JAZUG/html5j設立者たちが語るコミュニティ参加のおいしい話:ITエンジニアの未来ラボ(2)
ITエンジニアは未来に向けてどのような道を歩むべきかを探る@ITの特集「ITエンジニアの未来ラボ」。第2回は、JAZUGとhtml5jという日本を代表する開発者コミュニティの設立に携わった橋本圭一氏と白石俊平氏にコミュニティ参加のメリットなどを語っていただいた。
エンジニアの未来はコミュニティで作られる
勉強会やユーザー会など、プロのエンジニアたちが業務を離れたところで自発的に運営・参加するコミュニティ活動が、かつてないほどの盛り上がりを見せている。事実、コミュニティ活動の中で仕事の重要なヒントをつかんだり、あるいは自身のキャリアパスを切り開くエンジニアも多いと聞く。
しかしその一方で、コミュニティに積極的に参加する顔ぶれはいつも同じで、多くのエンジニアはコミュニティへの参加に高いハードルを感じている面もあるようだ。@ITが2014年9月に行った読者調査でも、大部分の回答者が、自身のスキルアップやキャリア形成のために、コミュニティを活用せず独学しているとの回答を寄せている。では、コミュニティから一般エンジニアを遠ざけているものは一体何なのか? そして、エンジニアはコミュニティに参加することで、一体何が得られるのか?
本稿では、国内におけるMicrosoft Azureのユーザー会「JAZUG(Japan Azure User Gloup)」の発起人の一人である橋本圭一氏と、HTML5のコミュニティ「html5j」の設立者であり元代表の白石俊平氏に、コミュニティ活動に長らく携わってきた経験を踏まえ、エンジニアが自身の未来を切り開いていく上でコミュニティをどう活用できるのか、大いに語り合ってもらった。
メディアへの記事の寄稿がきっかけでコミュニティの立ち上げに参画
白石氏 私は大学時代は文系で、プログラミングを始めたのは2001年に就職してからなんです。
橋本氏 出自が似ていますね。私も文系出身で、同じく2001年に就職しました。ちなみに大学の専攻はロシア語学科でした。
白石氏 私は経済学部でした。当時は文系出身者でも採用してくれる、寛大な時代でしたよね。学生時代に親しくしていた書店の店長さんの家に遊びにいったとき、たまたまC++の本が置いてあったんです。何でも、店長さんが友人からゲームをもらったら、その中にウイルスが入っていて、PCの環境が壊されてしまったらしいんです。そこで、「自分でウイルスを開発して、その友人に仕返ししてやるんだ!」という目的でC++の勉強をしていたらしくて。
橋本氏 面白い方ですね!
白石氏 その経験があって以来、何となく「プログラマー」という職業が印象に強く残っていて、就職先にもプログラマーの派遣会社を選びました。
橋本氏 私の場合は父がエンジニアで、就職先を選ぶに当たって「これからはIT業界がもうかる!」とアドバイスされて、「ああそうなのか、もうかるのか!」と安易な発想でこの業界に入りました。就職先は大手メーカーだったんですけど、新人研修のプログラミング講習で早くもプログラミングの面白さに目覚めました。といっても、課題を真面目にやるというよりは、講師の悪口を皆で書き込む掲示板を勝手に作ったりしていたんですが(笑)。
白石氏 僕は初めて配属された現場がJavaの開発プロジェクトだったんですが、勉強のために読んだ『Java言語で学ぶデザインパターン入門』(結城浩(著)、ソフトバンククリエイティブ刊)という本でJavaとプログラミングの面白さに開眼しましたね。あれはもう、夜を徹して読み込みました。
橋本氏 私も初めて触れた言語はJavaでしたね。
白石氏 当時は「猫も杓子もJava」という感じでしたからね。ちなみに、コミュニティ活動に携わるようになったきっかけは何だったのですか?
橋本氏 就職して5年ほど経って、会社の環境に限界を感じ始めてきたんです。モノを開発しているのは現場なのに、実際の案件は「あの部長が入ってきたから大丈夫!」「あの営業が持ってきたから!」といったように、「まずは体制ありき」で決まってしまう。こうした環境に我慢がならなくなって、思い切って独立して起業しました。
その後、.NETの先進的な開発案件を手掛けるうちに、@ITにクラウドについての記事を投稿する機会をいただき、さらには「おばかアプリ選手権」というイベントに参加した際に日本マイクロソフトの砂金さんと知り合いになれて、「Azureを一緒に盛り上げていこう!」と声を掛けていただいたんです。そこで、JAZUGの発足に携わることになりました。
白石氏 この辺りの経緯も似ていますね。僕も記事の寄稿がきっかけでした。開発者としていろんな現場を転々とした後、フリーライターに転身して、Google Gearsについての本(『Google Gearsスタートガイド』技術評論社刊)を書く機会をいただいたんです。それがきっかけでグーグルさんとつながりができて、Google Gearsの研究開発を専門に手掛ける会社を設立しました。
しかし、その後Google Gearsは下火になって、その代わりHTML5にその技術の多くが継承されることになりました。当時、Google Gearsのノウハウしか強みがなかった僕らにしてみれば、もうHTML5に賭けるしか生き残る道はない! そう考えて、グーグルさんに「HTML5のコミュニティを作らないか?」と持ちかけたんです。その結果発足したのが、html5jでした。
情報収集だけではなくモチベーションアップや人脈形成のための場としても
橋本氏 われわれは2人とも、コミュニティに参加する以前に、自ら運営する側としてコミュニティ活動を始めたわけですね。ただ当時は私自身、参加者の立場としてもコミュニティの必要性を切望していました。
というのも、Microsoft Azureがカバーする技術領域は実に広範にわたりますから、その全てを一人のエンジニアが把握するのはもはや不可能なんです。なので、それぞれの分野に強い人たちが集まって情報を共有し合うことで、Microsoft Azureという今まさに急速に進化している先端技術を、「皆でハックしている」という一体感が生まれるんです。
白石氏 まさに集合知ですね。一方で、すでにある程度情報が整理されている技術に関しては、何もわざわざコミュニティ活動や勉強会に参加しなくても、Webや書籍で体系的に独学できますよね。なのに、なぜこれだけ多くの人がコミュニティ活動に参加してくれるのか、実は僕自身長らく謎だったんです。
でも最近分かってきたのは、コミュニティ活動は、そこで得られる情報だけではなく「参加するという行為そのもの」に大きな意義があるのではないかということです。リアルのイベントに自ら進んで参加したという事実そのものが、その技術により関心を集中させる効果を生むのではないでしょうか。
橋本氏 なるほど。それに加えて、同じ関心を共有する仲間ができるというのも、コミュニティに参加する大きなメリットの一つだと思います。会社の中に閉じこもっていては、その会社の組織や人事の枠内の人間関係しかできませんが、コミュニティは基本的に上下関係はありませんからフラットな人間関係を構築できます。それに第一、コミュニティのようにいい年をした大人が友達をたくさん作れる場って、そう多くはないと思います。
白石氏 そうですね。社外の人間関係が広がることで、転職も含めたキャリアパスが開ける可能性もありますし、より広い世界を知ることで自分自身を客観的に見る目も養われると思います。僕自身も今思い返すと、コミュニティに携わる以前は完全にお山の大将でしたから(笑)。
橋本氏 それに最近では、「コミュニティやユーザー会でプレゼンをしました」という経験を持っていることが、その人のバリューを高める効果もありますよね。
白石氏 かつては、雑誌やWebメディアの編集者に声を掛けてもらって記事を寄稿する機会って、直接の知り合いや縁故者でないと、なかなか難しかったと思いますけど、最近では勉強会やユーザー会で登壇した人などに声が掛かって寄稿するというパターンが多いような気がします。
橋本氏 そういう意味では、「名前を売りたい!」という欲求を満たす場としても、コミュニティは有効なんだと思います。「承認欲求」というと何だかネガティブな響きがするかもしれませんが、「腕試ししてみたい!」「より多くの人に認められたい!」という欲求は、エンジニアにとって大事なモチベーションの一つだと思います。
「ゆるい」雰囲気作りで参加のハードルをなるべく低く
橋本氏 JAZUGは地方での活動も行ってるのですが、各地方ごとにそれぞれカラーが異なっていて面白いですね。例えば札幌ではエンジニア同士の自発的なコミュニティが活発だったり、逆に名古屋や福岡では企業が積極的にコミュニティ活動にコミットしていて、その分ビジネスライクな色が濃かったりと、各地域ごとに特色のあるコミュニティが形成されているようです。
白石氏 僕はコミュニティの運営からはすでに手を引いているのですが、2013年にはhtml5jの活動で地方にも頻繁に行きました。そのときに各地で受けた印象は、今まさに橋本さんがおっしゃったものとまったく同じでした。ただ正直、地方でのイベント開催は、東京よりハードルが高いことも事実ですね。東京だと無償で会場を貸していただける企業さんも多いのですが、地方となると、なかなかそうはいきませんから。
橋本氏 地方によっては、企業が積極的にコミュニティを支えているところもあるんですけどね。でも確かに地方の場合は、その辺りがどうしてもネックになりがちです。ちなみに、コミュニティは昔から女性にとって参加のハードルが高いとも言われてきましたよね。
白石氏 でも最近では、いわゆる「女子部」を設けるコミュニティが増えてきましたね。html5jには残念ながら女子部はありませんけど、女性限定のイベントを開催したことはあって、かなり好評を博しました。実際、「男性ばかりで参加しにくい」という声を聞くこともありましたし。
橋本氏 JAZUGも当初は男性の参加者ばかりだったんですけど、数少ない女性参加者の有志が「私たちが女子部を立ち上げます!」と声を上げて女子部の活動を始めてくれました。初めは技術の話に終始していたんですけど、そのうち「女性としてどう働くのか?」といったキャリア相談の話も出だして。
白石氏 ああ、女性同士ならではの話題ですね。
橋本氏 そうなんです。同じ女性エンジニアの友達を増やしたいというモチベーションがあるようですね。やはり同じ年代で同じ職業に就いていて、似たような悩みを抱えている女性同士ならではの共感がありますから。そういう意味では、これも「皆で一体になってハックできる」というコミュニティならではの一体感が発揮された例なのかもしれません。
白石氏 ただ、中にはコミュニティ活動でのリアルなコミュニケーションの実態を誤解しているが故に、参加に尻込みしている方もいるかもしれませんね。「変なことを言ったら怒られるんじゃないか?」みたいな!
橋本氏 「ググれカス!」と糾弾されるのではないかと(笑)。
白石氏 そんな殺伐とした雰囲気は嫌だな(笑)。なので、僕はコミュニティを運営していたころは、とにかく内部の雰囲気を「ゆるく」することに徹底的にこだわっていました。例えば、メーリングリストやイベント告知の文章も堅苦しくならないよう、まるで友人同士でやりとりしているかのようなゆるい文面で書くよう心掛けていました。
橋本氏 私も同じく「ゆるふわ」をテーマにゆるい雰囲気作りを心掛けています。JAZUGにはエンタープライズ系エンジニアの参加者も多いので、ともすると堅苦しくなりがちなので、ことさらに「ゆるふわ」な雰囲気を重視しています。
また、「エンジニアは非リア充」というイメージも払拭したいと考えていて、船上パーティーのようなリア充なイベントも開催しています。このように、「ググれカス!」みたいなシビアな雰囲気のコミュニティばかりでは決してないので、ぜひ多くの人が気軽にコミュニティに参加できるようになるといいですね。
関連特集:ITエンジニアの未来ラボ
IT投資が増加していくとされる2020年に向け、技術の革新は進みこれまでにない多様な技術が開発現場で当たり前のように使われることが予想される。過去を振り返ると、スマートフォンやクラウドの出現により、ここ5、6年の間で多様な技術習得を迫られた開発現場も少なくないはずだ。では次の時代に向けてITエンジニアはどうあるべきなのか。本特集では日本のITエンジニアが現在抱える課題や技術への思いを読者調査を通じて浮き彫りにし、ITエンジニアは未来に向けてどのような道を歩むべきか、キャッチアップするべき技術の未来とはどのようなものかを研究する。
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