労務相談で最も多い、IT業界のメンタルヘルス・うつ病問題:IT業界をたくましく生きるための労務入門(4)(2/2 ページ)
元SE、現社会保険労務士の筆者が、ITエンジニアが知っておくと便利な労務用語の基本を分かりやすく解説します。
対応その2:マネージャはどうなったか?
このマネージャの下で働くエンジニアの退職が続いたことから、会社もようやくマネージャにエンジニア退職の原因があるのではと気付きました。
業務の進め方や社員との接し方に関する改善指導が繰り返し行われましたが、結果は思わしくなく、最終的にはマネージャから降格させることになりました。
事後対策だけではなく、予防策も重要
今回はマネージャとの折り合いが原因でメンタル不全を引き起こしたケースをお伝えしましたが、長時間労働が長期間続くことでメンタル不全を引き起こしたり、カットオーバー後のバーンアウト(燃え尽き)からメンタル不全を引き起こすケースも多く見られます。
上記の例で紹介したのは、うつ病が発生した後の対策でした。一方、企業にはメンタルヘルス問題が起きにくいようにする「予防策」も重要です。
メンタル不全の予兆を事前に察知する環境づくり
多くの企業がメンタルヘルス対策で一番悩んでいるのは、うつ病などは目に見えない症状であるため、本当に病気なのか、やる気がないだけなのかの判断がつきにくいというところです。
対策の必要性は感じているものの、具体的に何をすればいいのか分からないという企業は決して少数派ではありません。試しにEAP(従業員支援プログラム)などを導入しても、会社に結果や状況がレポートされるわけではないため負担がかかるばかり……と、具体的な対策が後手になりがちなのが実際のところでしょう。
●定期的な面談
やはりまずは定期的に面談を実施し、日頃の働き方や心の状況を確認することが重要です。
現場で働くエンジニアに直接会って話を聞くところから、「自分の価値を認めてもらえる」という意識を相手に持ってもらい、安心させることが求められます。
●ストレスチェック
また定期的な面談と合わせて、ストレスチェックなども実施します。
チェックにより、今のストレス度合いや、何がストレスの原因になっているかを大まかでもいいので把握できるでしょう。
●日ごろのコミュニケーションが一番大事
身近な上司や先輩が、日頃からメンバーの様子を気にかける、普段と違う様子が見らるようになったら本人の話を聞く――といった日常のコミュニケーションがメンタル不全を起こさないための最善策のように思います。
エンジニアの皆さんは、所属する企業がどのようなメンタルヘルス対策を取っているのか、確認してみることをお勧めします。
■次回予告
今回は、最も相談が多いメンタルヘルス・うつ病について、制度と企業の対策について解説しました。次回は、エンジニア個人から見た「メンタルヘルス問題」について解説します。
参考文献
▼社団法人日本産業カウンセラー協会『産業カウンセリング/産業カウンセラー養成講座テキスト』一般社団法人産業カウンセリングサポートセンター、2010年。
▼ストレスケア・コム
▼うつ病専門サイト
▼社団法人日本産業カウンセラー協会
▼ストレス・ラボ
筆者紹介
社会保険労務士
文:成澤紀美(なりさわきみ)
弘前大学人文学部卒業後、大学時代から興味があったコンピュータに関わる仕事を目指し、業務系システム 設計に長年、携わる。人事管理システム設計をきっかけに企業人事・労務の道へ。
1998年社労士 試験合格。1999年1月、なりさわ社会保険労務士事務所を開業。 IT関連の顧問先が約8割という業界専門の事務所でもある。
イラスト:nisacchimo
にっちもさっちもいかない、業務系エンジニア。SFとコーヒーと自転車が好き。
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