「マインドは独走させよ」――楽天流・国際エンジニア育成法海外から見た! ニッポン人エンジニア(4)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2010年05月25日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

 あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。

 2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 第4回目は、インターネットショッピングモール「楽天市場」をはじめとして、「楽天トラベル」「楽天オークション」「楽天銀行」など、さまざまな領域でインターネットサービスを展開する楽天の執行役員、開発ユニット 新サービス開発・運用部部長、編成部副部長である樋口将嘉氏に話を聞いた。同氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。



日本の新興企業から、アジアのネット企業へ

小平 楽天はここ最近、急激にグローバル展開を進めているように見受けられます。まずは現状について教えていただけますか。

樋口将嘉氏 楽天 執行役員 開発ユニット 新サービス開発・運用部部長 編成部副部長 樋口将嘉氏

樋口氏 実をいうと楽天は、以前から海外展開へのスタンスを持っていました。楽天は創業当時から「世界一のインターネットサービス企業へ」という思いを掲げています。

 具体的な例を挙げましょう。2000年、ジャスダック市場に上場した直後、米国に子会社を設立しました。最近ではタイ、台湾、中国といったアジア諸国を中心に、グローバル展開をしています。中国で検索エンジンの最大手であるBaidu(百度)と合弁会社設立について合意し、「中国一のインターネットショッピングモール設立」を目指しています。楽天はいま、日本の新興インターネット企業から世界へ展開するインターネット企業として、新たなステージに入りつつある段階です。

小平 企業のグローバル展開は、生産地と消費地(市場)という観点から3つに分類できます。

(1)日本で生産して、海外に販売(輸出型)

(2)海外で生産して、日本に販売(輸入型)

(3)海外で生産して、海外に販売(海外完結型)

 ここでは「生産」としていますが、サービス業の場合も同様です。楽天のグローバル展開は海外でサービスを生んで提供する「海外完結型」といえるのではないでしょうか。                          

樋口氏 「海外」という言葉は単に1つの国を示すのではなく、さまざまな「各国」を示すパターンがあります。「日本を含めた各国に生産拠点があり、クロスボーダーで販売網がつながっている」というのが目指している姿です。

 楽天には「サービス開発は自分たちの手で」という思いがあります。ですから、国内向けのサービスはもちろん、グロ−バルサービスも基本的には楽天グループのエンジニアが構築します。各国の事業ノウハウは、各国の開発現場にも蓄積されていきます。 従って、事業のグローバル化に合わせて、今後は世界レベルでの技術開発体制を強化していく必要があります。

 わたし自身、開発と編成のマネジメントに加えて人事担当もしているので、エンジニアの採用、育成や評価などを見ていますが、「グローバルに活躍できる人材がますます必要となっている」と感じます。

「朝礼はすべて英語」——急速に進む社内のグローバル化

筆者 対談中の筆者

小平 楽天では、開発体制のグローバル化に対応するため、急速に社内のグローバル化が進んでいるということですが、この点について教えていただけますか。

樋口氏 まず「社内での英語使用の促進」が挙げられます。今年の2月に月間社内標語が「English!」となり、毎週朝に行う幹部会議がすべて英語になりました。当初は発表資料のみが英語だったのですが、すぐ発表言語も英語になりました。また、毎週月曜日にグループの全社員が出席して行う全体朝会も英語で発表します。社内の英語使用を推進するに当たっては、会社が一方的に英語使用を求めるのではなく、「社員が英語を学習できる体制」の整備を進めています。

 一方で、外国人エンジニアの採用も推進しています。以前から、日本国内にいる外国人留学生の採用は実施していましたが、2009年入社新卒からは中国やインドなどの大学を卒業したエンジニアの新卒採用を行っています。当然、これは今後のグローバル展開をにらんだものです。

 外国人エンジニアは2009年に12名入社しました。2010年には41名、2011年には約100名の入社を予定しています。海外の大学を卒業した社員には、来日前と後に日本語研修を行っています。このほか、自分の考えを適切に相手に伝えるコミュニケーションをどのように行っていくのかという点や、楽天社員として求められる考え方の指針「成功の5つのコンセプト」などを学んでもらっています。

 一般に日本人エンジニアは英語を「読んで、書く」という能力は高いのですが、「聞いて、まとめて、話す」という能力はまだまだ向上する余地があります。その意味では、外国人エンジニアと一緒に仕事をすることは、日本人エンジニアにとっても刺激になっているようです。

小平 社内で日本人社員の英語力向上と、外国人社員の採用・活用が同時に進んでいるのですか。英語を話す日本人エンジニアと日本語を話す外国人エンジニアが、楽天社員としてお互いに切磋琢磨(せっさたくま)していくには、「ミッションや考え方などの共有」や「企業文化の醸成」などが大事だと思います。この点はいかがでしょうか。

樋口氏 楽天が日本発のグローバル企業として世界展開するにあたって、「世界に通用する日本企業や日本人エンジニアの強み」と「外国人エンジニアの強み」を掛け合わせた「ハイブリッド企業」になっていく必要があると考えています。そのため、「成功の5つのコンセプト」をはじめとした代表取締役会長兼社長 三木谷の考え方を浸透させていく中で、日本人社員と外国人社員それぞれのよいところ、強みの部分を取り入れていきたいと考えています。

小平 非常に興味深い考え方です。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教などの「一神教の世界」では、すでにある「考えや答え」を世界にまで浸透させるというアプローチが一般的で、「グローバル化=教化のプロセス」と同義であることが多いのです。一方で、楽天の場合はやはり「多神教的」といいますか。世界企業を目指す中でそれぞれのよい考えをどんどん吸収していく、そして力強くなっていく、という躍動感を感じます。

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