元SE、現社会保険労務士の筆者が、ITエンジニアが知っておくと便利な労務用語の基本を分かりやすく解説します。
●解説する単語
うつ病や適応障害などは、社会的な認知が広がり、以前に比べて身近なものとなりました。
企業でも、メンタルヘルスは重要な問題になっています。メンタル不全者に対する休職・退職のケア、休職中の業務をカバーするための人員補充、生産性の低下、職場の雰囲気の悪化、業績への影響など、企業側はさまざまな対処を求められます。
メンタルヘルス問題は、今では企業責任や管理者責任まで問われるようになっています。
実際、私たち社会保険労務士のところへやってくる相談のうち、最も相談件数が多いのが「メンタルヘルス」関連の問題です。
特にIT関連企業では、パソコンを多用する仕事環境や業務の大変さ、対面での職場内コミュニケーションの希薄さ、過重なノルマやタイトなスケジュール、エンジニアとしての責任感など、さまざまな要因が絡み合い、メンタルヘルス関連の問題が多数続発しています。
そこで今回は、とあるIT企業で起こった具体事例を紹介しながら、うつ病が起きた場合の労務的な事後対策、そしてメンタルヘルスの予防策について解説します。
出社拒否になったエンジニアの、ある事例を紹介しましょう。
エンジニアのAさんは、ある開発プロジェクトに召集されました。このプロジェクトのマネージャは、実に分かりやすい気分屋で、気分のムラがとても激しい人でした。
開発が進んで1カ月ほど経ったとき、Aさんの作ったプログラムにバグが見つかりました。それほど大きな影響のあるバグではなかったのですが、たまたまその日はマネージャの虫の居所が悪く、他のメンバーの目の前で
「だから(何が?)、お前の作ったプログラムは信用できない」
「前から、お前は危ないやつだと思っていた」
など、根拠のない怒り方をしました。
それ以来、マネージャはささいなことでも絡んでくるようになり、ちょっとしたパワハラ行為に近いものになっていきます。毎日のようにネチネチと仕事に関係ない事まで言われるようになり、Aさんはある日突然、会社に来なくなってしまいました。
●ストレス
「ストレス」は、「心身に負荷がかかった状態」と考えられています。
「負荷」とは例えば、ボールを握るとそこに圧力がかかり、ひずんだような状態になっていることを指します。
ストレスは、生物が「外的/内的な“刺激に適応”していく過程」を概念化したものです。気温が変わればそれに適応、仕事の内容が変わればそれに適応、人間関係が変わればそれに適応していく――というように「環境の変化」に適応していく際の反応プロセスが、ストレスという概念です。
●ストレッサー/ストレス反応
ストレス状態を引き起こす要因を「ストレッサー」と呼びます。このストレッサーによって起こる体や心の反応のことを「ストレス反応」といいます。
外部からのさまざまな刺激がストレッサーとなり得ます。ストレッサーは、私たち身の周りのどこにでもありますが、何が原因でストレスになるかは人によって異なります。また、同じ人でも、その時々の体や心の状態によって変わってきます。
●まずは事情を聞く
Aさんと連絡が取れるようになったのは、出社しなくなってから3日後のことでした。会社でマネージャと顔を合わすのは嫌だというので、外で会うことになりました。
話を聞いてみると、「出社してマネージャに会うと思うだけで足がすくみ、鼓動が速くなってしまう」「ドアノブに手をかけると汗が吹き出し、動けなくなってしまう」というものでした。
●休職の判断
これでは仕事にならない、と会社は判断しました。しばらく休職をして体を休め、回復に向けて治療に専念してもらうよう、指示しました。
休職とは、会社に在籍したまま長期間の労働義務が免除された状態で、雇用契約はそのまま持続すること。私傷病などの理由により就業が不可能になったときに、就業規則などに定めることにより適用される。
労働基準法では、休職制度があるときは就業規則などに明記すること以外、特に休職について論及してないため、制度の内容については使用者が自由に定めることは可能。
休職期間は勤続年数などで差異を設けるのが一般的。私傷病休職では数カ月〜数年、事故休職は3〜6カ月、起訴休職や出向休職などは事由消滅までとすることが多い。
休職事由がなくなれば休職期間中であっても復職できるのが一般的だが、一度復職しても、再度休みがちになったり、休職理由が続くようであれば、休職期間の延長、退職などとなる場合もある。
●復職の手助け
結局、休職は6カ月続きました。その後、短時間勤務での緩和勤務を3カ月ほど続けた結果、現在はエンジニアとして復職しています。
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