トラブルの元凶が退職したら、炎上プロジェクトは正常に戻せるのか?:コンサルは見た! 与信管理システム構築に潜む黒い野望(最終回)(3/5 ページ)
箱根銀行はここ数年、システム開発プロジェクトが失敗し続けている。「与信管理システム」はALMが接続不良、「ネットバンキングシステム」は相次ぐ要件変更でプロマネがダウン。トラブルの元凶はシステム部の草津係長にあると読んだ、ITコンサルタントの白瀬と江里口が調査を進めると、とんでもない事実が!!!――書籍『システムを「外注」するときに読む本』のスピンアウトストーリー、最終回は江里口が何かを飛ばします。
このままではプロジェクトは立て直せない
「い、いや、まったく何と申し上げていいか……」と、別府が美咲と白瀬に深々と頭を下げた。
「頭を上げてください部長。とにかく、これで与信管理のプロジェクトは何とかなるはずです」と言う白瀬を、美咲が鋭い視線でにらみつけた。
「ちょっとアンタ! 一体、どんな改善策を持ってきたのよ」
美咲は目の前にクライアントの別府がいることを忘れたかのように、白瀬を怒鳴りつけた。
「ど、どんなって……。とにかく1月にはメインの機能だけをリリースして、それ以外はALM接続も含めて3月までに順次リリース。それしかないだろ?」
「今の段階で、それができると思ってるの?」
「大江戸ソリューションズもいるし、彼らは銀行業務のプロだし……」
白瀬がそこまで言ったとき、美咲は右手にバッグを持ち、白瀬に向かって投げつけた。
「い、いってえ。何すんだ、この野郎!」
別府は目を丸くして2人の様子を見ていたが、ようやく開いたままだった口を閉じ、美咲に尋ねた。
「あ、あの江里口さん、どういうことでしょうか? 草津がいなくなっても、まだプロジェクトは失敗すると?」
美咲は、白瀬に向けた厳しい視線を、そのまま別府にも投げ掛けた。
「当たり前です!」
汝、人を信じるなかれ
「江里口さん、私どもの何がいけないのでしょうか。もう草津のような奴がわざとプロジェクトをつぶすようなことは……」
「白瀬、そして別府部長。あなた方は『大江戸に任せれば大丈夫』だなんてニコニコしてますが、何を根拠にそんなこと言ってるんですか? 彼らはALMシステムの開発を成功させたかもしれないけれど、与信管理の実績はないはずです。しかも部長は、ド素人の白瀬を責任者にしようとまでした。一体、彼に何ができて何ができないのか、ご存じで言ってるんですか?」
白瀬は、美咲の言いたいことが分かってきた。
「ベンダーのスキルを過信し過ぎてるってことか。ゴールウェイには業務知識がない、最初のネットバンキングをやらせたベンダーにはプロジェクト管理能力がない。そうした能力不足を気にすることなく、ただベンダーに任せきりにしてきたことが問題だと」
ITプロジェクトには、さまざまなスキルが求められる。顧客の業務知識やプロジェクト管理能力の他にも、システムの設計やデータベース、ネットワーク、Webやセキュリティ、さらにプログラミング技術、テストについても高度な知識が必要だ。それらを全て兼ね備えているベンダーは少ない。「ベンダーと名がついているからには、それらは全てできるだろう」と勝手に信頼し、任せきりにすることは、確かに危険かもしれないと、白瀬は思った。
「しかし相手はプロですし、万一トラブルがあっても自分たちで何とかするのがベンダーというものでは?」と反論する別府に美咲が言った。
「全部ができるベンダーなんていないんです!」
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