スポンサーシップを単発的な投げ銭ではなく、継続的な支払いとしているのは、できる限り安定的な資金源としての機能を果たせるようにしたいからだという。サブスクリプション方式によって収入の浮き沈みを減らし、生活設計をしやすくすることが目的だとズーゲル氏は説明する。ただし、他のスポンサーシップ方式を求める声もできていて、今後新たな方式についても検討していくという。
現時点では、GitHubユーザーであれば誰でも自由に資金を募れるわけではない。GitHubと親会社のMicrosoftが、マッチングファンドとして援助と同額分を支援しているため、審査の上で、認められた人のみが行える。スポンサーシッププロファイルの書き方や、料金レベルの設定についても、各開発者と話し合った上で行っているという。
OSSに関わっている人々の金銭的ニーズは多様だ。企業に雇用されていながら、OSS関連活動に専念できる人がいる一方、フリーランス開発者で、無償の活動に時間と労力を割きにくい人もいる。そしてこの中間に、さまざまな立場の人たちがいる。こうしたニーズの違いを、今回のプログラムではどう考えているのだろうか。これについて聞くと、ズーゲル氏は次のように答えた。
「全てのOSSプロジェクトがオープンに活動していますので、各プロジェクトの状況について、外から知ることは難しくないと思います。現在は審査を前提としているため、こうした問題に遭遇したことはありません。今後、スポンサーシッププロファイルに支援者が知るべき情報が掲載されていないと判断した場合、追加をアドバイスしていくことになると思います。ただし、強制することはありません」
不正防止の観点からは、Stripeなどの決済事業者と組み、本人認証の強化を図っているところだという。
関連して、OSSへの「コントリビューション」といっても、その内容は多様だ。目立ちやすいものとそうでないものがある。資金サポートが、目立ちやすいコントリビューションをしている人に集中してしまう危険性はないか。この点について、ズーゲル氏は次のように話す。
「OSSプロジェクトはプログラマーだけで成り立っているわけではありません。ドキュメントを書く人、デザインを行う人、ミートアップを開催する人などによる、さまざまな角度からの貢献で成り立っています。GitHub Sponsorsではプログラム以外の貢献を非常に重要だと考え、こうした活動も対象に含めています。また、こうした貢献は、必ずしもプルリクエストなどの形で表れません。従って、どのように可視化できるのかを検討しています。一部のOSSコミュニティーでは、さまざまな貢献に対する認知を絵文字で表現するbotを使う例も見られます。このような取り組みにインスピレーションを受けながら、よいツールを生み出したいと考えています」
「一方、開発者であっても、OSSプロジェクトが影響力を高めるに伴い、コーディングが十分できなくなるという悩みを多数聞いています。ユーザーに対する啓蒙や問い合わせ、嫌がらせへの対応に時間を割く必要が出てくるからです。こうした悩みにも少しずつ対応し、GitHubをコードだけでなくさまざまなOSSへのコントリビューションをするための、最高の場所にしていかなければなりません」
現在のところ、GitHub Sponsorsでは資金援助希望者の待ち行列が発生している。これはGitHubとして同プログラムをスモールスタートしたかったからであり、希望者が同社の想定している要件に達していないからではないと説明する。
「GitHubが支払いに関与するのは初めてのことです。このため、アプローチの適切さや、インフラの堅牢性を確認しながら進めています。とはいえ、ウエイティングリストからの招き入れを既に始めていて、今後数カ月にわたってプログラムの拡大を加速していくつもりです」
ズーゲル氏は、同プログラムの進捗状況、特に希望者の資金援助獲得状況について、今のところ満足しているという。
「特に、私が個人的にうれしいと思っているのは、『推薦』の仕組みがうまく回りつつあることです。優れた仕事をしていても、資金援助を自ら申し出たがらない人はたくさんいます。そこで私たちは、GitHubユーザーが自分の尊敬する人を今回のプログラムに加えるように推薦するフォームを設けました。これを受けてGitHubは、『あなたはこのプログラムにぴったりだと思います。(資金提供希望者として)参加しませんか』と働きかけるようになっています。こうした仕組みで、資金を必要としているものの、自分を宣伝することは得意でない素晴らしい人たちを、支援できる可能性が高まります」
GitHub Sponsorsの活動本格化に合わせ、ズーゲル氏たちが高い優先度で推進しようとしているのが、同プログラムへの企業・組織の参加促進だ。
現時点では、GitHub Sponsorsで支援を受けるのも、支援を提供するのも、個人に限られる。
「一方、ますます多くの企業がOSSを日常的に活用するようになってきました。実際、GitHubには、数多くの企業から、『自社の事業基盤を支えてくれているOSSプロジェクトを金銭的に支援したい。支援によって、プロジェクトが長く存続していけるようにしたい』といった申し出が寄せられています。結局のところ、企業や組織は強力な資金の出し手です。このため、企業によるスポンサーシップについては今後数カ月で集中的に取り組みます。関連するニュースに期待していてください」
GitHub Sponsorsでは、OSSに貢献する個人に加え、プロジェクトやチームに対する資金援助を可能にすることも検討している。ただし、こちらは枠組み作りがはるかに難しい。そこで諮問パネルを組織して、意見を聞いている段階だという。
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