1000万ドル調達も夢じゃないクラウドファンディングとは:カイ士伝のアプリライフ(14)
話題を集めるクラウドファンディングは、寄付型でも投資型でもない「購入型」が主流。商品を“開発する前に販売”して開発費用を集める逆転のシステムだ
個人がパトロンになれる時代
日本全体を取り巻く大不況の中で、ベンチャー企業や起業そのものを支援する形として取り上げられて話題を集めているのが「クラウドファンディング」という仕組みだ。
「Cerevo DASH」というクラウドファンディング運営に参画する筆者が、その設立や運営に携わった経験の中から感じたクラウドファンディングの仕組みやそのメリットを紹介する。
個人が起業を支援する
前回取り上げたクラウドオンラインストレージと今回のクラウドファンディングは、「クラウド」と同じ名前を冠するものの、前者は雲を意味する「Cloud」であるのに対し、後者は群衆を意味する「Crowd」と、意味するところは全く異なる。
クラウドファンディングは、直訳すれば「群衆の資金」、つまり特定のプロジェクトに対して個人が資金を提供できるプラットフォームだ。具体的にはWebを通じて自身のプロジェクトを公開し、そのプロジェクトに共感したユーザーがそれぞれ資金を提供、集まった資金を元にプロジェクトを進めることができる。
クラウドファンディングは大きく3つの分類があるとされている。1つは個人が一切の見返りを求めずに支援する「寄付型」、もう1つが金銭以外の見返りがある「購入型」、そして最後が金銭のリターンを想定する「投資型」だ。
3つの手法のうち、寄付型については以前から存在していた文化だ。フリーソフトの開発などは、ソフトそのものは無料なものの、開発者を応援する目的で寄付を受け付ける開発者が存在。Webサービスの世界では、個人で携帯電話向けTwitterクライアント「モバツイ」を開発していた「えふしん」氏が、ユーザーからの寄付を集め、個人で負担していたサーバ開発費用に充当した、という事例もある。また、投資型については上場などの条件はあるものの、株式会社などはそもそもそういうシステムといえるだろう。
商品を“開発する前に販売”する逆転のシステム
最近になって話題を集めるクラウドファンディングは、寄付型でも投資型でもない、「購入型」が主流になっている。購入型の場合、ファンディングの対象となるプロジェクト発起人は、プロジェクトの内容とそれを達成するための目標金額や人数、支援に応じた見返りの内容を「○○という製品を1万円で100名に」といったように設定。内容に共感した個人の支援により目標金額を達成するとプロジェクトが実際に動き始め、支援者には当初約束していた製品が送られる、という仕組みだ。
なお、現在のクラウドファンディングでは目標金額を達成できなかった場合は、その支援金額をすべて返還する「All or Nothing」方式が主流となっており、支援したにもかかわらず、何もリターンがないということはない。
新しく話題になったサービスではあるが、最低催行人数が設定された団体旅行をイメージすると分かりやすい。この場合は旅行というプロジェクトに納得したユーザーがその額を支払い、無事に目標人数を集めると旅行は実施され、人数を下回った場合は旅行が実施されない。クラウドファンディングもこうした仕組みにほぼ近い。
企業側・支援側双方にメリット。マーケティングにも有効
なぜ今このクラウドファンディングに話題が集まっているかといえば、小規模な事業者や個人でも事業を興しやすいためだ。新たなビジネスを始めるにはその規模に応じた金額が必要だが、個人や小規模事業主ではそれだけの金額を事前に集めるのは難しい。これまでは自ら借金を背負ってまでビジネスに投資する起業家も多く、今では日本を代表する企業となったグリーの田中良和社長も、個人でサービスを運営していた頃は何枚ものクレジットカードでキャッシングしながらサーバー運営費用をまかなっていたと、数々のイベントで話している。
クラウドファンディングを使えば、こうした事前の金銭負担は非常に少なく、資本を持たない小規模な事業者や個人でも新たなビジネスや製品に関するプロジェクトを立ち上げやすい。一方の支援者も、提示されたリターンに納得した上で支援を行なうため、プロジェクトが成立すれば見返りが手に入るという、両者にメリットがある仕組みになっている。
クラウドファンディングはマーケティングの面でも有効だ。通常、サービスや製品の開発は当然のことながらサービス開始や販売前に開発を行なう必要があるが、その点でユーザーのニーズを把握することは難しい。クラウドファンディングは開発に着手する前に内容を紹介することでユーザーの反応を把握でき、支援者とはそのままユーザーとして関係を継続できる。万が一ニーズがなかった製品やサービスも、本格開発前にその情報を把握できるという点ではリスク管理としてのメリットも大きいといえる。
「Kickstarter」の成功を受けて日本でも活発に
クラウドファンディングが注目されるきっかけとなったのは、米国で2009年にサービスを開始した「Kickstarter」の存在が大きい。2010年6月には、Facebook対抗を目指したSNS「Diaspora」が目標金額の1万ドルを大幅に上回る20万ドルを集めて話題になった。その後もKickstarterを通じて巨額の資金を集めた事例は増えており、最近ではスマートフォンと連携する腕時計「Pebble」が1000万ドルを超える資金を集めることに成功している。
日本でもKickstarterの成功を受けて、クラウドファンディングが徐々に立ち上がっている。オーマが運営する「READYFOR?」は、陸前高田市の震災支援で800万円を超える支援を集めて目標を達成。ハイパーインターネッツの「CAMPFIRE」はサービス開始から1年も経たずに100を超えるプロジェクトを掲載、こちらも100万円超の達成実績をいくつも生み出している。
筆者が所属するCerevo DASHは、CAMPFIREと連携したガジェット特化型のクラウドファンディング。支援を集めるプラットフォームとしてはCAMPFIREと連携しつつ、ベンチャーながらもライブ配信用機器「LiveShell」などを手がけたノウハウを生かし、ガジェット開発のアドバイスや開発支援、販売支援などを行なうという、両者の得意分野を生かした協業を行なっている。
成長するクラウドファンディング。課題はプロモーション
昨今の起業ブームに伴い、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響の復興支援として「個人による支援活動」も定着しつつあり、クラウドファンディングの分野は今後も期待される分野だ。実際に前述の2サービス以降もクラウドファンディングがいくつも立ち上がっており、今後もしばらくこうした流れは続くだろう。
もちろん、クラウドファンディングにもまだまだ課題は多い。実際のサービスや製品開発前に内容を公開することは、ともすればアイディア盗用の危険性も無いとはいえない。また、初めからプロジェクトを達成してもリターンを履行する気はない詐欺行為の危険性もあり、この点はプロジェクト審査体制の強化も必要になる。
こうした課題に加えて、最大のポイントはプロモーション力だろう。大企業の場合は製品開発力や資金力はもちろんのこと、実際に完成した製品を世の中へ伝えるプロモーション力も合わせて持っている。クラウドファンディングの場合、総じてプロジェクト起案者はそうした力を持たない小規模事業者のため、いいプロジェクトやサービスであっても、世の中に知られることなく終わってしまう可能性もある。
今後もますます活性化が期待されるクラウドファンディングにおいて、盗用や詐欺といった不正行為への対策はもちろんのこと、クラウドファンディングとしての存在感や知名度を高めていくことも重要な課題だ。
とはいえ、Kickstarterもサービス開始時からPebbleのような大成功事例を持っていたわけではなく、数年に渡って運営を続けてきたからこその成功だ。筆者がクラウドファンディング事業にかかわっているということはもちろん、大企業とはまた違った魅力的かつ動きの早いプロジェクトを実現していくためのプラットフォームとしても、今後のクラウドファンディングには期待したい。
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