元SE、現社会保険労務士の筆者が、ITエンジニアが知っておくと便利な労務用語の基本を分かりやすく解説します。
IT業界では、とかくサービス残業や長時間労働が問題になります。前回まで、「労働時間の考え方と」「時間外労働の計算方法」を解説しました。
●解説する単語
前回の「時間外労働の捉え方と正しい計算方法」を読んだエンジニアの中には、「実際は残業代なんてそんなに出るわけない……」と嘆いている人もいることでしょう。
今回は、実際に相談を受けたケースから「ブラック企業の労働実態」を取り扱います。
「残業をいくらしても、残業代が一向に出る気配がない」
いわゆる「サービス残業」のトラブルです。
「毎月の給料に残業代が含まれているから」と会社から説明され、毎月どれほど残業しても残業代が支払われない、というケースです。
この種のトラブルには、主に2パターンあります。本当に残業代が支払われていない場合と、社員と会社の認識の違いから誤解が生じている場合です。
今回はブラック企業の実態がテーマなので、実際に残業代が支払われないケースを見ていきましょう。
●ケース1:「うちの給与は年俸制だから」
「うちの給与は年俸制で金額が決まっているから」と会社から説明され、残業代が一切支払われていないケースです。
年俸制の給与は、プロ野球選手のように「今年1年は○○円で働いてくれ」と年間給与額が固定化され(中には賞与相当分も含んだものもあります)、毎年、年俸額が変更されるという扱いです。
年俸制の場合、この金額のうち一部を残業代とすることができ、「月間○時間の時間外勤務分=年間○時間の時間外勤務分を、年俸額に含むとする」と約束されていれば、一定の残業時間分までは年俸額に含まれます。
「一定時間分の残業代を含む」とされていない場合には、いくら年俸制の給与であっても、残業が発生した分は別に支給しないといけません。深夜勤務や休日出勤も同様です。
●ケース2:「うちは裁量労働制だから」
「うちはエンジニアに裁量労働制を採用しているから」と会社から説明され、残業代が一切支払われていないケースです。
このケースで問題となるのは「本当に裁量労働制が適用されるのかどうか」です。
裁量労働制は、専門業務型と企画業務型とに分かれており、エンジニアに適用できるのは「専門業務型」裁量労働制になります。
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務がある。この中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間、働いたものと見なす制度。システムエンジニア・システムコンサルタントなど、19業務に限定されている。
では、専門業務型の裁量労働制がIT業界の全業務に適用できるかというと、実はそうではありません。上記のとおり、裁量労働制が適用できるのは特定業務に限定されています。
19業務のうち、システムコンサルタントは「事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務」、システムエンジニアは 「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう)の分析又は設計の業務」に相当します。そのため、プログラミング実装のみを担当する場合は裁量労働制を適用できず、通常の労働時間の管理方法しか使えません。
つまり、「裁量労働ではない=残業が発生したら残業代の支給対象になる」というわけです。
●ケース3:「うちの給与には残業代が含まれているから」
「うちの給与には残業代が含まれているから」と会社から説明され、残業代が一切支払われていないケースです。
いわゆる「見なし残業代」として一定時間分の時間外手当額があらかじめ給与に含まれている場合であっても、もともと定めてある時間を超えた場合には、超えた分の時間外勤務手当が支払われなければいけません。
また事前に「見なし残業代」が含まれているとされていても、就業規則に計算根拠が具体的に定められていない場合には、「見なし残業代が含まれている」とは認められません。
そのため、すべて時間外勤務手当の計算元に含めた上で計算をする必要があり(※法律で割増賃金を計算する際に除外できる諸手当は除く)、結果的に割高になってしまうことがあります。
●ケース4:「残業時間には制限があります。超えるとサービス残業です」
「労働組合との取り決めで毎月の残業は20時間まで」とされているが、実際には20時間で仕事が終わらず、平均しても80〜100時間は当たり前。残業時間の上限を超えた分は、自動的にサービス残業になっているケースです。
企業規模もある程度大きく、労働組合もあるから労働環境は悪くないだろうと安心していたら、実質サービス残業させられていたという事例がありました。もちろんこれは労働基準法違反です。
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