カンボジアは残存率3割弱、離島の男性は全滅――山本一郎氏が聞く、オフショア&ニアショアで働き手を開拓し続けた企業の8年間:開発残酷物語(3)(2/3 ページ)
トラブルの原因は何だったのか、どうすれば良かったのか、同じトラブルを起こさないようにどういう手だてを取ったのか。実在する開発会社がリアルに体験した開発失敗事例を基に、より良いプロジェクトの進め方を山本一郎氏が探ります。
農業なめるべからず――ニアショア残酷物語
言葉や文化の違いで苦労した宮崎氏たちが、希望をつないだのがニアショアだ。
「巨大通信企業がある意味『見捨てた』場所で地方創生につながる事業ができないか、と親会社の関西ブロードバンド経由で相談が来まして。カンボジアでやっていたことを応用できるかなあと手を挙げました」(宮崎氏)
それが、長崎県壱岐市島しょ部にサテライトオフィスを作るビジネスだ。農業や漁業など一次産業に従事する世帯主男性に、IT技術やプログラミング技術を教えようと計画したのだ。
「地方創生でうまくいったという話のほとんどは、都会の人を地方に移住させるだけで、元から住んでいる人たちには利点がありません。しかし現地の人に育ってもらえば、雇用を作れるし、わが社にとっても戦力になる。何せニアショアなら日本語が通じますしね」と笑う宮崎氏と浦坂氏。言葉ではよっぽど苦労したようだ。
「夢がありますね。で、どうなりました?」(山本氏)
今度は、顔を見合わせて苦笑いする宮崎氏と浦坂氏。「農業をなめていた」といたく反省したという。
「一次産業に従事している人たちは皆忙しく、余った時間なんて存在しませんでした。そういう方に副業をやっていただこうと考えたこと自体がおこがましかった。アプリ塾を作り、参加者を対象にした副業トレーニングセミナーを昼間に設けても、そこに来られる時間のある方がいなかったんです」(宮崎氏)
「彼らからすると、私たちは『旅の人』なんです。『関西人が私たちのお金を奪いに来た』と思われたりして」(浦坂氏)
「キツイですね……」(山本氏)
お父ちゃんがダメでもお母ちゃんがいる
それでも根気強くセミナーを開いていたところ、徐々に主婦層が参加するようになったそうだ。
転勤した家族に帯同するなどで都会から島にやってきた主婦たちに「この壱岐でも仕事ができるんだ!」と気付いてもらえたのだ。
そこで、ターゲットを現地の主婦たちにも広げて宣伝した。
しかし、同じようにはいかなかった。「アプリとは何か」から説明しなければならないし、「クラウドソーシングで働きましょう」といっても、何のことか分からない。
「基本はクチコミなんです。人づてに『専門学校みたいな所にただで行けて、仕事ももらえるらしい』と聞いて、興味を持つ。さらに稼げることが分かると、がぜんやる気が出る。何せ、今まで存在しなかった現金を稼ぐ手段が手に入るのですから。お母さんたちは、家族のためなら頑張ります。彼女たちは、たくましく、必死です。私たちが向き合うべきは、お父さんよりもお母さんたちだったんです」(宮崎氏)
とはいえ、ここに至るまでには相当な時間がかかったそうだ。
「地方は都会の5倍ぐらい時間をかけなければいけません。話を聞いて、咀嚼(そしゃく)して、理解して、クチコミで広めてもらって、初めて『そういうものがある』と理解してくれます」(宮崎氏)
「大企業が地方を諦めるのも分かる気がします」と山本氏がうなずくと、宮崎氏は「私たちも分かっていたはずです。でも、地方創生の企画や現地の写真を見たら、ときめいてしまいました」と答える
思わず「しかし、そこに至るまでの労力を考えたら……」とつぶやいた山本氏への宮崎氏の答えは明確だった。
「私たちは親会社の理念もあり、どんな場所にもサービスを提供しようという思いで仕事をしています。都心部の方が効率はいい。でも、都会と同じことができるインフラが地方にも必要です。地方でもできる仕事を作っていくことが重要なんです。それに、こういう場所はマネタイズには時間がかかりますが、いったん定着すると離脱が少ないんです」(宮崎氏)
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