらかが大規模災害などによって稼働できなくなったり、ネットワークが寸断されたりした場合でも、全国の業務への影響を最小限に抑えられる環境の実現を目指した。
Lixxiの二重化によるBCP対応に当たり、同社は当初、主にコスト面の理由からWindowsベースのシステムへの移行も視野に入れていたという。だが、検討の過程で日本オラクルからEngineered Systemsの一つであるOracle SuperClusterの提案を受ける。ニチレイロジグループは、主に「信頼性」「移行性」「可用性」「保守性」「性能」「安全性」「BCP特性」「経済性」の8つの観点から、それぞれのプラットフォームを比較検討し、最終的にOracle SuperCluster M7の採用を決めた。
「SPARC、Solaris、Oracle Databaseによるミッションクリティカル環境で稼働してきたLixxiの移行先として、同じSPARCとSolarisをベースにしたOracle SuperCluster M7が総合的にベストなプラットフォームだという結論に至りました。Lixxiを運用する中で実感していた高い信頼性や可用性、保守性といったメリットを引き続き享受できることは大きな魅力でした」(粟村氏)
BCPシステムの構築は、ニチレイグループの情報システム会社であり、日立製作所との合弁企業である日立フーズ&ロジスティクスシステムズが担当。懸案となっていた「コスト面」については、2台のOracle SuperClusterを日立フーズ&ロジスティクスシステムズが導入し、ニチレイロジグループはLixxiの稼働に必要なリソースをクラウドサービスとして利用するという新たな対応によってクリアした。
Oracle SuperCluster M7への移行プロジェクトは2017年2月にスタートする。Windowsへの移行も視野に入れていた時点では、1年後の2018年2月までに西日本にスタンバイサイトとなる新たな拠点を構築。さらにその1年後の2019年2月までにLixxiの本番サイトを西日本に移行した上で、東日本の基盤をスタンバイとする2段階での移行を計画していた。しかし、移行先を2台のOracle SuperClusterとしたことでスケジュールの大幅な前倒しが可能となり、2018年2月の段階で二重化されたLixxiによるDR環境の本稼働を実現できたという。
導入期間を大幅に短縮できることはOracleのEngineered Systemsに共通の利点だが、検証作業などで日本オラクルの全面的なバックアップを得たことも短期間でのスムーズな移行に大きく貢献した。粟村氏は、「私たちは自信を持ってOracle SuperClusterを選択しましたが、実際に移行が問題なく行えるかどうかを確かめる意味でも、事前の検証は不可欠でした。日本オラクルには、非常に短い期間で綿密な検証に協力していただけたことを感謝しています」と話す。
また、2台同時に導入したことにより本番システムに影響を与えることなく構築中の環境が使えたため、本稼働に先駆けた非常時対応の訓練を事前に行えた点も大きな安心感につながったとニチレイロジグループ本社 技術情報企画部マネジャーの藤田修氏は話す。
「今回の移行作業では、日本オラクルの検証環境を使って実運用と全く同じ環境で事前検証が行えたため、不安なく作業を進められました。本稼働に先駆けて構築中の環境を使い、DRの実施テストと非常時の対応訓練まで事前に行うことができました」(藤田氏)
同社では、大規模災害によるシステムダウンが発生した場合、DRサイトからLixxiの全サービスを再開する目標復旧時間を約1時間に設定している。藤田氏によれば、本稼働前に実施したテストに加えて、今後の定期的な訓練を通じて、災害発生の時間帯や状況にかかわらず目標達成が可能な復旧シナリオを検証していくという。
構築作業を担当した日立フーズ&ロジスティクスシステムズの村山佳久氏(ソリューション第二事業部 事業部長)は、「Oracle SuperClusterによる新たなLixxiはOracle DataGuardを軸に構築し、災害発生前とのデータの差異を全てのアプリケーションで最小化できる仕組み作りを目指しました。当社とニチレイロジグループ、日本オラクル、協力会社がディスカッションを通じて知恵を出し合ったことで、多くのノウハウが生まれました」と語る。
ニチレイロジグループによる物流基幹システムのBCP対応は、「当初予定したよりも早期に、なおかつ高いレベルで実現できました」と粟村氏は評価する。BCPの取り組みには、システム面の対応だけではなく、設備での対応、組織としての行動計画なども含まれており、これらを日々の教育と訓練を通じて洗練させていく必要がある。業務遂行を支えるシステムのDR対応が早期に完了したことは、これらの取り組みを加速させる上でも、同社と同社の顧客にとって極めて大きな価値を持つ。
ニチレイロジグループは、Oracle SuperClusterによる新システム基盤の完成を受け、法人や個人事業主によるBCPへの取り組みを第三者機関の審査に基づいて認証する公的制度「レジリエンス認証」を取得した。レジリエンス認証は内閣官房国土強靭化推進室が作成した「国土強靱化貢献団体の認証に基づくガイドライン」に基づき、大規模災害などによるダメージから迅速に立ち直り、事業を再開できる「復元力」「弾力性」を持つ企業/組織であることを公に示すものだ。
「ニチレイロジグループは、ブランドスローガンである『選ばれつづける仕事。』の理念に基づき、取引先の事業継続に寄与することを目指しています。基幹システムのDR対応を含め、BCPへの取り組みを短期間でこのレベルまで進められたことは、私たちにとって大きな自信となりました。今回の取り組みで得たBCPに対する多くの知見を基に、今後も持続可能な物流サービスのライフラインとして『システムのBCP』の先進的な取り組みを実践していきたいと思います」(粟村氏)
また、今回の物流基幹システムのDR対応は、システム基盤としてOracle SuperCluster M7を採用したことで、結果的に業務処理の迅速化にも大きく貢献している。例えば、日常的なオンライン処理で従来は約40秒かかっていたものが約2秒、約5分を要していたバッチ処理が約2分で完了するといった具合だ。
「これらの短縮された処理時間が積み重なることで、Lixxiを利用している従業員の仕事の迅速化を通して、お客さまへのサービス提供の効率化にも大きなインパクトを与えられるものと考えています」と粟村氏は新システムの性能向上を歓迎する。
また、ニチレイロジグループでは、今回採用したOracle SuperCluster M7の潤沢なリソースと高い処理性能を、同社事業のさらなる成長につながるシステムに活用することも検討している。技術情報企画部では、2016年以降の重点テーマとして「業務革新」「事業成長」を挙げている。
「BCP強化に向けたDR対応が『守り』のためのIT投資であるとすれば、今後はビッグデータやIoT、AIなどを活用して物流の業務革新や事業成長を実現する『攻め』にも注力していきたいと思っています。Oracle SuperClusterを採用したことで、そうした取り組みにも積極的に挑戦できる絶好の機会を得たと感じています」(藤田氏)
一方、構築を担当した日立フーズ&ロジスティクスシステムズは、Oracle SuperClusterによる基幹システムのDR対応やクラウド型のサービス提供を、他の顧客にも広く展開していきたいと考えている。
「当社は現在、食品/食品物流業界向けのクラウドサービスを展開しています。今回の経験を新たな価値として今後のクラウドサービス提供に生かしていきたいと考えています」(村山氏)
以上、ニチレイロジグループが低温物流トップ企業としての使命を果たすべく取り組んだ物流基幹システムのBCP強化プロジェクトの概要を紹介した。東西日本に設置された2台のOracle SuperClusterで実現された強靱な新システム基盤が、今後ニチレイロジグループを通して同社顧客によって形成される日本の食品物流を強く下支えしていくのである。
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提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年8月16日
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