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導入済みWindows 10 Enterprise 2015 LTSBデバイスの刷新計画、はじめどき企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(92)

2021年10月に、Windows 10の長期サービスチャネル(LTSC)製品の最初のバージョン「Windows 10 Enterprise 2015 LTSB」のメインストリームサポートが終了し、5年の延長サポートフェーズに移行します。対象のデバイスがある場合は、次のシステムへの移行に向けて計画を始める良いタイミングです。

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企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内

あらためて、Windows 10 Enterprise LTSCとは?

 企業のクライアントPCのOSとして「半期チャネル(Semi-Annual Channel)」で提供される「Windows 10 Pro/Enterprise」は、半年ごとに新バージョンがリリースされ、「機能更新プログラム」によって継続的にアップグレードされます。そして、各バージョンはモダンライフサイクルポリシー下で18カ月(ただし、Enterprise/Education向けの秋リリースは30カ月)のサポート(「品質更新プログラム」の提供など)が提供されます。

 Windows 10には、特殊な用途のデバイスを対象とした「長期サービスチャネル(Long Term Servicing Channel、LTSC)」で提供される製品「Windows 10 Enterprise LTSC」もあります。こちらは固定ライフサイクルポリシー下で、「5年」のメインストリームサポートと、その後「5年」の延長サポートで「計10年」の長期サポートが提供されます。Windows 10 Enterprise LTSCはリリース時の機能セットはそのままで、サポート期間中、品質更新プログラムが提供されます。Windows 10 Enterprise LTSCに、機能更新プログラムが提供されることはありません。

 Windows 10 Enterprise LTSCは、機能などが時間の経過とともに変化しないことが重要な要件となる用途(例えば、医療システムや産業用制御システムなど)での使用が想定されたものです。企業の汎用(はんよう)的なクライアントPCのOSとして企業内に大規模に導入するようなものではありません。

 本連載第38回で説明したように、「Microsoft 365 Apps」(旧称、Office 365 ProPlus)は1年前の2020年1月にWindows 10 Enterprise LTSCをサポートしなくなりました。ボリュームライセンス製品の「Office 2019」については、Windows 10 Enterprise LTSC 2019をサポートします(Office 2019の延長サポートフェーズが2年であることに注意)。

数年ごとのLTSCは、バージョン間の隔たりが大きい

 本連載第90回に説明したように、Windows 10 Enterprise LTSCの最初のバージョン、Windows 10 バージョン1507をベースに構築された「Windows 10 Enterprise 2015 LTSB」(LTSBは、LTSCの旧称、Long Term Servicing Branchの略)が「2021年10月」にメインストリームサポートを終了し、5年の延長サポートフェーズに移行します。

 延長サポートフェーズの5年は、後継システムに刷新するための「移行期間」とすべきです。

 Windows 10 Enterprise 2015 LTSBから、後継バージョンのWindows 10 Enterprise LTSCへのインプレースアップグレード(アプリやデータを引き継いでのアップグレード)は可能です(画面1)。

画面1
画面1 Windows 10 Enterprise 2015 LTSBから後継バージョンのWindows 10 Enterprise LTSCへのインプレースアップグレードは可能

 しかし、後継の「Windows 10 Enterprise 2016 LTSB」はWindows 10 バージョン1607(Anniversary Update)をベースに、最新の「Windows 10 Enterprise LTSC 2019」はWindows 10バージョン1809(October 2018 Update)をベースに構築されており、Windows 10 Enterprise 2015 LTSBとはOSの仕様から機能性、機能まで、多くの変更点があります。

 そのため、Windows 10 Enterprise 2015 LTSBで問題なく動作していたアプリケーションが、後継バージョンのWindows 10 Enterprise LTSCでも同じように動作するとは限らないため、移行前には十分なテストを実施してください。

 また、Windows 10 Enterprise 2015 LTSBで利用していたWindowsの機能が、後継バージョンのWindows 10 Enterprise LTSCでは既に廃止されている場合もあります。例えば、「ソフトウェアの制限のポリシー(SRP)」はWindows 10 Enterprise 2015 LTSBでは機能しますが、現在、Windows 10でこの機能はサポートされなくなったため、同様の機能を実現するには「AppLocker」を利用する必要があります。

 以下のドキュメントで、Windows 10 Enterprise LTSCの各バージョンの新機能と、廃止または廃止予定のWindows 10の機能を確認できます。

Enterprise LTSCからEnterprise(SAC)へのインプレースアップグレードは可能

 製品が想定していない用途、例えば、汎用的なクライアントPCにWindows 10 Enterprise 2015 LTSBを大量に導入してしまったという場合は、メインストリームサポートの終了に合わせて、Windows 10 SACに移行することをお勧めします。

 Windows 10 Enterpriseの有効なライセンスの許可に基づいて、Windows 10 Enterpriseの代わりにWindows 10 Enterprise LTSCを展開している場合は、最新バージョンにWindows 10 Enterpriseに移行できます。それ以外のライセンス(OEMプリインストールやLTSC per deviceライセンス)の場合は、購入元に問い合わせるとよいでしょう。

 Windows 10のSACや「Windows 8.1」以前からWindows 10 Enterprise LTSCへのインプレースアップグレードはできませんが、Windows 10 Enterprise LTSCを同じまたは後継バージョンのWindows 10 Enterprise(SAC)にインプレースアップグレード(個人用アプリとファイルの引き継いでのアップグレード)することは可能です(画面2)。

画面2
画面2 Windows 10 Enterprise 2015 LTSBを、最新のWindows 10 Enterprise バージョン20H2(October 2020 Update)にインプレースアップグレードすることは可能

Microsoft Edge(Chromium版)は正式にサポート

 Windows 10 Enterprise LTSCには、「Cortana」や「Microsoft Edge(EdgeHTML版)」など、Windowsの一部の機能は搭載されていませんが、Windows 10標準の新しいモダンブラウザである「Microsoft Edge(Chromium版)」については、Windows 10 Enterprise LTSCが正式にサポートされています。

 例えば、特定のWebサイト/アプリを参照するためだけのキオスク端末をWindows 10 Enterprise LTSCで構築するという場合は、Microsoft Edge(Chromium版)をインストールして使用するとよいでしょう(画面3)。

画面3
画面3 Microsoft Edge(Chromium版)は、これまでリリースされたWindows 10 Enterprise LTSCの全てのバージョンを正式にサポート

最新情報(2021年2月22日追記

 Microsoftは2021年2月18日、LTSCバージョンのOfficeおよびWindows 10 Enterpriseの次期バージョンを2021年下半期にリリースすることをアナウンスしました。このアナウンスの中で、Office LTSCおよびWindows 10 Enterprise LTSCの次期バージョンのライフサイクルを、現行バージョンの10年(Office 2019は7年)から5年に短縮することを明らかにしています。

 なお、これまでにリリースされたLTSCバージョンのライフサイクルに変更はありません。また、Windows 10 IoT Enterprise LTSCの次期バージョンについては変更はなく、引き続き10年のサポートが提供されます。


筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2020-2021)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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