CiscoやJuniperを「古いネットワークベンダー」と呼び、こうした企業の牙城を崩そうとする新興企業がある。どういう根拠があるのか。ネットワークの世界にどんな変化をもたらそうとしているのか。会長兼CEOに直接聞いた。
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ネットワークの世界で、Cisco SystemsやJuniper Networksに対抗すると宣言している、Arrcus(アーカス)というスタートアップ企業がある。日本市場への進出を発表するため2023年8月末に来日した、会長兼CEOのシェイカー・アイヤー(Shekar Ayyar)氏に、その根拠を聞いた。
まず、アイヤー氏はArrcusの目的を一言で表現すると、「VMwareがサーバの世界でやったことをネットワークで実現し、ネットワークをシンプルでコスト効率がよく、プログラマブルなものにすること」だと話した。
同氏によると、サーバはサイロ化された世界だったが、VMwareが仮想化を持ち込むことで大きく変わった。ハイパーバイザが抽象化レイヤとなり、さまざまなハードウェアの違いを吸収して均一な運用環境をもたらした。
「ネットワーク業界はこれに比べて約25年遅れている。人々はいまだにサイロ化されたネットワーク機器を買い、データセンターラック、基地局、エッジ、アグリゲーションポイント、ネットワークコアなどでバラバラに動かしている。さまざまなフォームファクタのハードウェアに対応できる単一の共通な抽象化レイヤが存在しない。コンパクトにネットワーク機能を実行でき、自在にプログラミングできるプラットフォームがない」(アイヤー氏、以下同)
企業のデータセンター、通信事業者、クラウドといったさまざまな分野でネットワーキングを共通化し、一貫性をもたらす技術を提供しているところに、Arrcusの根本的な革新性があるという。
Arrcusは複数ネットワーク機器ベンダーのハードウェア上で動くネットワークOS、「Arc OS」を開発・提供している。アイヤー氏が「抽象化レイヤ」と言っているのはこのことだ。
ネットワークOSによるハードウェアとソフトウェアの分離というと、Open Compute Projectで行われてきた取り組みを思い出す。OCPがネットワークプロジェクトで対象としてきたのはデータセンターのToR(トップ・オブ・ラック)スイッチであり、比較的シンプルなネットワーク機器に関する動きだというイメージもある。
だが、アイヤー氏はこれを否定する。Edgecore NetworksやQuanta Networksなどのホワイトボックスベンダーは多様なネットワーク機器を提供するようになっている。ネットワークチップの選択肢も広がっている。ローエンドからハイエンドに至る多様なハードウェア上で、高度なネットワーク機能を共通に提供すれば、ネットワーク構成の柔軟性を高められる。言い方を変えれば、ハードウェアベンダーを選ぶのではなく、導入場所や用途に応じたハードウェアを選び、組み合わせればいい。ネットワーク機器の供給不安への対処という意味でも有利だと、アイヤー氏は話す。
Arc OSは仮想マシンやコンテナ上でも動作する。これにより導入場所や用途をさらに広げることができ、機動的で柔軟なネットワーク構成につながるという。
アイヤー氏はArrcusの提供するオーケストレーション/運用基盤のメリットについても力説する。パートナーはAPIを使い、特定のユースケースのためのネットワーク全体をカバーするアプリケーションを書くことができるとしている。
ではより具体的に、ユーザーはArrcusを使うと何がうれしいのか。
Arrcusでは特に「5Gネットワーク」「マルチクラウド接続」「企業のデータセンターネットワーク」の3つのユースケースに力を入れているという。これらのユースケースを通じて、TerraformやAnsibleなどのツールを使い、構成の自動化が図れる。
このうち、5Gネットワークへの適用では、基地局からネットワークコアまで、SRv6を活用したエンド・ツー・エンドのネットワークサービスを提供できる。これはユースケースとして分かりやすい。5Gネットワークでは仮想化/ソフトウェア化を進めながら、ネットワークスライシングなど高度なサービスを実現していく必要があるからだ。
Arrcusは、ソフトバンクが商用ネットワークで実施しているSRv6 MUPのフィールドトライアルに参加しているという。
マルチクラウド接続では、企業が各種パブリッククラウドと自社データセンター、エッジを結ぶWANを構築し、単一のネットワーク/セキュリティポリシーで統合管理できる。
「クラウドエクスチェンジ」などと呼ばれるサービスを行っているコロケーション事業者との連携も行っている。EquinixではマーケットプレースでArrcusを購入し、導入できる。Equinixと同様なコロケーション事業者のCoreSiteでは、同社のクラウドエクスチェンジサービスの裏でArrcusが使われているという。
日本ではこうしたクラウドエクスチェンジの利用がよく見られるが、欧米ではユーザーがArrcusを直接使い、マルチクラウド接続を行うケースが多いという。この場合、当然ながらユーザーは自由なトポロジーでマルチクラウド接続を実現できる。クラウド利用チームとネットワークチームの間で、ポリシーの統一ができる。
第3のユースケースでは、EVPN-VXLANなどを使い、データセンター内でCLOSアーキテクチャのネットワーク構成ができる。
アイヤー氏はデータセンターにおける生成AIの利用が進んでくると、分散するGPUなどの演算リソースを、複数のユーザー組織がネットワークセキュリティを保った上で利用できる環境が必要になると話した、このため現在よりもさらにスケーラブルで動的に構成を変化させられるネットワークが必要になると強調している。
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