軽量な仮想モバイルパケットコアがIoTを支え、MVNO、そして企業に広がる:米Connectem共同創立者に聞く(1/2 ページ)
「NFV」という言葉が注目される前から、クラウド環境で柔軟に拡張できる、ソフトウェアのモバイルパケットコアを開発・提供してきたConnectem。この企業を買収したブロケードが、製品を日本市場で本格展開すると発表した。Connectemの共同創立者、ヒーソン・リム氏に、これまでとこれからを聞いた。
話題を集めているIoT(Internet of Things)向けモバイル通信サービスのスタートアップ企業、ソラコムは、自社開発したモバイルパケットコアソフトウェアをAmazon Web Services(AWS)上で動かし、この上に他社ではまねすることが困難なサービスを構築している(関連記事「SORACOMの、IoTプラットフォームサービスとしてのインパクト」)。
これと同様のソフトウェアを2012年から提供している、米Connectemという企業がある。同社は2015年、ブロケードに買収され、ブロケードは2016年1月21日、同社製品の日本における本格展開を発表した。
Connectemが提供してきたのは「vEPC(virtualized Evolved Packet Core:仮想EPC)」と呼ばれるソフトウェア。LTEモバイル通信サービスのコアネットワークに必要な機能一式が、サーバ仮想化インフラ上で動く。これを使えばIoT向けのモバイル通信サービスに加え、コンシューマー向けの携帯電話サービスのコア機能を、数週間で構築できると同社はいう。
@ITでは、Connectemの共同創立者で、現在は米ブロケードのモバイルネットワーキングシステムズアーキテクチャディレクターとして、vEPC製品の開発を続ける一方、ブロケードにおける関連製品との融合を推進している、ヒーソン・リム(Heeseon Lim)氏に話を聞いた。
NFVは既存のテレコム機器を代替するだけではない
世界中の通信事業者が、NFV(Network Function Virtualization)に取り組んでいる。NFVは、従来、高価な専用機器や特殊なサーバで構築・運用してきた各種の通信処理機能を、汎用x86サーバ上の仮想化ソフトウェアとして実装することで、システムの構築・運用コストを削減し、機能追加を容易にし、迅速で柔軟なサービス展開を実現しようとするもの。セキュリテイなどの機能を連動(「サービスチェイニング」などと呼ばれる)しやすくなるため、付加価値サービスの提供にもつながる。
NFVは、既存の通信事業者に閉じた話題として捉えられることが多い。だがリム氏は、Connectemの開発した「Virtual Core for Mobile(VCM)」(現「Brocade VCM」)なら、既存モバイル通信事業者がNFVを実現するだけでなく、コンシューマーあるいはIoTを対象としたMVNOの出現を促し、さらには一部大規模企業における利用にも広がると話す。
「既存の通信事業者向け機器ベンダーもNFVに取り組んできた。だが、これらの企業は専用機器上のソフトウェアをx86サーバ上の仮想マシンに移植していることが多い。VCMは完全に一から開発したモバイルパケットコアであるため、ライトウェイトであり、スモールスタートもできる。また、コントロールプレーンとデータプレーンが分離されており、個別に柔軟なスケーリングが可能だ」
小規模から大規模まで柔軟な運用ができることが、MVNOの立ち上げや企業での利用、そして既存モバイル通信事業者のコアネットワークの一部あるいは全てを担うなど、多様な用途につながるのだという。
それはNFVのはるか前、2008年に始まった
リム氏がニシ・カント(Nishi Kant)氏(現ブロケード モバイルネットワーキング担当バイスプレジデント)などとConnectemを創業したのは2011年。2012年10月にETSI(European Telecommunications Standards Institute)がNFVに関するホワイトペーパーを出し、この言葉が注目されるようになる前に、VCMを提供していた。実は、VCMのルーツはさらに古く、2008年にさかのぼるという。
リム氏は、2008年からStokeという企業で、モバイルデータオフロード製品を設計していた。Stokeは、基地局と携帯電話事業者のデータセンターの間で動作し、端末とインターネットの間のデータ通信を逃がして、データセンターにおける通信設備の処理量を減らすゲートウェイ製品を開発し、提供した。
「多くの事業者が素晴らしいアイデアだと称賛してくれたが、誰も導入しなかった。信頼性の高い製品だったが、全てのトラフィックがこのゲートウェイを通るため、単一障害点になると言われた」
「そこでこの教訓を基に、『小さなスタートアップ企業が、モバイル事業者にとって非常に重要なパケットコアに対して、何らかの形で機能を提供するにはどうしたらいいか』を考えた。結論は、『一部分でしかない限りは使われない』というものだった。そこでStokeの同僚2人とともに、画期的なことをやろうと、2011年2月にConnectemを立ち上げた」
Connectemでは、コンシューマー向けサービスでも利用できる、フル機能のモバイルパケットコアを開発することにした。だが、ゲートウェイで信用されないなら、コンシューマー向けサービスのパケットコアで採用されることは難しい。そこで、これをM2M/IoT向けのモバイルパケットコア製品として推進することを決断した。
「IoT向けサービスはコンシューマー向けサービスに比べ、ARPU(Average Revenue Per User:ユーザーあるいは端末当たりの売り上げ)が低い。一方で、設備の購入費用や、運用に掛かる人件費などのコストは同じだ。このため、モバイル通信事業者がIoTサービスを展開するスピードが鈍り、事業機会を逃してしまう。しかも、IoTでは接続端末の数が、数百万、数十億にも達する可能性がある。そこで私たちは、モバイル通信事業者における既存のコンシューマー向けサービス用パケットコアとは完全に独立しながらも、並列に動かすことのできる、IoTに向けたパケットコアを提供しようと考えた。これがVCMという製品になった」
無駄を省き、機能単位でスケールできる独自設計の強み
VCMをソフトウェアとして一から開発したことで、既存EPCには見られない、数々のメリットを実現できたとリム氏は主張する。
まず、複数の専用機器から構成される既存EPCに見られる機能の重複を排除できたことで、ライトウェイトなものになったという。さらに、コントロールプレーンとデータプレーンを独立してスケールできる設計になっている。
「IoTでは、通信量の少ないセンサーを多数接続しなくてはならないケースがある。コントロールプレーンのリソースは足りないのに、データプレーンは余っているという状況が起こりやすい。すると、データプレーンに費やすコストが大きな無駄になる。また、既存のパケットコアでは、機器を調達して検証し、サービスに投入するまでに、1年以上はかかる。例えばIoTサービスの提供者がモバイル通信事業者に、『500万の端末をつなぎたい』とリクエストしてから1年待たなければならないのでは、ビジネスにならない。一方VCMでは、このようなリクエストを受けたら、コントロールプレーン用のリソースを拡張するだけで済む。即座に対応可能だ」
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