勉強会で明らかになった医療向けOSSの多様な活用法──電子カルテ、臨床試験データ解析、日本語医学用語プラットフォーム、画像DB:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT(6)(4/4 ページ)
2015年7月4日に東京で開催された「第10回 医療オープンソースソフトウェア協議会セミナー」の講演を基に、医療分野でOSSがどのように重要な役割を担いつつあるのかをリポートする。
人間表現型オントロジ、分散したゲノム情報と臨床情報のマッチングの日本語化
Mynaの取り組み以外にも医療情報基盤の日本語環境を整備する取り組みが動き始めている。東北大学 東北メディカル・メガバンク機構の荻島創一氏は、医療情報基盤の日本語化に関する二つの取り組みを紹介した。
一つは、人間表現型オントロジ「human phenotype ontology(HPO)」の日本語化に向けた取り組みだ。HPOは、人間の病気の原因となる表現型について標準化された用語を提供するもの。Javaベースのexomizerツールを使って表現型の相似性を計算・提示することで医師の診断を支援する。荻島氏はHPOを日本で利用できるように日本語化のプロジェクトに参加している。
もう一つは、分散したゲノム情報と臨床情報をマッチングさせることで希少性疾患遺伝子の探索を支援する「Match Maker Exchange(MME)」の日本語化に向けた取り組みだ。希少性疾患の患者は患者数が少ないため、世界中で緊密に情報共有を行う必要がある。荻島氏はコミュニティのメンバーと協力して、MMEの日本語版用のノードの立ち上げに向け準備を進めていて、GitHubで公開を予定しているという。
【tkDerm】皮膚科に不可欠な画像データベースソフトはロボットとも連携
中東遠総合医療センター皮膚科の犬塚学氏が「tkDerm:A Dermatological Image Database System」と題して行った報告では、OSSの皮膚科画像データベースソフトが紹介された。tkDermは、Tcl/Tk(クライアント側)とPostgreSQL(バックエンド側)を使って開発されており、Sourceforge.netから無料でダウンロードして利用できる。
皮膚科の診療では画像が頻繁に使用されるため、迅速に画像の入出力ができるデータベースシステムが必須のツールになる。tkDermでは、例えば、操作画面上の診断名に「basal」という検索用語を入力すると、検索結果の画像のリストが表示され、目的の画像を選んで必要な画像を表示させることができる。画面上の拡大ボタンを押すことで、簡単に画像を拡大することも可能だ。
また、あらかじめ皮膚がんを診断するためのdermoscopoic画像やmicroscopic(顕微鏡)画像を登録しておけば、必要なときにすぐに呼び出して、比較できる。
皮膚科の診療では、どこに発疹が出ているかという症状は極めて重要な情報になる。例えば、人体図から「耳」を選択して、耳に発疹が「含まれる」という条件を選択して検索すれば、耳に発疹がある写真だけを表示できる。
tkDermは、iPadにも対応しており、iCloudを介して、画像をアップしたり、表示させたりできる。犬塚氏は、「iCloudに画像のアップロードする際には、iCloud上に反映されて、実際に表示できるようになるまでに時間がかかる場合があり、ストレスに感じることがある」と苦言を呈す。
tkDermがユニークなのは、仏アルデバランのロボット「NAOqi」(ソフトバンクの「Pepper」の元になったロボット)を使って遠隔操作ができることだ。これは、手術中などに手を使って操作できないときに、声だけで操作できるというものだ。NAOqiに患者のIDを伝え、写真を表示するように指示を与えると、NAOqiが音声を認識して、tkDermを操作して必要な画像を表示してくれる。このように、OSSの強みは、医療現場のユニークなアイデアをタイムリに反映できることかもしれない。
医療のOSSコミュニティもIT勉強会と変わらぬ盛り上がり
このように、医療現場でOSSが重要な役割を担う時代が到来しようとしている。勉強会ではライトニングトークもあり、飛び入りで参加する現役医師がいるなど、ITエンジニアの勉強会と変わらぬ盛り上がりを見せた。
電子カルテをはじめ、臨床試験データ解析、日本語医学用語プラットフォーム、画像データベースなど、OSSとオープンソース開発・公開手法を活用する取り組みが活発化しているのがお分かりいただけただろう。
次回は、7月28日に開催された「Digital Health Meetup Vol.3」の模様をお届けする。ヘルステック系スタートアップの前に立ちはだかる“障壁”についての講演を中心にリポートするので、お楽しみに。
特集:ヘルスケアだけで終わらせない医療IT
IoTやウェアラブル機器の普及で広まりつつあるヘルスケアIT。しかし、そこで集まる生態データは電子カルテや医療で生かされていないのが、現状だ。本特集ではヘルスケア/医療ITベンダーへのインタビューやイベントリポートなどから、個人のヘルスケアだけにとどまらない、医療に貢献できるヘルスケアITの形を探る。
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