日本から1歩踏み出せ。海外で働く可能性を考えよ:海外から見た! ニッポン人エンジニア(6)(2/2 ページ)
時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。
英語は文法ではなく「何を伝えるか」が大事
小平:個人のグローバル化を「OS(オペレーティングシステム)=志向性・行動特性」と「アプリケーション=専門性・業務遂行スキル」の関係に例えて考えてみましょう。「まずは海外に出てみる」というお話は、「OS」すなわち意識面から変えて「グローバル化」を目指して行動した方がよい、ということですね。海外でも通用する「スキル」を身に付けてから海外に行くのではなく、まず海外を「経験」してみることが先決であると。
これらの行動ができたとして、次に必要になるのはやはり英語やマネジメント能力といった「アプリケーション=スキル」部分だと思うのですが、この点はいかがでしょうか。一番皆さんが気にするのは英語、つまり語学の部分でしょう。例えば、楽天では「英語の社内公用語化」が進んでいます(参考:第4回 「『マインドは独走させよ』——楽天流・国際エンジニア育成法」)。
大滝氏:わたしが教えている早稲田大学ビジネススクールの説明会でも、語学に関する質問が多く出ます。英語を身に付けるうえで重要なのは、「英語ができない」といわないこと、あきらめないことです。アジアでは、いい加減な文法を使いながらも英語を積極的に話す人がとても多いですよ。英語学習では、文法などの「How」にこだわるのではなく、何を伝えるべきなのかという「What」の方が大事です。
小平:英語に関しては分かりました。それでは、マネジメント能力についてはどのようにして身に付けたらよいでしょうか。
大滝氏:一番の近道は、どんなに小規模でもよいので、プロジェクトを実際にマネジメントすることです。最近はMBA教育なども充実してきていますので、余裕があればこういうところで学ぶのもよいでしょう。
例えば、早稲田大学には1年間で早稲田大学とシンガポール 南洋理工大学のMBAの2つの修士学位を同時に得られるプログラムがあります。これは、社会人向け夜間コースとは違って全日制のフルタイムコースで、プログラム全体を英語で実施します。アジアのみならず、フランスやイギリス、ロシアなどからの参加者もいますよ。修了後にはシンガポールで就職できる点も、魅力の1つになっているようです。
ニッポン人エンジニアの強みは「グローバルマネージャ」になると生きる
小平:今回お話をうかがって、「まずは日常から1歩踏み出してみる」「英語では何を伝えるかが重要であり、文法などにこだわりすぎない」など、日本人エンジニアが等身大で取り組めるようなお話が聞けました。最後におうかがいしたいのですが、グローバルな視点で見て、「日本人エンジニアの強み」とはどのようなものでしょうか。
大滝氏:日本人エンジニアの強みはやはり「マネジメントをきっちりする」「品質へのこだわりが高い」「観察力があり『人』を見ている」などがあります。そのため、「グローバルマネージャ」を目指す場合にはこの強みが生かされるでしょう。
一方、観察力の高さや集団志向、「お互いさま」の考え方が行き過ぎると、Pier Pressure=相互監視になってしまい、組織の中で身動きが取れなくなるという危険性もはらんでいます。日本人エンジニアに限ったことではありませんが、自らの強みを十分意識しつつ、自らの行動を束縛しないように、絶えず意識しておく必要があるでしょう。
●対談後記●
大滝さんの多様で柔軟な発想には、いつも新たな気付きをもらいます。以前、ベトナムに出張した際、偶然にも大滝さんにホテルのロビーでお会いしたことがありました。今回のお話をうかがって、その柔軟な発想の背景には行動力があり、行動力の背景には「まずは1歩を踏み出してみる」という考え方があるのではないかと思いました。
ニッポン人エンジニアにとっても自分で「グローバルの壁」をあえて高く設定せず、ポジティブにものを考え、まずは日常から1歩踏み出してみるという発想は参考になるのではないでしょうか。
筆者プロフィール
小平達也(こだいらたつや)
ジェイエーエス(Japan Active Solutions)代表取締役社長
- 厚生労働省 企業における高度外国人材活用促進事業 調査検討委員会委員
- 国立大学法人東京外国語大学 多言語・多文化教育研究センター コーディネーター 養成プログラム アドバイザー
- 早稲田大学商学部学術研究院 日中ビジネス推進フォーラム 特別講師
- 武蔵野大学大学院ビジネス日本語専攻 非常勤講師
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)BJTビジネス日本語能力テスト外部化検討委員会委(2007年度)
大手人材サービス会社にて、中国・インド・ベトナムなどの外国人社員の採用と活用を支援する「グローバル採用支援プログラム」の開発に携わる。中国事業部、中国法人、海外事業部を立ち上げ事業部長および董事(取締役)を務めた後、現職。グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエスではグローバル採用および職場への受け入れ活用に特化したコンサルティングサービスを行っており、外国人社員の活用・定着に関する豊富な経験に基づいた独自のメソッドは産業界から注目を集めている。
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