DX時代の運用管理者を対象に、ITIL 4の生かし方を解説する本連載。第3回は、ITIL 4の資格体系の一つ、カスタマージャーニーに関する7つのポイントを取り上げ、それがどのように顧客や関係者の体験を向上させるかについて解説した資格体系の一つ「DSV(Drive Stakeholder Value:利害関係者との価値の創造)」を取り上げる。
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前回は、ITIL 4の資格体系は少しずつ拡張され今では10個以上の資格が設定されていることを紹介しました。これら資格の中で、今回取り上げるのは「DSV(Drive Stakeholder Value:利害関係者との価値の創造)」です。
※ITILはAXELOS Limitedの登録商標
DSVはカスタマージャーニーに関する7つのポイントを取り上げ、それがどのように顧客や関係者の体験を向上させるかを教えてくれます。カスタマージャーニーとは、サービスや製品を使用する際の消費者の経験や感じることを時系列に沿ってマッピングしたものです。これは一直線ではなく、新しい接触点やサービスの関わりに立ち寄りながら進めるのが通常です。
サービスとはただの商品作りではなく、さまざまな関係者との共同作業で価値を生み出すものです。そして、それぞれの接触点やサービスとの関わりで顧客の体験が生まれます。そのため顧客の満足度を高めるには、それぞれの接触点で素晴らしい体験を提供することが大切です。
DSVは関係者の価値を最大化することの重要性を認識し、そのための7つのポイントを使って、組織と顧客やパートナーとの関係の変化をうまく管理する方法を強調しています。
ITやサービスのプロフェッショナルは、組織や顧客、その他の関係者の価値を大切にし、今の時代のニーズをサポートするコミュニティーを築くべきです。
DSVで最も重要な概念は「サービス関係モデル」と「カスタマージャーニーマップ」です。
サービス関係モデルは、ビジネスや組織内で提供するサービスとその利用者や他の関連するパーティー間の関係を理解し、整理するためのフレームワーク、または考え方です。これにより、サービスの提供者と利用者の間の期待や役割、責任などが明確になります。
これは、サービスの提供者と利用者の間にある最も基本的な関係を示しています。ここでは、サービス提供者が何を提供し、利用者がそれをどのように使用するか、その基本的な枠組みや契約を示します。この関係の中では、双方の期待値や役割は明確で、比較的シンプルです。
この関係のレベルでは、双方が協力し合い、より深いレベルでのコミュニケーションや共同協同作業が必要とされる場合があります。サービスの提供者と利用者の間で共通の目標やビジョン、資源、情報などが共有されることが特徴です。ここでは、双方の信頼関係が非常に重要となります。
この関係レベルでは、双方が長期的な関係を持ち、共同でビジネスやプロジェクトを運営していくことを意味します。これは、双方が相互の成功に深く関与し、リスクや報酬を共有する関係です。ここでは、双方の深いコミットメントや戦略的な協力が求められます。
このサービス関係のうち、特に「協力的な関係」と「パートナーシップ」は、カスタマージャーニーの7つのステップを通じて、顧客に価値を提供します。
サービス消費者がサービスプロバイダー、製品、リソースと接触するイベントをタッチポイントと呼び、各タッチポイントでの体験満足度を高め、ジャーニー全体でサービス消費者の期待を満たすようにします。効果的に構築、活用するためには、以下の3点を明確にすることが重要です。
カスタマージャーニーを構築する際の主要なアクターは誰か。この人物(またはグループ)の背景、ニーズ、価値観などを理解することで、その後のステップの精度を高めることができます。
サービスを利用する背景やモチベーションは何か。この理解を基に、具体的なペインポイントや潜在的なニーズを特定できます。
顧客が求める最終的な価値やゴールは何か、そしてそれを達成するための具体的なアクションやステップは何か。この情報は、サービス改善や新機能開発のヒントになります。
これらの基本的な要素に加え、カスタマージャーニーの目的や複雑度合い、性質に応じて、製品の特徴やデータソースなどの属性をマップに追加することで、より詳細かつ有益な情報を得られます。これにより、サービス提供者は消費者の体験を深く理解し、その結果を基にサービスの質を向上させる取り組みを進めることができます。
また、サンフランシスコ州立大学の心理学者であるジョー・ルフト氏とハリー・イングラム氏によるフレームワーク「ジョハリの窓」にある「盲点の窓(自分は知らないが他者は知っている自分の姿)」という概念を取り入れることで、自分たちが気付いていない顧客のペインポイントやニーズを可視化することができます。この「盲点の窓」を明らかにし、それに基づいて改善を進めることで、サービスの質をさらに高めることができるのです。
カスタマージャーニーマップの役割は、顧客の意見、動機を理解し、体系的に測定、得られた情報を継続的フィードバックに組み込むことにあります。その中で以下の要素を考慮することが重要です。
カスタマージャーニーの効果的な運用のためには、測定と改善のプロセスが不可欠です。まず、顧客の体験とフィードバックを定期的に収集し、それに基づいてサービスの改善点を特定します。利害関係者の行動や分析データをタッチポイントやサービスのやりとりごとに収集することで、ジャーニー全体を通じての改善点や新しい機会を発見することができます。上流からの測定を開始し、主要なカスタマージャーニーとその性能やアウトプットの間接的指標に注力することを推奨します。
さらに、デザイン思考のプロセスを取り入れることで、カスタマージャーニーの質を高めることができます。デザイン思考は、ユーザー中心のアプローチであり、まず彼らの行動を観察し、彼らのニーズや感情に共感することから始めます。具体的には、サービス利用前、サービス体験中、サービス利用後の3つのステップでその体験を可視化します。そして、顧客がサービスの良さを思い出すための物的証拠やタッチポイントを設計することで、より良い顧客体験を提供することができるのです。
なお、筆者の所属するアクセンチュアでは「Living System」という考え方があります。高頻度で高品質なリリースサイクルを実現するためにデザイン思考、DevOpsを組み合わせることで、カスタマージャーニーの効果を拡大させることができるというものです。
今回はDSVで重要な「サービス関係モデル」と「カスタマージャーニーマップ」の概念について解説しました。次回は7つのポイント(ステップ)を具体的に紹介します。
アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 インテリジェントクラウド イネーブラー グループ アソシエイト・ディレクター
ITサービスマネジメントの専門家として15年以上のコンサルティング経験を持ち、SREを扱う組織のco−Leadを担う。多くの業界で経験を有し、特に金融業界での運用コンサルティング案件、クラウド戦略案件を数多く手掛け、ITサービスマネジメントの高度化、ロードマップ策定、運用組織変革、SaaSツール導入などに強みがある。
ITIL 4に関して、豊富なコンサルティング経験に加え、講演、寄稿を通じてマーケットへ情報を発信するなど造詣が深い。ピープルサート社からの依頼に基づく、ITIL 4/DevOps/DevSecOps/SRE等のフレームワークのアドバイスとレビューも担当している。2022年に『ITIL 4の基本 図解と実践』(日経BP社)を刊行した。
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