時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。
あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。
2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。
今回は、エグゼクティブ・サーチファームである日本コーン・フェリー・インターナショナルの会長、橘・フクシマ・咲江氏に話を聞いた。
フクシマ氏は、経済同友会幹事、花王、ソニー、ベネッセホールディングス、ブリヂストン、パルコなどの社外取締役を務め、ほかにも内閣府 対日投資会議専門部会 委員会委員、外務省「世界の中の日本・30人委員会」委員などを歴任している。また、『人財革命』『会社を変える 会社を変わる』など、著書を多数執筆している。世界で活躍する多くのエグゼクティブと接してきた同氏の目に、ニッポン人エンジニアはどう映っているのか。
小平:コーン・フェリー・インターナショナル(以下、コーン・フェリー)といえば、世界的なエグゼクティブ・サーチファームです。まずは、エグゼクティブ・サーチの概要と、グローバルな視点で見た外部環境の変化について教えていただけますか。
フクシマ氏:コーン・フェリーは昨年、設立40周年を迎えました。創業者は、2人のアメリカ人公認会計士です。彼らは、会計事務所で監査をしている際に「経営には優秀なリーダーが必要である」という問題意識を強く持って独立しました。
われわれは、主に「取締役以上のエグゼクティブレベルのポジション」を対象に、「企業側に立って人材戦略をお手伝いする」というスタンスでコンサルティングを行っています。日本オフィスは、アメリカとEUに続く3つ目の拠点として、1973年に設立されました。もともと外資系企業の顧客が多かったのですが、現在は日本でもエグゼクティブ・サーチが一般化しつつあり、国内でのニーズが増えています。コーン・フェリーは世界の87拠点で展開しており、そのうちアジアには17拠点あります。ここ数年における中国とインド拠点の成長は目覚ましく、サーチビジネスを通じて「経済成長の基盤がどこに移行しつつあるのか」を感じています。
わたしは昨年から今年にかけて、国内38社の社長・会長に対して「CEO後継者選定における資質要件の優先順位」についてインタビュー調査を行いました。調査結果としてまだ数は少ないですが、「国籍にこだわらない」傾向も出てきているので、今後5年から10年で次世代経営者像は大きく変わってくるのではないでしょうか。
小平:グローバルな視点から、経営者に接しているのですね。「将来の経営者」という観点から日本のエンジニアを見て、どのように感じますか。
フクシマ氏:「エグゼクティブ候補」という観点からお話ししましょう。アメリカでは、大学で理工系を専攻したエンジニアが実務経験の後にMBAに進学、再び企業で経験を積んでCEOになる、というキャリアパスが一般化しています。つまり、経営における「ハード面」といえる数字に強いエンジニアが、管理などの「ソフト面」を勉強することで両方のスキルを習得し、高い技術とマネジメント能力をバランスよく持つ人材となります。もちろん、文系のCEOも多いですが、理科系出身のエンジニアがMBAを取り、「技術力を持つ優秀な経営者」になるケースはよくあります。
一方、日本の場合は「エンジニアは技術のことだけを考えていればよい」というような、「理系・文系」の区分けがはっきりしすぎている風潮を感じます。これは非常にもったいないことです。日本のエンジニアは優秀だと思いますが、技術のプロフェッショナルになるだけでなく、リーダーとして、人の管理やリーダーシップといった経営力を身につけ、職域を広げていくことが大切なのではないでしょうか。
エンジニアには「よい技術を組織としてどう生かして、ビジネス化していくか」という視点も大切になります。その意味では、技術についてよく分かっているエンジニア出身者がトップとなり、「エンジニアのことはよく分かっている」という姿勢を示すことも必要なのではないでしょうか。そうすれば、エンジニアたちも「経営者は技術を重視している」と考え、会社に対する信頼や期待が醸成でき、研究にも身が入るという点でも意味のあることだと思います。わたしが取締役と報酬委員会議長を務めたソニーの中鉢良治副会長(前社長)はエンジニア出身で、そのような存在だと思います。
小平:いまの日本人の若者の中には、海外に興味を持たない「国内志向」、いまいる立ち位置から外を見ようとしない「内向き志向」があるように感じます。国内外を問わず、さまざまな活動をしているフクシマさんから見て、このような若者の傾向は、世界と比べるとどのように感じますか。
フクシマ氏:上海のある学校を見学したときの経験を紹介しましょう。その学校はいわゆるエリート校で、3歳から8歳までの子どもたちが寄宿舎で生活をして、週末だけ自宅に帰るという生活をしています。この学校のトイレには、20種類の蛇口が付いていました。なんと、世界各国の蛇口が並べてあり、しかもそれはすべて形状が異なるのです。これは一例にすぎませんが、その学校では「世界は多様である」ことを幼いうちからいろいろな方法で教えているのです。
また、アメリカ人の先生が英語でお菓子作りを指導しているのですが、来客であるわたしを、わずか3歳の子がホストとして世話をしてくれました。当然、日常生活においても、「身の回りの世話は自分でする」という教育が徹底されています。もちろん、これは一部の現象であり、一般化して語るべきではないかもしれません。それでも、彼らが成人したとき、同世代の国内志向の日本人と同じ職場に入ったら一体どういうことになるのか、と想像してしまいます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.