技術にどう向き合うか――マーケ重視の韓国、モノ作り重視の日本海外から見た! ニッポン人エンジニア(9)(1/2 ページ)

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件である。本連載では、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューをとおして、IT業界の世界的な動向をお届けする。ITエンジニア自らが時代を読み解き、キャリアを構築するヒントとしていただきたい。

» 2011年02月07日 00時00分 公開
[小平達也@IT]

 あるときは案件があふれ、またあるときは枯渇して皆無となる……。「景況感に左右されないエンジニアになるためには、どうすればいいのか」。これは多くのエンジニアにとって共通の課題であろう。

時代を読む力は、生き残れるエンジニアの必須条件だ

 2009年11月からスタートした「海外から見た! ニッポン人エンジニア」では、グローバルに特化した組織・人事コンサルティングを行うジェイエーエス 代表取締役社長 小平達也が、海外と深い接点を持つ人物へのインタビューを通じ、世界の経済・技術動向、文化や政治などの外部環境の最新状況を掘り下げていく。

 今回は、多摩大学 経営情報学部 金 美徳(キム・ミドク)教授に話を聞いた。金氏は、三井物産戦略研究所を経て、現在は大学で現代韓国論と北東アジア論を教えている。日本・中国・韓国・北朝鮮・ロシア・モンゴルからなる「北東アジア」の情勢全般に詳しい金氏の目に、日本企業とニッポン人エンジニアはどう映っているのか。



サムスンに現代自動車……意外と知らない韓国企業躍進の背景

小平 ここ数年で、韓国経済の好調さが日本国内でも注目されています。特にサムスン電子やLGエレクトロニクス(旧称 LG電子)、現代自動車にポスコなど、新興国における韓国企業の躍進は目覚ましいものがあります。この背景には何があるのでしょうか。

金 美徳教授 多摩大学 経営情報学部金 美徳教授

金教授 新興国における韓国企業の躍進は、10年前にさかのぼります。2001年11月、ゴールドマン・サックスが出したレポートの中で初めて、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)という言葉が出てきました。サムスン電子はこのレポートに直ちに反応して新興国市場に進出し、2003年には1兆円の利益をたたき出しました。「即行動」、これがキーポイントです。もし、日本企業が8年前に韓国企業の躍進について要因分析をしていたら、「新興国市場の台頭」というトレンドをもっと早く捉えられていたでしょう。

小平 なるほど。新興国における韓国企業の動きを、日本企業は競合として直視できていたのかどうか、ということですね。とはいうものの、一般的な日本人のビジネスパーソンやITエンジニアにとっては、いくら経営者が「韓国企業の動向をウオッチせよ」といっても、なかなかピンとこないと思います。金教授は、この理由がどこにあるとお考えですか。

金教授 いくつか理由があると思います。そもそも、日本国内では「韓国企業」や「韓国製品」といっても、ブランドのイメージが分かりづらいのではないでしょうか。それに、「韓国製品がいくら世界で売れているといっても、品質などはまだ劣っているだろう」という先入観もあるでしょう。さらにいえば、日本では韓国企業の動向を知る機会自体がまだ少ない、ということもあると思います。

小平 確かに、中国などに比べると、韓国企業のビジネス展開を知る機会は少ないかもしれませんね。冷静な分析や議論に触れられる機会が少ないというご指摘も、そのとおりだと思います。

金教授 日本企業は、必ずしも韓国企業から学ぶ必要はありません。しかし、少なくともその動きや情報は見続けておかなければならない。わたしはこのように考えるのです。

マーケ重視の韓国、モノ作り重視の日本

金教授 では、韓国企業と日本企業、それぞれの特徴と強みについて見ていきましょう。まず、「経営者」について。韓国企業は、10大財閥のうち、なんと8財閥がオーナー社長です。オーナー社長の場合は、意思決定のスピードが早く、リスクテイクがしやすいという特徴があります。新興国市場にもオーナー社長が多いため、韓国企業の素早い決断は、取引先の経営者に受け入れられやすいという事情もあります。

 「経営スタイル」と「技術開発」についても、大きな違いがあります。日本企業が「モノ作り」重視、「技術イノベーション(技術改善)」志向であるのに対し、韓国企業は「マーケティング」重視、「技術マネジメント(技術をよそから購入し、自社開発を組み合わせる)」志向です。

 韓国企業がマーケティング重視、技術マネジメント志向である背景には、基礎研究するだけの十分な時間や予算をかけられなかったという事情があります。、その分、韓国企業は自分たちの技術にしばられることがないため、新興国では顧客ニーズをくみ上げることに成功しています。例えば、現代自動車は、インド人がターバンを巻いたまま乗れるよう、天井を高くした自動車をインドで販売しています。日本モデルをそのまま輸出して「日本化」を推進する日本企業と、韓国モデルを修正して「現地化」を図る韓国企業では、こういうところで海外戦略に違いが見られます。

 最後に「人事戦略」についてです。韓国には、徴兵制度における過酷な経験、熾烈(しれつ)な受験戦争や就職活動があります。これらを経て入社した人材のために、韓国ではエリート教育、そして徹底した成果主義が取られています。また、韓国では50代前半で実質的に定年となります。企業からすれば、高い人件費を負担しなくてよいのですが、個人にとっては大変です。

小平 日本にも、中長期を見据えた良質の経営をしているオーナー型企業がそれなりにあると、企業訪問をしていて感じます。日本の場合、「就職氷河期」といわれるほど就職活動は大変ですが、韓国のような徴兵制はなく、生きるか死ぬかといった体験は滅多にありません。そのため、「社会に無事戻れたら、あれをやりたい」と考え、自分自身と向き合う機会は、日本で平和に暮らしているとあまりないかと思います。あったとしても、「自己分析」ぐらいのものではないでしょうか。

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