プロトコルの階層化とは? 「OSI参照モデル」と「TCP/IP 4階層モデル」の違いも分かりやすく解説

階層化は通信手順の設計や実装に有用です。どのような層を用意して、どのように階層化すべきかまで示した「階層モデル」には「OSI参照モデル」と「TCP/IP 4階層モデル」があります。

» 2025年11月05日 05時00分 公開
[福永勇二@IT]

※本稿は、SBクリエイティブ発行の書籍『ネットワークがよくわかる教科書 第2版(2025年3月31日発行)』の中から、アイティメディアが出版社の許可を得て一部編集の上、転載したものです。

階層化とは

 通信に求められる機能──例えば、ホームページを見る──は、1つのプロトコルで実現するのではなく、複数のプロトコルを階層的に組み合わせて実現する形をとります。このとき各プロトコルが提供する機能は、具体的なハードウェアを操作する機能(例:0/1のビットを銅線に送り出す)だったり、抽象的なアプリケーション機能(例:Webサーバにページを要求する)だったりします。

 1つのプロトコルで機能全体を作るのではなく、複数のプロトコルを組み合わせて作り上げる一番の理由は、通信でのやりとり全体を1つのプロトコルで定義しようとすると、それが複雑になり過ぎてしまうためです。例えば、「筆算でかけ算する」という手順を定義することを考えてみましょう(図)。この手順を説明するとき、桁の繰り上がりや、乗数の桁位置に合わせて桁をずらして書くことは説明しますが、1桁の値同士をかけ合わせる計算方法までは説明しないのが普通です。もし、それまで説明に含めてしまうと、筆算のかけ算の説明は複雑になり過ぎて、何が本質なのか見えなくなってしまいます。

photo 知識の階層化

 そのため通常は「1桁の値同士のかけ算」と「筆算でのかけ算」は別々に説明して、それら組み合わせる「知識の階層化」が行われます。プロトコルを階層的に組み合わせるのも、これと同じ理由です。

 もう1つの理由は、機能の差し替えをたやすくするためです。筆算のかけ算の例でいうと、「1桁の値同士のかけ算」の具体的な手順としては「九九の暗算で値を得る」こともできますし、「電卓の計算で値を得る」こともできます。そのどちらも「筆算でのかけ算」の1桁の値同士のかけ算に使うことができ、自由に差し替えることができます(図)。このように、利用する手段や処理手順が異なるものを自由に差し替えて、幅広い組み合わせを可能にすることも階層化を行う理由の1つです。

photo 階層化は差し替えを容易にする

 このような階層化の考え方は、通信の「機能の設計」のほかに、その設計から作られるプログラムにも反映されます。先の筆算の例でいえば、「筆算でのかけ算の手順」「九九で暗算する手順」「電卓で計算する手順」の3つの処理プログラムを用意して、1桁の値同士のかけ算をする処理の部分は状況に応じてプログラムを差し替える、といった形です。

OSI参照モデルとは

 階層化は通信手順の設計や実装(プログラム化すること)に有用ですが、そこからさらに一歩踏み込み、どのような層を用意して、どのように階層化すべきかまで示した「階層モデル」が提唱され、実際の設計や実装に用いられています。その著名なものとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP 4階層モデル」があります。

 OSI参照モデルはOSI(Open Systems Interconnection:開放型システム間相互接続)と呼ばれるコンピュータネットワーク標準(通信の手順や階層構造などを定義したもの)で用いられた、通信システムを階層的に定義するためのモデルです。OSIそのものは広まらずに廃れてしまいましたが、そこから生まれたOSI参照モデルは、その汎用性から現在でも幅広く使われています。

 OSI参照モデルでは、通信に求められる機能を7つの階層(Layer:レイヤー)に分類し、それぞれの名称と役割を図のように定義しています。このモデルは、通信に求められる機能を細かく定義しているため、より汎用的な使い方ができます。しかし、場面によっては細分化され過ぎと感じられることもあります。このような階層モデルでは、直接に接する下層の機能を利用して、自層の機能を実現し、それを直接に接する上層に提供する、という考え方をとります。例えば、第4層のトランスポート層は、第3層のネットワーク層が作り出す、任意の対象間の通信機能を利用して、そこにエラー訂正や再送などの機能を付加し、それを上層である第5層のセッション層に提供すると考えます。

photo OSI参照モデルの階層構造

TCP/IP 4階層モデルとは

 もう1つの階層モデルであるTCP/IP 4階層モデルは、わずか4層で構成されるシンプルなモデルです(図)。TCP/IPは現代のネットワークで中核的な役割を果たす通信手順で、そのTCP/IPにおいてこのモデルが用いられています。

 OSI参照モデルほどの細かさはありませんが、ほどよくまとめられた実用的な階層モデルとしてさまざまな場面で利用されます。

photo TCP/IP 4階層モデルの階層構造

 OSI参照モデルとTCP/IP 4階層モデルは、それぞれ独立して策定されたものであるため、各階層の境界は必ずしも一致しませんが、おおよそ図のように対応するといわれています。

photo OSI参照モデルとTCP/IP4階層モデルの対応関係

書籍紹介

ネットワークがよくわかる教科書 第2版

ネットワークがよくわかる教科書 第2版

福永勇二 著

SBクリエイティブ 2,420円

しっかりした基礎が身につく好評の入門書が、フルカラーで改訂!

教育現場での採用多数! TCP/IPの基本からイーサネット、インターネット、セキュリティ、無線LANまで、ネットワークの基礎をしっかり学べるベストセラーが6年ぶりのアップデート。

最新の規格や方式についての情報をふんだんに盛り込むとともに、コマンド操作などの実践的な内容を最新環境に合わせて更新。紙面はフルカラー化し、文章と図版の両方からネットワークをさらにイメージしやすくなるようブラッシュアップを図りました。

これからしっかりネットワークを学ぼうとする方々が、本書を活用して基礎的な知識を幅広く身につけていただけたなら、これほどうれしいことはありません。

書籍の購入はこちら


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

スポンサーからのお知らせPR

注目のテーマ

4AI by @IT - AIを作り、動かし、守り、生かす
Microsoft & Windows最前線2025
AI for エンジニアリング
ローコード/ノーコード セントラル by @IT - ITエンジニアがビジネスの中心で活躍する組織へ
Cloud Native Central by @IT - スケーラブルな能力を組織に
システム開発ノウハウ 【発注ナビ】PR
あなたにおすすめの記事PR

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。