Anthropicは、自社エンジニアがAI「Claude」をどのように活用しているかの調査結果を公開した。業務の6割でAIを利用し生産性が大幅に向上した一方で、若手育成や専門性維持への課題も見えてきた。
2025年12月3日、Anthropicは自社のエンジニアや研究者がAIモデル「Claude」を業務でどのように活用し、どのような変化が起きているかをまとめた調査レポートを公開した。
AIはAnthropic社内での仕事をどう変化させたのか調査は2025年8月に実施され、同社のエンジニア132名への定量調査と53名への質的インタビューが行われた。さらに、社内でのClaude Codeの利用データを分析し、AIの使用がAnthropicにどのような変化を及ぼしているかを研究したものだ。
調査結果からは次のような状況が分かった。まず、1年前と比較すると次のようになっている(ただし、これは従業員による自己申告である点には注意すること)。
生産性の向上は「時間の節約」というよりも「アウトプットの増加」により成されている。これは生成AIによるコードを理解するための時間が増えたり、生成AIを活用したことでできた時間で他のタスクをしたりするためである。これは生成AIが「拡張知能」(Augmented Intelligence)としての役割を果たしているともいえる。
また、Claudeは「潜在的なタスク」の実行を可能にしていることも重要だ。ここでいう「潜在的なタスク」とは「生成AIなしでは着手されなかったタスク」のことであり、Claudeが支援したタスクの27%がこれに該当する。そうしたタスクには、通常は優先順位が低いもの、手動では費用対効果が悪いものなど、ささいな改善(元のブログ記事では「ペーパーカット」と呼んでいる)が含まれる。こうしたタスクを生成AIに任せることで、開発者はささいなタスクから開放され、QoL(Quality of Life)も向上するはずだ。
さらに、Claudeの使用傾向として、自律性の向上と開発者スキルのフルスタック化の促進が挙げられる。自律的に複雑なタスクを行う能力について見ると、半年前には人の介入が必要になるまでにClaudeが完了できたのは10個のアクションだったのが、調査の時点では20個以上のアクションを完了できるようになった。これは複雑なワークフローであっても、人が介入する必要性を大きく減少させる。「フルスタック化」とは、自分たちの専門分野ではないタスクについても、生成AIの手を借りることで仕事を進められるようになってきたことを意味している。
生成AIの進化は生産性を向上させるのに大きく役立っているが、その一方で不安や疑念も浮き彫りにしている。以下では、Claudeがどう使われているかや、それが引き起こす疑念について見ていこう。
どうも。HPかわさきです。
このブログ記事によれば、これはAnthropicの社内におけるお話であり、一般化できるものではないとのことです。その一方で、Anthropic社内で起こっていることは、社会がどう変化していくのか、その先例的な教訓として考えられるので、この研究結果を公開することにしたそうです。
調査結果を見ると、何となく同意できるところは多々あるのではないでしょうか。筆者はそう感じました。
調査ではエンジニアおよび研究者にコードに関連するさまざまなタスクについて、どの程度の頻度でClaudeを使用するかを尋ねている。その結果が以下のグラフだ。
横軸は毎日使用しているユーザーの割合、縦軸はタスクの種類このグラフからは、Claudeの使用率が高いタスクは次の3つであることが分かる。
ここでいう「コード理解」とは「既存のコードベースをユーザーが理解するために、Claudeに説明させる」ことである。デバッグやコード理解といったタスクは間違った結果を得たときのリスクが低く、また結果が正しいかどうかの検証も比較的容易なことから活用の中心となっているのだろう。
だが、新機能の実装については様相が少し異なる。半年前は新機能の実装にClaudeを日常的に使う割合は14%だったのが、今回の調査では37%に上がっているとのことだ。これは、デバッグやコード理解のような結果を容易に確認できるタスクだけではなく、新機能の実装のような結果の検証が難しいタスクにまで生成AIの使用が広まりつつあることを意味している。
一方でそれほど高い使用率とならなかったのが以下である。
これらのうち、設計とプランニングは人の判断が必要になることから、ユーザーが自分の手元に置いておきたい分野といえる。データサイエンスとフロントエンド開発については、Anthropicの社内を全体的に見たときにそうしたタスクがそれほど多く生じているわけではないことから使用率が低く留まっているようだ(部署によっては、生成AIを活用してフロントエンド開発やデータの可視化が行われている)。
実は設計とプランニングについても、新機能の実装と同じ現象が起きている。つまり、半年前はそうしたタスクにおけるClaudeの日常的な使用率は1%だったのが、今回の調査では10%になっているというのである。これからは設計とプランニングについても生成AIの活用が広まっていくものと思われる。
また、質的インタビューからは次のようなことが分かった。
質的インタビューからは、エンジニアがAIに仕事を任せる際の判断基準が変化しつつあることが分かる。彼らは簡単に検証できるタスクやリスクの低いタスク(デバッグなど)、そして退屈なタスクを生成AIに任せる傾向にある(上でも述べたが、そうしたシンプルなスキルだけではなく、より複雑なタスクについても任せるようになりつつはあるが)。
また、スキルセットが自分の専門分野を超えて広がる一方で、コードの記述と批評に必要な深いスキルセットの退化を心配する従業員もいるとのことだ。これは生成AIを使えば簡単に成果物が得られることから「実際に何かを学ぶために時間をかけることが難しくなる」という懸念に根差したものだ。
「コーディング技術との関係が変化しつつある」というのはエンジニアの二極化を意味している。つまり、生成AIによる支援を受け入れ、コードを書く行為ではなく、その出力(成果物)にフォーカスするようなエンジニアと、コードを書く機会が減りつつあることを寂しく感じているエンジニアがいるということだ。
似たことは職場の人間関係にもいえる。最初に話を聞く相手が同僚からClaudeに変わったということだ。特に若手に対するメンターシップや開発メンバー間でコミュニケーションを取る機会が減ることにつながるという報告もある。
最後の「キャリア」については、エンジニアの仕事がAIシステムの監督に移りつつあり、生産性は大きく向上している。短期的には生成AIの進化には楽観的である一方で、長期的に見たときにはエンジニアが生成AIにとって代わられ、「自分たちはソフトウェア開発からは切り離された存在になるのではないか」と考える人もいるようだ。
生成AIは生産性向上に大きく役立ち、これまでの仕事のやり方を大きく変える存在です。大きな期待もある一方で、コードに触れる人にとっては大きな懸念もあります。そうした懸念は、筆者のような編集者兼執筆者にとっても完全に当てはまることです。
生成AIは便利な相棒でありますが、その能力が増大していけば、近い将来に筆者のような中途半端な人間はお払い箱になるやもしれません。これからの数年、開発者のみならず筆者のような編集者もその立ち位置を大きく変える年となりそうですね。怖い(笑)。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.