「Agentforce」はSalesforceが推進するAIエージェント技術で、同社にとってCRMシステムからの進化を支えるキーテクノロジーです。具体的にはどのようなものなのでしょうか。新連載の第1回として、その概要を解説します。
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*本連載はNTTテクノクロスのブログ「Salesforce MVP 鈴木貞弘の『Agentforce 匠指南』シリーズ」を再編集して掲載するものです。
NTTテクノクロスの鈴木貞弘です。本連載では全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーであるAgentforceについて解説します。
2008年にSalesforceエコシステムの世界へ飛び込み早17年。私はコミュニティー活動やイベントでの登壇、技術記事の執筆を通じ、現場で培った知見を共有してきました。おかげさまで、日本人初の非開発者系「Salesforce MVP」(2017年)、そして「MVP Hall of Fame」入りという大変光栄な称号をいただきました。
こうしたSalesforceエコシステムでの経験を生かし、新連載を始めます。全5回にわたり、Salesforceの未来を担うキーテクノロジーである「Agentforce」について、基礎から応用、そして展望までを、私の視点で徹底的に解き明かしていきます。
Salesforceには従来「Einstein」などのAI機能がありますが、Agentforceとは、自律的にタスクを実行するAIエージェントを作成・管理・展開するためのプラットフォームです。なぜ今、Agentforceに注目すべきなのか。それは、SalesforceがSFA/CRMシステムから、自律的にビジネスプロセスを推進するインテリジェントなプラットフォームへと進化を遂げるためのキーテクノロジーだからです。単なる機能追加ではなく、企業活動の在り方を根本から変える可能性を秘めています。
Agentforceとは、一言で表現すれば「自律的にタスクを完了させるAIエージェント」です。ユーザーの複雑な要求に対し、複数のシステムやデータソースを横断し、思考・計画・実行する能力を持っています。
例えば、「急ぎの顧客からの問い合わせがあるのだけれど、新しいサポートケースを作成して、担当の営業に通知したい」という要求があったとしましょう。
Agentforceは、この要求を以下のように分解して自律的に行動します。
思考・計画:ユーザーの意図を理解し、この要求を完了させるための手順を計画する。
情報収集:顧客情報を確認し、必要に応じてWeb検索で最新の業界ニュースを参照するなど、外部情報も活用する。
アクション実行:Salesforce上で新しいサポートケースを作成する
通知:SlackやChatterを通じて担当の営業に通知を送る。
この一連の流れを、人間が介在することなく、エージェントが自律的に完結させるのです。これは、従来の汎用生成AIでは実現できなかった大きな進化です。
Agentforceの自律的な振る舞いを支えているのが、SalesforceのAI技術の根幹である「Atlas Reasoning Engine(Atlas推論エンジン)」です。このエンジンは、単なる大規模言語モデル(LLM)ではなく、思考、推論、アクション実行を可能にする独自のフレームワークです。
Atlas Reasoning Engineは複雑なタスクを分解し、最適なソリューションを見つけ出します。
意図理解:ユーザーの自然言語による要求を解釈し、その背後にある真の意図を把握します。
計画立案:意図を実現するために、利用可能なツール(Salesforceの標準機能、Apexアクション、外部APIなど)とデータを組み合わせて最適な実行計画を立てます。
アクション実行:立案した計画に基づき、各ツールを呼び出し、タスクを順次実行します。
モニタリングと調整:実行中に予期せぬ問題が発生した場合、計画をリアルタイムで再評価し、修正します。Agentforce 3では、このモニタリングプロセスが50%高速化され、応答性能が飛躍的に向上しました。
私が長年現場でSalesforceの導入・活用支援をしてきた経験からすると、AgentforceがSalesforceに統合されることによるメリットは非常に大きいと考えています。
Agentforceは、既存のSalesforce AI機能(Einstein)と共存し、その能力を拡張します。特にAgentforce 3では、Omni-Channelとの連携が強化され、Slackや外部ツールともよりスムーズに連携できるようになりました。
Agentforceは、個々のタスクを自動化するだけでなく、部門横断的なワークフローを自動化することで、業務プロセス自体を変革します。
例えば営業では、見込み客からの問い合わせに対し、自動でリードを作成し、関連資料を送信し、商談を立ち上げられます。
カスタマーサービスでは顧客からの問い合わせを分析し、最適な解決策を提示するだけでなく、必要に応じて返品プロセスを自動で開始し、追跡番号を通知します。
さらに、2025年5月に開催されたSalesforceのグローバルイベント「World Tour NYC」で発表のあった「特定の業界に特化したプリビルドエージェント」を活用すれば、導入にかかる時間とコストを大幅に削減できます。また、Agentforceの価格も改定され、以前よりも多くの企業が導入しやすい環境が整いました。これは中小企業にとっては大きなメリットとなるでしょう。
第1回では、Agentforceの全体像と革新性を解説しました。Agentforceは単なるツールではなく、これからのデジタル労働における鍵となり得る存在です。
次回はAgentforceを構成する主要なコンポーネント(トピック、Apexアクション、セキュリティ)について深堀りします。業務にAgentforceをどう組み込むかについて、私の経験を交えて解説します。どうぞお楽しみに!
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