サービス残業はダークサイド。ブラック企業の労働実態と対策:IT業界をたくましく生きるための労務入門(3)(2/2 ページ)
元SE、現社会保険労務士の筆者が、ITエンジニアが知っておくと便利な労務用語の基本を分かりやすく解説します。
年次有給休暇をとると、その分、給与から引かれてしまう
「年次有給休暇をとると、その分、給与から引かれてしまう」。これは、客先へ常駐で働いてる場合にありがちなトラブルです。
年次有給休暇を取ると、その分、客先での就業時間が減ってしまうため、会社に支払われる委託報酬額が減らされた分を、本人の給与から差し引いて支給されるというケースです。
客先へエンジニアを常駐派遣する場合、多くの契約は「作業時間」が基本です。年次有給休暇を取得した分、客先での実作業時間が少なくなってしまうと、減少した時間数に応じて会社に入る委託報酬額が少なくなる場合、年次有給休暇を取得した本人の給与から取得日数に応じて給与から差し引いていたそうです。
ここでしっかり認識しておくべきは「年次有給休暇は法律で労働者に与えられている権利」だということです。
入社日より6カ月経過した時点で8割以上出勤した場合に10日、それ以降は勤続年数に応じて最大20日まで付与されます。計算方法はいくつかありますが、これは「有給」扱いとしなければいけません。
会社都合で自宅待機となったのに、休業手当の代わりにパソコンを現物支給された
派遣されていた先での開発案件が急に中止となって自宅待機を命じられた際に、休業手当の代わりにとパソコンが現物支給されたケースです。このケースでは、1カ月目はパソコンが現物支給され、2カ月目は社員に年次有給休暇を消化するようにと会社から指示がされていました。
会社都合で自宅待機となった場合には、休業期間中、平均賃金の60%以上の休業手当を支給しなければいけません。また、現物支給ができるのは労働組合と労働協約を結んでいる場合に限られます。労働組合のない一般企業では、賃金の一部を現物支給することはできません。
また、このケースでは「2カ月目は社員に年次有給休暇を消化するように」と指示していますが、年次有給休暇の取得を会社に請求するかどうかは、会社が決めるものではなく、社員に委ねられています。そのため、年次有給休暇の計画的付与の取り決めなどがない限りは、会社が一方的に取得を指示することはできません。
暗黒面に堕ちないために
上記以外にも土日の休みなく100日連続勤務をしていた、先輩のエンジニアから長年に渡りいじめを受けていたケースなど、涙なくしてはお伝えできないものが数多くあります。
企業側は自社がブラック企業と言われない/ならないように、日頃から労務面でのトラブルが起きないような仕組み作りをすべきです。
社員側も、「うちはブラック企業だ!」と簡単に表現せず、本当に会社がダークサイドに堕ちているのかどうか、冷静に判断すべきです。本当にブラックだと感じた、あるいは本記事でブラック企業だと気付いてしまった場合は、自衛手段を取りましょう。
残念ながら、個人だけの努力では、会社そのものの姿勢を変えることはなかなか難しいのが実情です。専門家に相談するか、あるいは思い切って環境から抜け出す、というのも手でしょう。
最後に、ブラック企業に多いとされる特徴を紹介します。
◎ブラック企業に多いとされる特徴
- 会社の創業年数に比較すると社員の平均年齢が若い(離職率が高い)
- 長期間働いている女性社員が少ない(企業が社員をどう見ているかが分かる)
- 先輩社員の年齢幅が大きく、数年上の先輩がいない(組織がバラバラ)
企業は、多かれ少なかれブラックになる前提を持っているとされています。エンジニアの皆さんが、楽しい開発ライフを送ることができるよう、願っています。
筆者紹介
社会保険労務士
文:成澤紀美(なりさわきみ)
弘前大学人文学部卒業後、大学時代から興味があったコンピュータに関わる仕事を目指し、業務系システム 設計に長年、携わる。人事管理システム設計をきっかけに企業人事・労務の道へ。
1998年社労士 試験合格。1999年1月、なりさわ社会保険労務士事務所を開業。 IT関連の顧問先が約8割という業界専門の事務所でもある。
イラスト:nisacchimo
にっちもさっちもいかない、業務系エンジニア。SFとコーヒーと自転車が好き。
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