生成AI活用。急速に充実する支援環境と問われる企業の活用スタンス。
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生成AI(人工知能)活用が多くの企業に広がる一方、活用成熟度はこれからという段階にある。課題として目立つのは業務プロセスの棚卸しと改善、AI活用を支えるデータセットやデータ基盤の整備、組織観点で言えばAI活用を全社プロジェクトとして推進するリーダーシップの不在などが挙げられる。
例えば、デロイト トーマツ グループが2025年8月28日に発表した「プライム市場(東京証券取引所の上位の株式市場)の上場企業における生成AI導入に関する調査結果」(売上高1000億円以上の企業で部長以上の役職者700人が有効回答)によると、回答者の97.7%が「生成AI導入は有益」と回答した。
だが「全社的に導入している」割合は47.0%。前回調査の26.4%から20ポイント増加したが、「ほとんどの社員が利用している」は18.5%。「全社的に導入している」が必ずしも「全社プロジェクト」を意味していないか、プロジェクトが十分に機能していない状況がうかがえた。また、「競争優位性が向上した」は56.6%で2024年の39.3%から拡大した一方、「ほとんど変化していない」という回答は32.7%に。生成AI社内利用の課題は「データ活用不足」(44.8%)、「社員の理解不足」(44.5%)、「機能不足」(42.3%)と続いた。
デロイト トーマツ グループは「生成AI利用が広がる企業ほど『事業構造の変革』を重視する割合が高くなる傾向が明確になった」と分析している。10年以上続くDX(デジタルトランスフォーメーション)トレンドと同じく、既存業務の局所的な効率化など、現場任せの表層的なAI実装にとどまるのか、トップのリーダーシップの下、業務プロセスそのものの変革に踏み込めるか、企業のスタンスが問われているといえるだろう。
そうした中、昨今は「全社的な生成AI活用プロジェクト」を伴走支援するサービスが増えてきた一方、製品/サービスを開発・提供する取り組みにも各ベンダーが力を入れつつある。2025年9月17日にIBMが発表した「IBM AI Lab Japan」もその一つだ。年次イベント「Think Japan」で、顧客企業やパートナー企業との連携を通じて、「日本におけるAI製品・ソリューションの共創を推進する取り組み」として発表。2025年10月に立ち上げる計画だという。
AI Lab Japanでは、AIエージェントを含む業務アプリケーションから、AIモデルなどを管理するAIソフトウェア、ハイブリッドクラウド環境で構成されるIT基盤、AIが稼働するためのチップなどAIハードウェアまでを対象とした「フルスタックAI」の活用を促進。「日本企業がAIの利点を享受できる環境を提供する」他、昨今「データ主権」といったキーワードとともに注目されている「ソブリンAIの確立」にも取り組んでいくという。
具体的には大きく3つに取り組む。1つは「日本市場向けのAI製品の開発・実装支援」。IBMの東京ラボラトリー内にAIに特化したソフトウェア/ハードウェアの開発拠点を設置し、IBMの海外開発部門と連携しながら、日本企業特有のニーズに即したIBM製品の開発・改良を加速させる。
2つ目は「AIソリューションの共同開発」。IBMやパートナー企業が提供するAIエージェントを活用して、顧客企業がより迅速にAIエージェントを利用できるようにするためのソリューション提供を目指す。具体的には、企業内データとAIを安全かつ効率的に運用できる統合的なAI管理基盤を設計・開発する他、規制の厳しい産業におけるAI活用促進に向けて、ソブリンAIや業界特化型AIの開発にも注力する。
3つ目は「AIを組み込んだ製品・ソリューションの共同開発」。IBMが提供する業界向けソリューションと、顧客企業やパートナー企業が提供する製品や業務アプリケーションへのAIの組み込みを通じて、製品/ソリューションの付加価値向上を支援するという。IBMはこれらを通じて、「成果の一部をオープンソースコミュニティーに提供」することも含めて「日本におけるエンタープライズAIの発展に貢献」するとしている。
なお、IBMは同日、日本市場における「AI」「ハイブリッドクラウド」「ヘルスケア」の領域で「富士通との協業を検討する」ことも発表している。AI領域では、両者の業務知見、LLM(大規模言語モデル)、AIガバナンス、AIオーケストレーションなどの知見とアセットを持ち寄り、業種特化/業務特化型AIの開発、統合AI基盤構築における協業を検討するという。
ハイブリッドクラウド領域でも両社が持つアセットを持ち寄り、国内関連法令/規制に適合したシステム環境構築を目的としたデータセンター事業の連携をはじめ、顧客企業環境への運用自動化、FinOpsの適用推進を検討。モダナイゼーションのためのハイブリッドクラウド環境への移行作業についても協業を検討していく。ヘルスケア領域でも両社の医療データプラットフォーム連携やこれを使ったAIサービスの協業検討を進める。
AI活用が注目され始めた当初から、AIを生かすためのデータマネジメント、インフラ刷新など、従来課題が改めてフォーカスされてきたが、そのための支援環境は着実に充実しつつあるようだ。一方で、組織文化から業務を支える仕組みの変革まで、全社をスコープに入れた取り組みが求められることは、こうした取り組みからもうかがえる。支援が急速に充実していく中で、それを利用する企業はどう取り組むのか。“デジタル”に対するスタンスが今改めて問われている。
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