LangChain&LangGraph 1.0正式版が登場 PythonとTypeScript対応のAIエージェント開発ライブラリDeep Insider Brief ― 技術の“今”にひと言コメント

かつて“実験的すぎる”とされたフレームワークが“安定版”へ進化し、LangGraphとの連携強化で運用面の信頼性も向上した。群雄割拠するAIエージェント開発の世界で、LangChainは再び存在感を示せるか注目。

» 2025年10月30日 05時00分 公開
[Deep Insider]
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 2025年10月22日、大規模言語モデル(LLM)を活用してAIエージェント(AIが自律的に判断し行動するプログラム)を構築するためのオープンソースフレームワークLangChain(ラングチェーン)と、それと連携して複雑なワークフローをグラフ構造で表現/実行/管理する基盤となる補助フレームワーク LangGraph(ランググラフ)がそろってバージョン1.0として正式に公開された。

LangChainエコシステムの構成図「LangChain=構築、LangGraph=実行、LangSmith=運用の位置付け」(公式サイトより引用) LangChainエコシステムの構成図「LangChain=構築、LangGraph=実行、LangSmith=運用の位置付け」(公式サイトより引用)

 なお、LangChainとLangGraphに加え、エージェントの動作を監視し、性能を評価し、運用を支援する商用プラットフォームLangSmith(ラングスミス)も用意されており、これら3つのレイヤーで開発から本番運用までを一貫して支援する「LangChainエコシステム」が形成されている。

 今回のv1.0リリースで注目すべきポイントは、大きく3つある。

  1. 【LangChain】新しい抽象化インタフェースcreate_agentの導入: モデル(例:OpenAIのGPT-5モデルなどのLLM)とツール群(例:天気情報を取得する関数やデータベース検索機能)を指定するだけで、エージェントの実行ループ(思考→行動→結果)を簡単に構築できる仕組み(次の図を参照)
  2. 【LangChain】ミドルウェアMiddleware)機構の追加: 実行の各段階にフックを設定し、人間の承認を挟んだり、個人情報を自動でマスクしたりといった柔軟なカスタマイズが可能(次の図を参照)
  3. 【LangGraph】永続状態管理Durable state)の実装: エージェントの状態を自動保存し、再開できるようになった。長時間動作するエージェントや、途中で中断や再開が必要なワークフローを安定して運用できる
LangChainでのエージェントの実行ループ(公式サイトより引用) LangChainでのエージェントの実行ループ(公式サイトより引用)
ここでいう「エージェントの実行ループ」とは、ユーザーからのリクエストを受け取ったAIモデルが、必要に応じて外部ツールを呼び出し、結果を基に最終回答を返す一連の流れを指す。LangChain 1.0では、この処理の各段階に「before/after」のフックを設けることで、動作の監視や一部修正を容易にした。これにより、開発者はエージェントの思考過程をより細かく制御できるようになっている。

 今回のv1.0リリースは、今後v2.0が登場するまで後方互換性(古いバージョンとの互換性)を維持することが約束されており、開発者は安心して本番環境のアプリケーションに導入できるようになっているのもポイントだ。

――ここからは『Deep Insider Brief』恒例の“ひと言コメント”として、今回の発表から技術の“今”を少し深く見ていく。


一色政彦

 Deep Insider編集長の一色です。こんにちは。

 LangChainは2022年10月の開発開始から2023年ごろまで、RAG(検索拡張生成)をはじめとする“LLMアプリケーション”を簡単に構築できるライブラリとして注目を集め、多くの開発者に支持されました。しかしその後、「ソースコードが製品向きではない」との批判や、頻繁なアップデートによる「破壊的変更(互換性を壊す更新)」が相次いだ結果、「本番環境で使うのは怖い」という印象が広まり、“安定性”の欠如が課題とされていました。

 そうした課題を受けて、今回のLangChain 1.0では、コード構成の整理やv1.0系における後方互換性の維持を重視し、開発者が安心して使える“安定版”へと進化しました。さらに、処理をグラフ構造として管理できるLangGraph 1.0(初版0.1は2024年6月に登場)も正式にリリースされ、長時間動作するAIエージェントでも中断からの再開や例外処理が容易になるなど、運用面での信頼性が大きく向上しています。なお、このLangGraphはLangChain 1.0の内部でも利用されており、エージェント機能の“安定性”を支える中核的な基盤となっています。

 というわけで、満を持してv1.0が発表されたわけですが、ここまでのところ、正直あまり注目されていない印象です。AIエージェントの開発手段は急速に多様化しており、LangChain以外にもさまざまなフレームワークやサービスが次々と登場しています。まだデファクトスタンダード(事実上の標準)は定まっていませんが、LangChainは筆者自身も気になる存在なので、今後は自分でも実際に使ってみて、その真価を確かめたいと思います。もし詳しい方がいれば、ぜひこの記事へのSNSコメントなどで教えてください。


 さて、今回の発表内容には、他にも開発者が注目すべき更新内容が幾つか含まれていた。これらを丁寧に解説すると長くなるので、残りは以下に箇条書きでまとめておく。

その他の更新内容

LangChain v1.0

  • 標準コンテンツブロックの導入: OpenAIやAnthropicなど複数のLLMプロバイダーが出力する結果を、共通の形式(コンテンツブロック)として扱えるようになった。モデルを切り替えても同じ書式で扱えるため、マルチモデル対応が容易になっている。
  • パッケージ構成の整理: 機能の重複を削減し、依存関係が軽量化され、必要最小限の構成に再編成。旧機能はlangchain-classicパッケージに分離され、既存コードとの互換性が維持される。Python 3.9はEOL(ライフサイクル終了)に伴い非対応となり、3.10以降がサポート対象となった。

LangGraph v1.0

  • ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-loop)対応: 処理の途中で人間による確認/修正/承認を挟む仕組みを標準サポート。高リスク操作(例:外部送信、決済処理)などでも安全にAIエージェントを利用できる。
  • 後方互換性の維持: langgraph.prebuiltモジュールは廃止されたが、主要機能はLangChain側に統合されており、既存コードも移行可能。
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