「こういうアプリが欲しい」といった“雰囲気”(=Vibe)をAIに伝え、対話を通じてコードを生成していく新しいプログラミングスタイル。厳密な仕様や細かな指示を与えなくても、AIが意図をくみ取り、実際のコードとして形にしてくれるのが特徴。高度な専門知識がなくても試せるため、非エンジニアにも広がりつつある。
バイブコーディング(Vibe coding)とは、アイデアの「雰囲気やノリ」(=Vibe)を大事にして、人間が普段使う言葉(日本語や英語などの自然言語)でAIに指示や会話をしながらコードを作っていく、新しいソフトウェア開発のスタイルである。従来のように細かい仕様書やプログラムの書き方を最初から決めるのではなく、「こういうアプリが欲しい」といったラフな感覚や直感をAIがくみ取り、実際のコードとして形にしてくれるのが特徴だ(図1)。
この用語は、アンドレイ・カルパシー(Andrej Karpathy)氏が提唱したことで知られる(参考:2025年2月3日のXポスト)。彼はその中で、バイブコーディングを「雰囲気に完全に身を委ね、指数関数的な成長を受け入れ、コードそのものの存在を忘れてしまうような、新しいタイプのコーディング」(There's a new kind of coding I call "vibe coding", where you fully give in to the vibes, embrace exponentials, and forget that the code even exists.)と表現している。
こうした考え方は、プロの開発者(ソフトウェアエンジニア)だけでなく一般の人(非エンジニア)にもソフトウェア開発の可能性を広げつつあり、教育や趣味など幅広い分野で非エンジニアがコードを生成する場面が増えつつある。
バイブコーディングは「熟練の職人と相談しながら即興で何かを作り上げる」スタイルに近いかもしれない。そこから生まれる主なメリットは以下の3つである。
1. あいまいな指示からのコード生成
最大のメリットは、「もっとモダンな感じのUIにして」「この操作にワクワクするようなアニメーションを追加して」といった、数値化しにくい感覚的な指示からAIがコードを生成してくれる点だ。これにより、開発者は頭の中にある漠然としたイメージをすぐに形にできる。
2. 対話的・反復的な開発プロセス
バイブコーディングは、一度の指示で完成させるのではなく、AIとの対話を通じて試行錯誤を繰り返すのが基本である。生成されたコードに対して「やっぱり、もう少しシンプルにして」「この部分の色を変えてみて」といったフィードバックを重ねることで、理想のイメージに近づけられる。
3. アイデアを即座に形にするスピード感
仕様書作成や詳細設計といった工程を大幅に短縮できるため、アイデアを思い付いた瞬間にプロトタイプを作成できる。このスピード感は、開発者の創造性を刺激し、新しい表現やイノベーションにつながるはずだ。
バイブコーディングが活用される場面としては、以下のような例が挙げられる。
バイブコーディングはまだ発展途上の概念であり、幾つかの課題も指摘されている。
前述の「課題」に関連して、バイブコーディングを実際に試した読者の中には「思ったように動かない」「指示と異なるコードが出てしまう」「バグ(不具合)を直すと別のバグが出てきて終わりがない」といった経験をした人も少なくないだろう。こうした問題は、実際にバイブコーディング実践者の間で繰り返し報告されている。
こうした反省から、バイブコーディングを補完する形で「仕様駆動開発」と呼ばれる新しいアプローチが注目され始めている。典型的な手順としては、いきなりコードを生成するのではなく、まずAIに「仕様書を作成して」と指示し、その仕様書を土台にコードを生成するという流れである。バイブコーディング自体も進化の途上にあり、今後はこうしたノウハウや工夫を取り込みながら、より実践的で信頼性の高い開発スタイルへと洗練されていくと予想される。
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