製品やサービスのマーケティングにおいて、実際にはAI技術が中核的に使われていないにもかかわらず、「AI活用」「AI搭載」「生成AI対応」などの表現によって、あたかも高度なAIが主要な価値であるかのように見せる行為や傾向。AIブームの広がりとともに、ホワイトウォッシングやグリーンウォッシングと同様、表現と実態のズレを捉えるための言葉として使われている。
AIウォッシング(AI Washing)とは、製品やサービスのマーケティングにおいて、実際にはAI技術が中核的に使われていないにもかかわらず、「AI活用」「AI搭載」「生成AI対応」などの表現によって、あたかも高度なAIが主要な価値であるかのように見せる行為や傾向を指す言葉である。一般には、誇大や誤解を招きかねない表現を問題視する文脈で用いられる。
この用語は、壁の汚れを白く塗って隠す行為になぞらえ、不都合な事実や問題点を覆い隠し、表向きの印象を良く見せることを意味するホワイトウォッシング(whitewashing)を語源とし、環境分野で用いられるグリーンウォッシングなどと同様の文脈から派生した応用語である。AI・機械学習分野において厳密に定義された学術用語ではなく、主には経済、ビジネス、マーケティングの文脈で用いられる実務・報道寄りの用語だが、近年では研究機関や政策報告書においても、問題提起の概念として使われ始めている。
図1は、AIウォッシングを「AIを使っているかどうか」ではなく、「AIがどのように語られているか」に焦点を当てた概念として示したものである。AIという言葉が持つ先進性や将来性への期待が強調されることで、実際の技術内容以上にイメージが先行してしまう状況を表している。
もっとも、AIウォッシングは必ずしも違法行為や意図的な虚偽を意味するわけではない。AIという言葉の定義が曖昧(あいまい)であることや、マーケティング表現と技術的な厳密さとの間にギャップが生じやすいことから、結果として「AIウォッシング的」に見えてしまうケースも少なくない。そのため、この用語は“企業を断罪するための言葉”というよりも、“こうしたズレが生じやすい状況を整理し、注意を促すためのラベル”として用いるのが適切だろう。
AIウォッシングという言葉は、主に以下のような場面で用いられることが多い。
とりわけ、マーケティング表現や広報資料、事業説明の場面では、「AI」という言葉の印象が実態よりも先行していないかどうかを立ち止まって確認する視点が、われわれ社会人一人一人に求められる。AIウォッシングという言葉は、そのための注意喚起として、表現と実態の関係を意識し直すきっかけを与えてくれる。AIに関わる立場にある者ほど、この言葉を心の中にとどめておきたい。
AIという言葉が強い期待や先進性を伴って受け取られやすい現状では、説明の仕方一つで、受け手の理解や判断は大きく左右される。AIウォッシングという概念は、そうした言葉の影響力を前提に、表現が生み出す期待が、製品やサービスの実際の提供内容とどのように結び付いているのかを冷静に捉えるための視点として機能する。AIを正しく語り、正しく使っていくためにも、この視点は今後ますます重要になっていくだろう。
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