中小IT事業者が知っておきたい「Microsoft Azure」を提案、導入するための基本のキ〜Azureをお勧めするこれだけの理由中小IT事業者のためのAzureクラウド提案実践ガイド(1)

本連載は、中小IT事業者が「Microsoft Azure」を利用したITインフラやITシステムをエンドユーザーに提案、導入する方法を解説していきます。第1回は、クラウド移行に必要な基礎知識やクラウドの責任共有モデルの理解、運用コストの価格決定モデルへの組み込み方法について触れ、中小IT事業者にMicrosoft Azureをお勧めする理由を解説します。

» 2025年10月07日 05時00分 公開
[黒木武範株式会社インテルレート]

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連載目次

中小IT事業者がクラウド提案を始めるために

 企業にとって、ITインフラとしての「クラウド」の活用は、ビジネスの成長や効率化を加速させる重要な手段となっています。最近では“DX(デジタルトランスフォーメーション)推進”や“生成AI(人工知能)活用”による、さらなる組織変革や成長、効率化を目指すといったことの方がキャッチーで、クラウドを利用すること自体は既に当たり前感が強くあるでしょう。

 しかし、実態として、地方に拠点を置く多くの中小企業では、まだまだクラウド活用は進んでいないようです。SaaS(Software as a Service)利用はある程度進んではいるものの、オンプレミスサーバの利用を前提としたITインフラのクラウド移行は進んでいないというのが筆者の肌感です。

 具体的な数値として示したいところですが、総務省の『情報通信白書』では、クラウドサービスの利用状況に関する調査はあるものの、SaaSもクラウドサービスの利用にカウントされているため、オンプレミスサーバそのものを対象としたクラウド移行の調査数が分かりません。

 いろいろ情報を探す中、デル・テクノロジーズが中小企業におけるAI活用とITインフラ動向を調査した結果から、中小企業におけるサーバ保有率からクラウドへの移行が進んでいない現状を知ることができます。

 2024年11月に実施されたこの調査によると、中小企業の約75%がサーバを保有しており、その多くがオンプレミス環境を維持している状況です。一方、クラウド(IaaS〈Infrastructure as a Service〉)の普及率は48%にとどまっており、オンプレミス運用が依然として主流であることが分かります。

 特に地方にビジネスの基盤を置く中小企業では、専門のIT担当者を置くことが難しく、ITインフラの整備や管理が大きな課題となっており、同じ地方に基盤を置く中小IT事業者がその役割を担うことが多くあります。中小企業でオンプレミスサーバが担ってきたITインフラのクラウド活用が進まない大きな理由は、中小企業のITの整備や運用を担う中小IT事業者がクラウドの活用を提案できないでいる現状が大きな理由と筆者は考えます。

 ここでの中小IT事業者は、地方に営業の基盤を持ち、周辺の地区町村または都道府県に支店を数社持つ規模の事業者を想定しています。

 本連載では、中小IT事業者が地方に拠点を置く中小企業に向けて、Microsoftのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」(以下、Azure)を利用した提案ができるようになるために、クラウドに対するビジネス上理解しておくべき基本的な概念や、提案に必要な情報、提案例といった内容をお伝えしていきます。Azureにおける技術的な内容もお伝えしますが、実際に提案するために必要な情報に重きを置いた内容にする予定です。

 なお、規模としては中小企業であっても、5大都市圏や、7地方区分(北海道、東北、関東、中部、近畿、中四国、九州)のいずれかに支店を構えているIT事業者は全国系IT事業者として分類し、本連載ではやや対象から外れます。もちろん、全国系IT事業者でも、エンドユーザー企業との関係性やクラウドに対する取り組みの程度によっては、参考になる内容があると思います。

 地方にビジネスの基盤を置く中小企業に対するクラウド移行の提案は、地方の中小IT事業者より、全国系IT事業者の方が向いているようにも感じます。しかし、筆者の考えでは、前者の方が、エンドユーザー企業のIT関連の運用、管理を全て引き受けているからこそ、提案しやすいと面があると考えています。

 それでは、中小IT事業者にとってのクラウドに対する向き合い方としての基本的な概念をお伝えし、「なぜ中小企業にAzureが適しているのか」という点について述べていきます。

中小IT事業者におけるクラウドに対する基本的な概念と理解

 「クラウドとは何か?」という問いに対し、既に多くの識者やベンダーの回答があふれている状況です。それらの回答と同じ内容を繰り返すことになるような、NIST(National Institute of Standards and Technology:米国立標準技術研究所)の定義を基にした回答や、ベンダーが掲げる正しく技術的な回答は、これらを定義している方々に譲ります。ここでは、本稿を進めるに当たり、言葉の前提と最低限のクラウドの理解に必要な内容についてお伝えします。

 本稿で取り上げる「クラウド」は、特に記載がない限りは、Azureや「Amazon Web Services」(AWS)、「Google Cloud」(旧称:Google Cloud Platform〈GCP〉)に代表される、パブリッククラウドサービスを指します。これらのパブリッククラウドサービスは、クラウドの3分類(SaaS、PaaS〈Platform as a Service〉、IaaS)のうち、主にPaaSとIaaSを提供しているサービスです。

 PaaSとIaaSは、ITにおける“サービスのインフラ”を提供するものです。オンプレミスのサーバで実現していたファイルサーバやデータベースサーバ、アプリケーションの実行プラットフォームといったサービスのインフラをクラウド上で実現します。

 IaaSは、「Windows」や「Linux」といったOSを直接利用することを前提にしたクラウドです。オンプレミスサーバと同様のサービスの実装が可能で、OSの機能を有効化したり、ミドルウェアやアプリケーションをインストールしたりして利用します。

 PaaSは、OSを直接利用することはほとんどなく、OSの機能の有効化や、ソフトウェアをインストールして利用していたサービスをそれなしに利用することが可能なクラウドです。例えば、OSのファイル共有機能を有効化して利用していたファイルサーバの機能を、OS上の操作なしにファイル共有の機能のみを利用したり、OSにデータベースソフトウェアをインストールすることなく、データベース機能だけを利用したりといった具合です。

 ちなみに、SaaSは具体的なサービスとしてエンドユーザーが利用可能なクラウドです。人事給与/会計アプリケーションや「Microsoft 365」に代表されるような、日常業務を効率化する統合サービスおよびアプリケーションといったものがこれに含まれます。

 SaaS、PaaS、IaaSを利用する上で技術的な差は既存の知者や情報にお任せするとして、筆者がお伝えしたいのは、クラウドを運営する事業者とそれを利用する利用者との「責任の違い」を理解することが大事であるという点です。ここでの「利用者」は、ITインフラを利用するエンドユーザーとなる中小企業と、ITインフラの運用と管理を任される中小IT事業者です。

 以下の図1にある通り、クラウドを運営する事業者は、IaaSの場合はOSのレイヤーより上には責任を持たず、利用者が責任を負う必要があります。

ALT 図1 クラウドサービス3分類の責任分担(https://learn.microsoft.com/ja-jp/azure/security/fundamentals/shared-responsibilityから引用)

 よくある勘違いとしては、IaaSを利用した場合でも、OSの動作までクラウド事業者が監視し、障害が発生しないように不具合対応を行い、OSが動作しない場合まで対応してくれるということがあります。一部、OSのフリーズや動作不良を検知して自動的に再起動するといった場合はありますが、OSを利用して提供しているサービスの正常性を保証する形での回復までは行いません。

 例えば、OSがフリーズしてしまい、動作中のプログラムも停止してサービスが利用できなくなった場合、利用者側でサービスに求められる可用性に従い、OSがフリーズした際の対策を講じておく必要があります。「可用性ゾーン」(Availability Zones)を利用した冗長化や「Site Recovery」を利用したリージョン間(データセンター間)でのベアメタル同期および回復、といった対策をする必要があります。

 別の例として、インターネット向けのWebサービスをIaaSで提供する場合、OSに対する外部からの攻撃を防ぐ対策は利用者が行う必要があります。クラウド事業者は提供しているインフラに対する外部から攻撃といったものには対処していますが、利用者が管理するレイヤーより上はクラウド事業者側は責任を負わないため、OSのセキュリティ更新プログラムの適用については、利用者が責任を負う必要があります。「Azure Update Manager」といった更新管理サービスを利用して、更新プログラムの適用を管理することは可能ですが、実際に適用されているかどうかについて責任を負うのは利用者となります。

 このように、運用の責任を利用者とクラウド事業者で分けることを「責任共有モデル」と言います。

 この責任共有モデルのおかげで「インフラの運用と管理をクラウド事業者に任せることが可能になるため、運用負荷が軽減される」というのが、クラウドのメリットとしてよく言われることです。

 しかし、中小IT事業者のエンドユーザーはそもそも運用、管理する人材が社内にいないことが多く、中小IT事業者に丸投げになっていることがほとんどでしょう。だから、このメリットがエンドユーザーには全く響かないのです。

 責任共有モデルから分かるように、クラウド利用料の中には、クラウド事業者が責任を持つ運用管理費用も含まれています。中小IT事業者がエンドユーザーに提示する費用を積算する場合、オンプレミスサーバの仕入れ費用の部分をそのままクラウド利用料に置き換えてしまうと、従来はオンプレミスサーバだけの費用が、運用管理が含まれた費用に置き換わることになります。

 つまり、従来のオンプレミスサーバの販売を前提とした価格決定モデルを、そのままクラウドに当てはめるのではなく、クラウド独自の価格決定モデルを定め、そのモデルを実現するための仕組みづくりを行う必要があるのです(図2)。

ALT 図2 価格決定モデルの例

 この仕組みづくりのためには、中小IT事業者がエンドユーザーに代わり運用管理するコストを可視化できるようにすること、そして、運用コスト自体を減らすための自動化の仕組みをクラウド上に構築することが大切です。これについては、次回以降で詳しく解説します。

中小IT事業者にAzureをお勧めするこれだけの理由

 クラウドにおける運用コスト減らすことを目的に、自動化の仕組みをクラウドに構築する前には、当然、利用するクラウドサービスに対する理解と基本的な操作の習熟が必要となります。

 オンプレミスとは異なり、クラウド事業者の考えに基づくものや、利用者からの変更要望に応える形でのUI(ユーザーインタフェース)の追加変更も多く、静的な文書やドキュメントによる手順書といったものがすぐに陳腐化してしまいます。よって、多少変更が入っても、それに慌てず変更後のUIの操作を類推や想定できるだけの「慣れ」が必要です。この「慣れ」を早期に身に付けるためにも、中小IT事業者にはAzureをお勧めします。

 Azureの他にもパブリッククラウドサービスとしては、AWSやGoogle Cloudが有名ですが、中小IT事業者にAzureをお勧めする理由は、何といっても、サーバOSとしての「Windows Server」に代表されるMicrosoft製品に触れる機会が多いことが挙げられます。

 全国規模のIT事業者と違い、中小IT事業者は職務の兼任が当たり前です。営業からキッティング、納品作業、その後のサポートまでを1人の担当者が担うケースもあります。その場合、複数の異なるベンダーの技術を習得する余裕はありません。

 例えば、オンプレミスのNAS(Network Attached Storage)やWi-Fiルーターの販売で、多少原価が安く便利な機能があっても、普段と異なるベンダーの製品を販売することは少ないのではないでしょうか。

 エンドユーザーの代わりに故障や障害に対応することが当たり前の中小IT事業者にとっては、設定UIが異なることで習得や調査に時間を要したり、サポート窓口をユーザー別に管理したりする手間が増えるのでは、対応時間が長くなり、結果的にユーザーの満足度を下げることになります。

 どうせWindowsを使うことが多いなら、UIもある程度統一感のあるAzureを使った方が、“なんとなく触って操作できる感”は強いでしょう(図3)。きれいな言い方をすれば、「習得コストが少ない」といったところです。この「なんとなく感」が嫌いな技術者も多くおり、それが他のクラウドサービスを選択する理由になることもあります。

ALT 図3 Azureの管理画面と「Windows 11」の設定画面、AWSの管理画面との比較

 「慣れ」といった「なんとなく」の感覚だけではなく、明確にAzureをお勧めする理由もきちんとあります。

理由1:Azureハイブリッド特典

 1つ目の理由は、「Windows Server向けAzureハイブリッド特典」の存在です。Azureハイブリッド特典については、次回以降で詳しく解説する予定ですが、他のクラウドと比較して、コスト面を有利にできます。

 また、この特典を利用することで、従量課金や為替変動によるクラウド費用の変動の一部を抑制することが可能になります(完全に価格変動を固定化することはできません)。

理由2:Microsoft Officeを利用しやすい

 2つ目の理由は、小規模でもIaaS上のWindows Serverで「Microsoft Excel」や「Microsoft Word」といった「Microsoft Office」クライアントを利用しやすいことです。

 AWSでも利用は可能ですが、「AWS License Manager」や「Active Directory」が必要といった制約があり、利用者が求める機能を直接提供しないサービスの利用料を負担することになります。

 対して、Azureの場合は、Microsoft 365に含まれるMicrosoft Officeクライアントを利用することで、クラウド上の追加サービスを利用することなく、Windows Server上でOfficeクライアントを利用できます。

 また、サーバとしての利用ではなく、クライアントとしてクラウド上にある仮想マシンを利用するDaaS(Desktop as a Service)においても、数十名以下の利用者でもMicrosoft 365に含まれる常に最新のOfficeクライアントを利用できます。

理由3:オンプレミスのWindows Serverも管理できる

 3つ目の理由は、オンプレミスのWindows Serverを管理できるサービスが存在していることです。

 Azureには「Azure Arc」と呼ばれるサーバの実行環境を一元的に管理、監視できるサービスがあります。このサービスを利用することで、「Azureポータル」側からオンプレミスサーバの「Windows Admin Center」に接続してサーバを管理できます。「イベントビューアー」の確認やレジストリの編集/表示、さらにリモートデスクトップ接続まで可能です。

 クラウドに適した価格決定モデルによる提案でも、オンプレミスサーバによる提案が勝る場合は多くありますが、管理だけでもクラウドを利用することで、運用負荷を下げることができます。こうしたWindows Serverに特化した機能は、自社でオンプレミスのプロダクトも作っているMicrosoftの強みでしょう。

  • 【参考情報】Azure Arc(Microsoft Azure)

まとめ

 中小IT事業者が、そのエンドユーザーに対する提案をオンプレミスによるハードウェア導入からクラウドを利用する提案に移行するためには、クラウドにおける責任共有モデルの理解と、それによって表面化する運用コストをいかにして価格決定モデルに組み込むかという点が重要です。さらに、表面化した運用コスト以外のコストを削減するには、クラウドが持つ自動化の仕組みを利用する必要があります。

 そして、クラウド事業者の選定において、普段からなじみのあるWindows OSやOfficeアプリケーションに近いUIを持ち、コストやライセンス面で優遇措置を持つAzureは、クラウド導入の提案を加速させる近道の一つになるでしょう。

 次回は、価格決定モデルを構成するコストの考え方や利用シナリオに沿った提案パターンについて詳しく解説します。

筆者紹介

黒木 武範(くろき たけのり)

株式会社インテルレート 執行役員CTO。地方を中心とした複数の中小SIerや創業期のITベンチャーなどに所属していた経歴を持つ。営業からインフラの設計および構築、システム開発における設計や開発、テストといった、幅広い実務実績あり。SIerの自社パッケージ製品のクラウド対応を企画から販売体制まで構築した経験から、現職でMicrosoft AzureとAWSのプリセールス活動および構築支援を行っている。地方のSIerでの経験を生かし、SIerとエンドユーザーの関係性の実態に即した支援を得意とする。趣味はキャンプ。Snow Peak好き。


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