ITIL 4でサービス管理業務のフローを決めよう 運用業務設計者必見のCDSを解説DX運用のためのITIL 4(2)

DX時代の運用管理者を対象に、ITIL 4の生かし方を解説する本連載。第2回は、ITIL 4のITIL 4の資格体系の一つ、運用業務設計者としてシニアレベルに達するための必須知識をカバーするCDSについて解説する。

» 2023年07月18日 05時00分 公開
[中寛之アクセンチュア]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

 前回記事で説明した通り、ITIL 4の資格体系は少しずつ拡張され、今では10個以上の資格が設定されています。

※ITILはAXELOS Limitedの登録商標

  1. FND(ITILファンデーション)
  2. CDS(作成、提供、サポート)
  3. DSV(利害関係者との価値の創造)
  4. HVIT(ハイベロシティIT)
  5. DPI(方向付け、計画、改善)
  6. DITS(デジタル&IT戦略)
  7. AMCS(クラウドサービスの活用と運用)
  8. SDIT(デジタル&ITのサステナビリティ)
  9. ITAM(アセットマネジメント)
  10. BRM(ビジネスリレーションシップ)マネジメント
  11. PM(プラクティス認定シリーズ)
  • A)(Monitor, Support&Fulfil)
  • B)(Plan, Implement&Control)
  • C)(Collaborate, Assure&Improve)

 このうち、1〜5を取得するとMP(マネージングプロフェッショナル)、1&4〜5を取得するとSL(ストラテジックリーダー)に認定されます。また、1〜6&11を取得すると、ITIL Master(ITILマスター)という最上位資格に認定されることが決まりました。ITILv3時代には英語での課題と面接が義務付けられていましたが、今回の決定によって、英語を母国語としない人は最上位資格を取りやすくなったといえます。

ITIL 4の資格体系(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

 これら資格の中で、今回取り上げるのは「CDS(Create, Deliver&Support:作成、提供、サポート)」です。

 現代のビジネス環境では、単にサービスを提供するだけではなく、その価値を創り出し、維持し、高めることが求められます。これは、サービスのライフサイクル全体、つまり設計、開発、デプロイメント、運用、そしてサポートをカバーするアプローチが必要となります。それらを一貫した流れとして統合し、最大の価値を引き出すためにはどうすべきでしょうか? さらに、これらのプロセスは組織の構造、文化、技術、そして自動化といった要素と密接に関連しています。

 ビジネスと技術の進歩は、サービスマネジメントの進化を促進し、組織全体に影響を与えます。具体的には、組織の人材、価値創出の流れ、情報技術の活用、パートナーやサプライヤーとの関係など、全てがその影響を受けています。

 ITとサービスマネジメントの専門家たちは、新しい価値を生み出すために、協力的な文化を形成し、新しい効率的な業務手法を取り入れる必要があります。組織のリーダーや実践者たちは、新たな技術とその潜在的な影響について常に学び、理解を深め、全組織的な価値創出の流れを発展させるべきです。

 また、チームや組織全体は、内部のコミュニケーションやワークフローを、包括的で、柔軟かつ効率的な方法で管理することが求められます。これらの課題に対して、CDSは解決策を提供し、機会の最大化とリスクの最小化を実現します。

CDSのコンテンツ

 CDSの内容は幅広く、ITとサービスマネジメントのプロフェッショナリズムの進化から始まり、情報と技術の活用、バリューストリームの創造、提供、サポート、そして作業の優先度付けとサプライヤー管理にまで及びます。

 まず、プロフェッショナリズムの進化では、組織や人材の変革、チームとカルチャーの構築に焦点を当てています。ITとサービスマネジメントの専門性は、組織構造、人材育成、そして文化形成という視点から見直されています。

 次に、情報と技術の活用について詳述します。ここでは、データの統合や共有、報告と分析、協働とワークフローを通じてサービスを創造、提供、サポートする方法が詳しく説明されています。RPA(Robotic Process Automation)、人工知能(AI)、機械学習(ML)などの最新の技術の応用も解説されています。また、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の手法や、情報モデルの価値、さらにはサービスマネジメントの自動化についても触れています。

 さらに、バリューストリームの作成、提供、サポートについても述べられています。ITILサービスのバリューストリームと、そのモデル化について詳しく解説しています。そして、バリューストリームを用いて実用最小限のプラクティスを定義する方法を示しています。

 最後に、作業の優先度付けとサプライヤーの管理について解説しています。作業に優先度を付ける理由と、それによる効果、そして取引とソーシングの際の考慮点について述べられています。

 CDSの内容は、運用業務設計者としてシニアレベルに達するための必須知識であり、ITサービスマネジメントコンサルタントとして価値を発揮するための基礎知識でもあります。今回は、サービスマネジメントの業務設計に必要な「サービスバリューストリーム」、それらを効率的に実現する「自動化:CI/CD」、そうした取り組みを支える「チームカルチャー」、社外を含むエンドツーエンドの「サービス統合、管理モデル」を取り上げます。

CDSの目次構成(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

サービスバリューストリームの要点

 業務遂行の最適化は、組織にとって重要な課題です。その一つのアプローチとして「バリューストリーム」の概念があります。これは、業務の流れをステップ単位に区分し、それぞれのバリューを明確にして、全体の業績向上を図るものです。サービス開始前に取り組む業務と、サービス稼働後に取り組む業務に大別できます。

 バリューストリームは「サービスバリューチェーン」というモデルで考えることができます。サービスバリューチェーンとは、製品、サービスを効果的に管理するための主要活動全てを包含する運用モデルです。具体的には、「エンゲージ」「計画」「改善」「設計および移行」「取得/構築」「提供およびサポート」の6つの要素からなり、これらが連結されてバリューストリームが形成されます。

 例えば、インシデントの種類ごとに異なるバリューストリームを作成することで、それぞれの事例に対する対応効率を高めることが可能です。「エンドユーザーのハードウェアインシデント」「重大インシデント」「サイバーセキュリティインシデント」など、インシデントの種類に応じて異なるバリューストリームを用意するとよいでしょう。

 また、一部のステップを「下位バリューストリーム」として位置付けることも可能です。これにより、業務フローをより細かく分析し、最適化の余地を見つけることができます。

 さらに、1つのリソースで複数のステップに取り組む場合は、1つのステップにまとめてしまうと、ステップ間の待ち時間を抑制できます。

 バリューストリームを最適化することで、業務フローのボトルネックを特定し、業務の効率化を図ることができます。ITIL 4の考え方に沿って取り組むことで、組織全体の生産性向上に寄与することが期待できます。

ITILサービスバリューストリーム(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

 例えば、オンライン決済アプリについて「ユーザーからの問い合わせに基づくインシデント対応」をサービスバリューストリームで整理するとしましょう。

 これはサービス稼働後におけるサービスバリューストリームに当たります。インシデントはユーザーからの問い合わせによって判明するものとして、この業務を設計するためには、業務ステップの単位で、インプット、アウトプット、望ましい成果、リードタイム、役割および責任を定義する必要があります。

 以下に示す一覧図を業務ごとに作成するとよいでしょう。

サービスバリューストリームの設計例(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

自動化:CI/CDの活用

 ITサービスの自動化手法は多数ありますが、特に「継続的インテグレーション、継続的デリバリー、継続的展開(CI/CD)」と呼ばれるアプローチが重要な役割を果たします。

 サービス要件について高い確実性がある場合、安全上の理由から大規模バッチによる展開が求められる場合でなければ、CI/CDを活用することで、システム変更の小規模かつ頻繁な展開が可能になり、同時に手作業や反復的な作業(トイル)の削減が実現します。結果として、コード変更を本番システムに迅速かつ効率的に、信頼できる方法で提供する能力が向上します。

  • 「トイル」とは、手作業や反復的な作業、自動化可能な作業、受動的な作業、改善効果が見込めない作業、処理量に比例して増える作業を指します。これらを減らすことで、エンジニアはより価値のある活動に時間を割くことが可能になります
  • 「継続的インテグレーション(CI)」は、ソフトウェアの構築を自動化するプロセスです。ソフトウェア開発の中で、コードを結合、構築、テストするアプローチです
  • 「継続的デリバリー(CD)」は、テストの自動化を含むプロセスで、いつでもソフトウェアを本番環境にリリースできる状態を保つことが特徴です。これにより、高頻度でのデプロイが可能になりますが、デプロイ自体は個々の判断に基づき手動で行うこととなります
  • 「継続的展開(CD)」は、変更の展開を自動化するプロセスで、変更がパイプラインを通じて本番環境に自動的に投入されます。これにより、高頻度でのデプロイが可能となり、迅速なフィードバックループが形成されます

 以上のアプローチは、システム変更の効率性と信頼性を高め、エンジニアの作業負荷を軽減することで、ITサービスの価値を最大化する助けとなります。

CI/CDの範囲と適用場面(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

コンピテンシープロファイルを用いて役割と職務を定義

 業務プロセスのアクティビティーにコンピテンシープロファイルを設定することで、業務の質と効率を向上させやすくなります。これらのコンピテンシープロファイルは、リーダーから技術専門家まで、それぞれの役割の重要度によってコード(L・A・C・M・T)が設定されています。

 リーダーは意思決定、委任、監督、モチベーションの提供、成果評価などを行い、管理者はタスクの割り当てや優先順位付け、記録の保存などを担当します。調整者は関係者間のコミュニケーションを保ち、啓発活動を行います。業務専門家は作業の設計と実施、手順の文書化、プロセスのコンサルティングなどを担当し、技術専門家はIT専門知識を提供し、専門的な業務を行います。

 そして、コンピテンシーに応じた人材を適切に割り当てることで、業務の質と効率を一層向上させることが可能になります。人材のスキルセットのモデルとしては、ジェネラリスト、T型、パイ型、くし型があります。

 ジェネラリストは広範囲にわたる一定のスキルを持っていますが、さらなる専門性の獲得が期待されます。T型の人材は、特定の領域に深い知識を持ちつつ、他の領域にも一定の知識を有しています。パイ型の人材は2つの領域に詳しく、他の領域にも一定の知識を有しています。そして、くし型の人材は、3つ以上の領域に詳しく、他の領域にも一定の知識を有しています。

 これらの人材モデルを理解し、適切な人材を適切な役割に割り当てるだけにとどまらず、要員の満足度を維持向上させるための取り組み(帰属意識、一体感の向上、公式定例、1on1、非公式のミーティングや面談)を設け、各人のパフォーマンス目標を定めて結果ベースの測定、評価をすることも必要です。このようなチームビルディングカルチャー醸成の努力を続けることが、ITサービスマネジメントの効果向上に寄与します。

コンピテンシーコードとプロファイル(PeopleCert社の情報を基にアクセンチュア作成)

 チームパフォーマンスを最大化するのに、協働(共通の目標に向けて他人と協業すること)という考え方は重要です。人を非難しないカルチャーが醸成されることでその力を十分に発揮します。

 そうしたチームカルチャーの開発と進化は、ビジョンの組み込み、定期的なミーティング、リーダーの育成、非公式チームの推奨、クロストレーニングの実施、社会的統合、フィードバックの提供、そして学習のカルチャーの育成といった要素から成り立ちます。これらの要素は、チームが一緒に働く意欲と効率を高め、成果を最大化するための鍵となります。

 顧客志向という視点も重要です。これには、サービスへの共感、サービスマインドセットの醸成、そして顧客志向のカルチャーが含まれます。具体的には、顧客体験とユーザー体験のジャーニーを整理し、ユーザーフレンドリーな人材を採用すること、要因の待遇を改善すること、個人とチームへのトレーニング、サーバントリーダーシップの展示、顧客の声の尊重、スタッフへの権限委譲、そして組織間のシームレスな連携などが挙げられます。これらの要素は、組織が顧客のニーズを理解し、それに応えるためのサービスを提供する上で必要となります。

組織がエンドツーエンドで連携するための最適モデル

 ITILとは別のフレームワークとして、複数のサービスプロバイダー間でサービスを統合し、単一のビジネス目標に向けてそれらを効果的に管理する「SIAM(Service Integration and Management)」があり、複数のサービスプロバイダーを使い分けるのに参照されることが多いものでした。

 ITIL 4ではこの概念に相当する、エンドツーエンドの組織連携を実現するための最適モデルを4つ定義しています。これらのモデルを検討する際には、自身の組織の特性やサービス、サプライヤーの状況を考慮し、より協調性の高い環境を目指すべきです。

  1. 保持されているサービスの統合:保有する組織が全てのベンダー管理を担い、サービスの統合や管理機能を調整します
  2. 単一プロバイダー:1つのベンダーが全てのサービスと統合、管理機能を提供します
  3. サービスガーディアン:1つのベンダーがサービスの統合、管理機能と1つ以上の提供機能を果たし、その他のベンダーを管理します
  4. サービスとしてのサービス統合:ベンダーは組織に直接的なサービス提供は行わず、サービスの統合、管理機能を担当し、他の全てのサプライヤーを管理します

 これらの統合、管理のアプローチの重要性が増しているのは、以下のような要因によります。

  • ベンダーが特定のニッチな分野に特化する傾向が強まっており、その結果として単一の組織と取引するベンダーの数が増えています
  • サービスコンポーネントの一部がコモディティ化されることにより、ベンダーが他のベンダーに取って代わられ、より良い価格設定やサービス体験を活用する可能性が出てきています
  • 技術製品やサービスの複雑性が増し、それに対応するために複数のベンダーを利用する傾向が強まっています

 サービスの統合や管理のアプローチを選ぶ際には、それが個々のベンダー契約とは別の、戦略的に重要で複雑な契約であることを理解する必要があります。そして、明確な組織構造と、適切なガバナンスや管理モデルを確立することが求められます。

サービス統合および管理モデル(作成:アクセンチュア)

 CDSは、サービスの価値を創造し、提供し、サポートする方法に焦点を当てています。サービスの設計、開発、デプロイメント、運用およびサポートをカバーし、これらのプロセスを効果的に統合する方法を提案するものであり、適切な組織構造や文化、技術や自動化などの要素も考慮に入れています。サービスマネジメントにかかわる業務設計をする際、ぜひ活用してみてください。

 次回は、DSV(Drive Stakeholder Value、利害関係者との価値の創造)を解説します。

著者プロフィール

中 寛之

アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントクラウド イネーブラー グループ アソシエイト・ディレクター

ITサービスマネジメントの専門家として15年以上のコンサルティング経験を持ち、SREを扱う組織のco−Leadを担う。多くの業界で経験を有し、特に金融業界での運用コンサルティング案件、クラウド戦略案件を数多く手掛け、ITサービスマネジメントの高度化、ロードマップ策定、運用組織変革、SaaSツール導入などに強みがある。

ITIL 4に関して、豊富なコンサルティング経験に加え、講演、寄稿を通じてマーケットへ情報を発信するなど造詣が深い。ピープルサート社からの依頼に基づく、ITIL 4/DevOps/DevSecOps/SRE等のフレームワークのアドバイスとレビューも担当している。2022年に『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP社)を刊行した。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

4AI by @IT - AIを作り、動かし、守り、生かす
Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。