Broadcomが数社を除く全ての国内VMwareクラウド事業者に契約解除を通告し、大混乱が起きている。契約を打ち切られた事業者は、2025年11月以降新規契約ができなくなる。事業者だけでなく、ユーザーも大きな影響を受ける。
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日本のVMwareクラウドサービス事業者の間で今、激震が走っている。大多数の事業者が、突如としてサービスの終了をBroadcomから通告されたからだ。日本は一時、VMwareをクラウドサービスとして使うユーザーが多い国として知られていた。事業者のみならず、ユーザーへの影響は大きい。
Broadcomは2025年7月15日、全世界のVMwareクラウドサービスプロバイダー(「VCSP」)パートナーに対し、現行プログラムを終了すると通知した(この件についてBroadcomはブログなどでの公的な説明をしていない)。代わる新プログラムへの加入の可否については、各パートナーに対して個別に知らせた。新プログラムに加入できないということは、サービス提供契約の終了を意味する。
新プログラム加入可、つまりサービス提供契約更新の通知を受け取った日本国内の事業者は数社しかなく、大多數の事業者が契約を打ち切られる。大規模にサービスを展開している著名なIT企業でも、契約を継続できないケースが出ている。
こうした大企業の中には、その後の交渉により復活できたところもある。結果として、本記事執筆時点で契約継続が確定したのは6社(グループ企業を入れると約10社)だという。2024年に35社いたVCSPの大部分が消えることになる。
契約を打ち切られる事業者に対し、Broadcomは次のスケジュールを提示している。
なお、多くの既存契約が満了を迎える日付として、Broadcomは2027年3月31日という目安を示している。契約解除事業者は、基本的にこの時点でサービスを終了することになる。
ただし例外がある。VMwareクラウドサービスにはシングルテナントとマルチテナントがあるが、シングルテナントで顧客がライセンスを持ち込む場合はサービスを継続できるとされる。
実はBroardcomにとって、VCSPプログラムの再編は初めてではない、2024年3月に買収完了前から存続していたプログラムを終了し、新プログラムを発足させた。その際には中小事業者の切り捨てという批判を受け、「ホワイトラベルプログラム」という仕組みを残していた。これは、上位ランクの事業者のライセンスやサポートを活用し、中小事業者が自社のハードウェアを使ってサービスを提供できるというものだった。
今回、ホワイトラベルプログラムは廃止になる。それだけで、この仕組みを使ってきた中小事業者は全滅だ。
だが、今回は「中小事業者切り」というレベルの話ではない。「大中小事業者切り」だ。
契約打ち切り宣告を受けた大手企業、そして他の関係者からも「選定基準がよく分からない」との声が聞こえてくる。当然ながら残ったのは大規模な事業者だが、単純に販売実績のトップ数社が選ばれたとは考えにくいとの指摘がある。
では、Broadcomはなぜ日本でこれほどまでにVCSPを減らすのだろうか。
まず、同社は全世界で、VCSPだけでなくライセンス再販業者の数も大幅に削減している。
これは「超高級車専業メーカー化」戦略の一環だと形容すると分かりやすそうだ。Broadcomはミドルクラスの車種を次々に切り捨て、「VMware Cloud Foundation(VCF)」という名の最上位車種にリソースを集中している。超高級の1機種(およびそのサブセット版)のみであれば、多数のディーラーを持つ必要はない。これを多数購入してくれる少数の富裕層に対して、利益率の高いビジネスができるパートナーさえいればいいと考えているのだろう。
その上で、ある関係者は日本における売り上げの小ささを指摘する。市場規模から考えれば、VCSPは数社で十分と考えているのではないかという見立てだ。ちなみに日本のライセンス再販パートナーについては、600社から61社に削減されているという。
米国のITニュースメディアCRNは、新VCSPプログラムを考案したアフマール・モハマド(Ahmar Mohammad)氏の次のような説明を紹介している。
「Broadcomはハイパースケーラーになるつもりはない。世界中にデータセンターを持っているわけではない。CSPは次善の策だ。こうした企業はハイパースケーラーと競争し、実行可能な代替手段を提供できる。この定義を適用すると、実際に基準を満たすパートナーは少数であり、当社はこうしたパートナーたちに招待状を送付した」
想像を加えると、この発言は次のように解釈することができる。
今後の大企業のITにおける焦点はAI(人工知能)。オンプレミス回帰の動きがある一方、クラウドでやりたいというニーズも根強い。ならば、Broadcomはメジャーパブリッククラウドと直接競合する。そこで、AI開発・運用基盤として位置付けているVCFのサーバ/GPU仮想化、ネットワーク/セキュリティ、モニタリング、アプリケーション基盤(「Tanzu」)などの機能を駆使し、大企業が求める複雑なAI基盤を運用できる少数精鋭のパートナーに絞った。
パートナーの選択が適切なのかどうかは別として、AIにおけるハイパースケールクラウドとの大口顧客の取り合いに向けた戦略だと考えれば、理由が全く分からないとはいえない。
打ち切り宣告を受けた事業者にとって、上述の通りシングルテナント顧客については持ち込みライセンスを使った対応が選択肢の一つとなる。だが、マルチテナントにはそうした例外がないようだ。
いずれにしても、契約を解除された事業者にとっては、パブリッククラウドのVMwareサービスを含む残存事業者に自社顧客のワークロードを移行するか、VMware以外の仮想化基盤を自社で運用し、顧客の誘導を図るかの選択を迫られる状況になっている。
そこで代替選択肢への関心が高まっている。これまでVMware以外の技術を使ったサーバ仮想化サービスを並行して提供してきた企業もある。これらを含め、KVMベースなど新旧の仮想化基盤管理製品を検討する動きが広がっている。
ユーザーはこうした状況の影響を直接受けることになる。契約期間中は利用を継続できるとはいえ、自社が利用している事業者への確認と対策が必要になっている。
今回取材した関係者が一様に指摘するのは「Broadcomリスク」だ。これまでもBroadcomはユーザーやパートナーへの影響が大きい変更を唐突に、何度も繰り返してきた。クラウドパートナーに対しても同じだ。広くは知られていないものの、値上げやライセンス条件などを細かく変更してきたという。
VCSP契約を継続できた事業者であっても安心ではない。今後も値上げやさらなるパートナー集約など、無理難題を突如として押し付けられかねない。
「いつ何をやってくるか分からない」。Broadcomのもたらす不確実性が、各社の事業リスクに直結している。
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