元SE、現社会保険労務士の筆者が、ITエンジニアが知っておくと便利な労務用語の基本を分かりやすく解説します。
夜中の緊急対応、システム障害など、時間外労働や休日出勤が必然と多くなる、IT業界。サービス残業がよく問題になりますが、「時間外労働」には実はさまざまなルールがあるのをご存じですか?
●解説する単語解説する単語
前回「あらゆる労働の基礎、『労働時間』の定義と考え方」では、基本中の基本、「労働時間」を解説しました。しかし、皆さんが肌身で感じているように、「労働時間」内にきっちり終わるわけではありません。
今回は、労働時間で問題になる「時間外労働」について、「時間外労働のとらえ方・計算方法」を解説します。
さて、一言で「残業」といっても、実はさまざまな種類があります。
あなたが1カ月の間に上記をすべて経験しても(そうならないことを祈りますが)、支払われる賃金の額はすべて異なります。その理由は「割増賃金」の計算方法にあります。
●割増賃金
法定労働時間を超えた場合、深夜(午後10時〜翌午前5時)に勤務した場合、休日に勤務した場合などには、企業は一定以上の給与を支払うように法律で定められています。これを「割増賃金」と呼びます。
なんとなく「長く働けばその分、賃金が支払われる」というざっくりしたイメージがあるかもしれませんが、割増賃金は3つのパターンがあります。さらに、複数の労働パターンが組み合わさった「コンボ技」もあります。
エンジニアからよく質問があるのが、「土曜日に出勤したら、休日勤務手当が支払われるのか?」というケースです。
就業規則にもよりますが、土日が休日となっている場合、一般的には日曜日を「法定休日」としています。そして土曜日は「所定休日」とみなされ、通常の時間外労働と同じ割増率(25%以上)の時間外手当が支払われていればいい、とされています。
【例その1】月〜金曜日までの所定労働時間が8時間、残業をしなかった場合
土曜日に出勤したら1週間の法定労働時間を超えるため、超えた分は25%以上の割増賃金が支払われます。さらに日曜日も出勤した場合、35%以上の割増賃金が支払われなければなりません。
【例その2】月〜金曜日までの所定労働時間が7時間30分、残業をしなかった場合
土曜日に出勤しても、2時間30分(30分×5日分)は1週の法定労働時間内(法定労働時間と所定労働時間の違いについては、第1回「法律上の労働時間」を参照)におさまるため、割増賃金は支払う必要がない、とされます。
とはいえ、多くの会社では、1週間の所定労働時間が法定労働時間より短くても、休日に出勤したら一定の割増賃金を支払うというルールになっています。
●深夜労働
深夜労働は、「午後10時〜翌日の朝5時までの労働」を指します。
この時間帯に働いたら必ず割増賃金を支払わなければいけません。1日の労働時間が何時間であったとしても(夜中に2時間だけ働くという形態であっても)です。
例えば、午後5時から働き始めた場合、途中休憩を1時間取ったとして午後10時の時点では4時間しか経過していませんが、午後10以降の勤務に対しては、25%以上の割増賃金が発生します。
これがいわゆる「コンボ技」、「時間外労働+深夜労働」の重複パターンになると割増賃金率もそれぞれを足した率を支払わなければいけません。
ただし法定休日は、法律で定めた休日に勤務していることから、初めから割増率が高くなっています。この場合、時間外労働ではありますが、35%以上の割増賃金が支払われればよく、深夜労働の場合は、さらに25%以上の割増率が足されます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.