MM総研の調査によると、政府共通のクラウド基盤「ガバメントクラウド」の認知度は25%にとどまる一方、「国産クラウドを利用すべき」が81%に上ったという。
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企業のクラウド活用が進展し、国も「クラウド・バイ・デフォルト」原則の下、政府共通のクラウドサービスである「ガバメントクラウド」の取り組みを推進している。ガバメントクラウドとは、地方自治体や政府機関が共通で利用するクラウドサービス環境のことで、行政システムの統一、効率化を目的としている。
デジタル庁はこれまでに、ガバメントクラウドで利用できるクラウドサービスとしてAmazon Web Services、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureの4つと、2025年度末までに全ての要件を達成することを条件として、さくらのクラウドを採択している。
では、このガバメントクラウドの取り組みについて、国民にはどこまで認知されているのか。
MM総研が実施した「ガバメントクラウドに関する国民意識調査」(調査期間:2025年3月)によると、ガバメントクラウドの認知度は25%にとどまった。一方で、81%の回答者が「国産クラウドを利用すべき」と回答。さらに、クラウドに関する主権の重要性について「データ主権」を最も重視していた。
また個人情報(データ)を活用することで便利にしてほしい分野は、「医療、健康」「ライフライン(電気、ガス、水道)」「消防、防災」が上位となった。MM総研は「その中でも、戸籍関連や国民健康保険などの情報は国産クラウドに保存すべきとの声が特に高かった。主権を確保しながらデータを活用することで、社会インフラを支えてほしいという声が根強くある」と分析している。
データ主権は企業のクラウド活用においても重要な観点となる。企業が扱う機密情報の中には、特定の業界規制や国内法に基づき、国外への持ち出しが厳しく制限されるデータが存在する。例えば、金融機関や医療機関が扱う個人情報などだ。グローバルなクラウドサービスを利用する場合、データが海外のリージョンに保存されることで、意図せず保存先の国の法律が適用されるリスクがある。
MM総研は「国内大手SIベンダーも『ソブリンクラウド』を打ち出しているが、実態としては外資系クラウドの製品をOEM(相手先ブランドによる生産)に近い形態で提供している。また自治体向けのパッケージベンダーも海外クラウドと提携し、製品提供を進めている。こうした状況から自治体側も国産のガバメントクラウドを選択しづらい実情がある」とする上で「政府がクラウドプログラムを特定重要物資の一つと定めていることから、国産クラウドを推奨すべき用途などを整理することが必要だ」と述べている。
なお、2025年8月7日にデジタル庁が公表した「さくらのクラウドの開発計画の進捗状況について」によると、2025年6月末時点で「現時点では開発計画全体に影響はないものの、体制および計画の見直しが必要となる開発項目がある」という。
多くの企業がコストや技術的な優位性から海外のクラウドサービスを積極的に採用している今、顧客の機密情報や個人情報をクラウドサービス上で扱うことを検討する場合は、主権リスクを十分に考慮すべきだ。自社のデータをクラウドに置く場合、どのような法的リスクに晒されるのか、どう対策をすべきか検討する必要がある。加えて、ガバメントクラウドの取り組みに関わる企業や地方自治体は、さくらのクラウドの進捗(しんちょく)も注視する必要があるだろう。
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