アジア9カ国のIT教授が語る、日本人技術者の特徴海外から見た! ニッポン人エンジニア(2)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2010年01月25日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

 あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ。

 11月からスタートしている新シリーズ「海外から見た! ニッポン人エンジニア」ではグローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビュー通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治状況などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 第2回目は、2009年11月に東北大学で開催された国際フォーラムを振り返りながら、主催者である東北大学大学院 情報科学研究科 中尾光之教授と行った対談をまとめた。このフォーラムには日本をはじめとして、中国、韓国、モンゴル、タイ、ベトナム、マレーシア、インド、バングラデシュというアジア9カ国の大学からIT関連学科の教授陣を中心に15人の講師が登壇した。筆者が全体のモデレータを務め、「アジアでのIT産業活性化を担う人材像の共有」「育成のための国際的な大学連携のあり方」「日本のIT企業のアジア展開における留学生活用方法」に関する議論をリードした。

 アジア各国のIT人材を輩出している大学教授たちに、日本のIT産業と日本人エンジニアはどう映っているのか。これに対して日本の人材育成はどのように対応していけばいいのか。これらの疑問に対する答えを、以下のインタビューから導こうと考えている。


急激に力をつける新興国にとってニッポンIT企業の魅力とは?

小平 国際フォーラム、大変お疲れさまでした。パネルディスカッションでは「海外から見て、テクノロジという側面で日本のどのような点が魅力的なのか」という問いに対して、各国の教授の皆さんがほぼ同じことを回答したことが印象的でした。すなわち、

  • 日本はロボットや車、家電などハード面では魅力的である。また最近ではゲームなどデジタルコンテンツも魅力的
  • ソフトウェア開発や創造性が求められる分野が弱み
  • 技術以外のソフトスキル面では、日本企業のチームワークが強み。一方で語学面では日本語へのこだわりが強い半面、英語のできるエンジニアが極端に少ない

ということです。ここから、「日本のモノづくりはしっかりしているが、ITをはじめとする創造的・革新的なことや海外とのやりとりでは苦手」というようなイメージが定着してしまっているのではないでしょうか。

 日本が得意とするモノづくりの分野ですが、最近は新興国のすさまじい追い上げがあることが分かりました。「メカトロ二クスの分野で、大学が国内・外との産学連携を進めている。また、企業からの奨学金制度を充実させ、IBMやNEC、東芝などグローバル企業が参加する『インターナショナルアドバイザリーボード』を設置している」(ベトナム国家大学ハノイ校 副工学部長 Thuy 准教授)という言葉から、新興国が国内外の企業を取り込んだ「産学連携」を行っている様子が分かります。

中尾教授 各国からの指摘もありますがASISTプログラム(産学協同による地域創造型 アジアIT人材育成・定着プログラム)では、アジア諸国からの留学生を対象とし、研究と実践の両面??大学院教育で取得する学術研究スキルとともに、実践的スキルに精通したITスペシャリスト人材を養成することを目指しています。プログラム修了者が大手IT企業、地域ITベンチャー企業、民間研究機関などにおいて、新規事業開拓や海外事業推進などを担う基幹的人材として活躍できることをイメージしています。

 また、ASISTプログラムでは「実践面をより理解したうえでの研究」「チームワークの理解」という点でインターンシッププログラムを重視しています。海外を見ると、北京郵電大学やベトナム国家大学では実際のプロジェクトに学生が従事し、大学と企業両方にスーパーバイザーを立てて、「大学側は進ちょくの把握、企業側は課題設定」というような、より踏み込んだ連携を進めています。

 海外の教授陣から「日本人エンジニアは英語が弱い」という指摘がありました。確かに海外に出ていく日本人の数が年々減ってきているという話がありますが、一方で国際会議、学会などへ出席をする日本人の学生、若手研究者は以前と比べると増えてきています。また、日本にいる外国人留学生の日本語レベルも向上させる必要があります。ASISTプログラムではビジネス日本語などについての教育も行っています。

小平 語学に関しては2点、面白い話がありました。日本人の英語については「同じ英語でも、今回の国際フォーラムのようにさまざまな国からきた人間がしゃべる英語はイントネーションや発音などが非常に多様だ。だから臆せずにどんどん発言するべきだ(マラヤ大学 計算機科学科 Singh准教授)」というコメント。一方、外国人がしゃべる日本語に関しては「日本人はイントネーションレベルまで完璧な日本語を外国人に求めすぎる。少しでも分からなくなると『すぐ日本人を出してほしい』となりがちである。この意識を変えないと、日本人は語学力以外の専門性で真に優秀な人材はなかなか確保できない(株式会社クララオンライン 家本社長)」というもの。

 これら両方に共通しているのは、「語学が完璧でないと、グローバルなシーンで発言してはいけない」と思い込んでいるニッポン人エンジニアの姿です。それよりも大事なのは、伝える内容、コンテンツ自体をより良いものにするということだと思います。

アジア各国における「グローバル」の意味

小平 今回「アジアでのIT産業活性化を担う人材像の共有」「育成のための国際的な大学連携のあり方」「日本のIT企業のアジア展開における留学生活用方法」というテーマで、アジア各国の教授たちを中心に議論を進めましたが、「グローバル」という言葉の認識や定義付けが一様でないという点が、実は重要ではないかと思いました。いわゆる、IBMやCisco、グーグルに代表されるような「世界標準を作り、一律に束ねる」という進め方の「グローバル」という意味と、他方で地域への産業集積などに基づく「それぞれの特徴を強みとして打ち出し、海外との連携・協業によって進めよう」という意味でのグローバルです。

 同じアジアでも、インド(インド工科大学)やバングラデシュ(バングラデシュ工科大学)など南アジア方面では「世界はいつでも、どこでも一律」というニュアンスが強かったのに対し、日本(東北大学、東京工業大学、会津大学)、中国(北京郵電大学)、モンゴル(モンゴル理工大学)など北東アジア方面では地域企業との連携やその強みをどう海外に打ち出していくか、そのうえでどう国際連携を進めていくのかという志向性があるように感じました。また、地理的にも中間に位置している、タイ(チュラロンコン大学)、ベトナム(ベトナム国家大学)、マレーシア(マラヤ大学)などではそのスタンスも中立的であり、模索中という印象を持ちました。

中尾教授 確かに「世界標準を作る」という意味で、日本のIT産業はまだ世界を主導する立場になり得ていないといえます。一方で、地域のIT企業が海外に出ていくに際しては、ハードスキル、ソフトスキルともにその独自の強みをどう海外と連携・協業し展開するのかという点が大切なのではないでしょうか。同じ産学連携でも、会津大学では共同研究やインターンシップにおいて地域のITベンチャーと連携を進める一方、インドのIT企業とも連携するなど国内外、大手・中小とバランス良く連携をしている点も注視すべきポイントだと思います。

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