Windows 11非対応のPCにWindows 11を配布したらどうなる?:企業ユーザーに贈るWindows 10への乗り換え案内(120)
企業では、Windows Server Update ServicesやWindows Update for Business、Microsoft Intune、その他のOS配布ツールを使用して、Windows 11をクライアントPCに配布することができます。Windows 11はハードウェア要件が厳しくなりましたが、非対応のクライアントPCに誤って配布されることはないのでしょうか。
あらためてWindows 11のシステム要件と配布方法を学ぼう
ご存じのように、「Windows 11」のハードウェア要件は厳しく設定されています。主な要件は、サポートされているx64プロセッサ(ここ数年にリリースされたモダンプロセッサ)、UEFIセキュアブート、トラステッドプラットフォームモジュール(TPM)2.0、メモリ4GB以上などです。また、32bit版は提供されないため、32bitの「Windows 10」を実行しているクライアントPCをWindows 11にインプレースアップグレードすることは不可能です。
Windows 11の企業における展開計画については、以下に詳しいドキュメントがあります。展開を計画している場合は、必ず確認してください。
- Windows 11の準備(Microsoft Docs)
WSUSとWUfBによる展開
「Windows Server Update Services(WSUS)」を利用している場合は、クライアントPCがWindows 11のシステム要件を満たしていれば、Windows 10の機能アップデート(有効化パッケージではない通常の大型アップデート)の場合とほとんど変わらない管理操作でWindows 11の機能更新プログラムを承認し、Windows 10のクライアントPCをWindows 11にインプレースアップグレードすることができます。
Windows 10の機能更新プログラムとの違いは、製品として「Windows 11」「Windows 11 Dynamic Update」「Windows 11 GDR-DU」を選択して同期することです。検出されたこれらの更新プログラムをクライアントPC(グループ)に対して承認するだけです(画面1、画面2)。
![画面2](https://image.itmedia.co.jp/ait/articles/2203/15/vol120_screen02.png)
画面2 Windows 11の機能更新プログラム(アップグレード)を関連する更新プログラム(最新のDynamic UpdateやGDR-DUがあれば)とともに承認する。より新しい日付の機能更新プログラムが利用可能になっている場合は、そちらを選択すること
「Windows Update for Business(WUfB)」を利用している場合は、Windows 10とは異なり、以下の場所にある「プレビュービルドや機能更新プログラムをいつ受信するかを選択してください」ポリシーを構成しただけでは、Windows 10クライアントがWindows 11を取得することはありません。
- コンピューターの構成\管理用テンプレート\Windows コンポーネント\Windows Update\Windows Update for Business
同じ場所にある2021年9月以降の更新プログラムで追加された「ターゲット機能更新プログラムのバージョンを選択する」ポリシーを有効にして、製品として「Windows 11」、ターゲットバージョンとして「21H2」(または利用可能になった場合は次のバージョン)を指定する必要があります(画面3)。
このポリシーで製品名として「Windows 11」が指定されていないと、引き続きWindows 10の機能更新プログラムを受け取ることになります。
なお、「プレビュービルドや機能更新プログラムをいつ受信するかを選択してください」ポリシーは引き続き機能します。このポリシーを構成していない場合(延期設定をしていない場合)は、次回のWindows UpdateでWindows 11を検出し、ダウンロード、インストールされることになります。
WSUSやWUfBの配布設定のWindows 11非対応PCへの影響
WSUSでのWindows 11の承認や、WUfBによるアップグレード指定がWindows 11非対応PCに意図せず行われた場合、そのPCにWindows 11は配布されるのでしょうか。例えば、大容量のダウンロードとインストールの失敗、ロールバックを繰り返したりはしないのでしょうか。WUfBを例に試してみました。
Hyper-V仮想マシンでWindows 11非対応構成の設定(4GBより少ないメモリ割り当てやTPMオフなど)を行い、WUfBのポリシーを設定した後、Windows Updateを何度か実行してみましたが、Windows 11をインストール対象として検出することはありませんでした(画面4、画面5)。
![画面4](https://image.itmedia.co.jp/ait/articles/2203/15/vol120_screen04.png)
画面4 Windows 11のシステム要件を満たしていないWindows 10仮想マシン(WSUSやWUfBで管理されたPCでは、このPC正常性チェックツールは「このPCでの更新プログラムは組織が管理しています」とだけ表示し、チェックの結果を示さない)
また、同じ仮想マシンの設定をWindows 11対応の状態にして、再度試してみたところ、即座にWindows 11を検出しダウンロードが開始されました(画面6)。
このように、WSUSやWUfBを利用している場合、Windows 11非対応のクライアントPCにWindows 11が配布される心配は不要なようです(WSUSについては未確認)。ただし、イメージベース(VHDやWIMイメージをディスクに展開する方法)の配布ツールを利用する場合は、Windows 11のシステム要件をチェックする工程を踏まないため、意図せずアップグレードされ、サポートされない使用環境を作り出してしまう可能性があることに注意してください。
筆者紹介
山市 良(やまいち りょう)
岩手県花巻市在住。Microsoft MVP 2009 to 2022(Cloud and Datacenter Management)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『Windows版Docker&Windowsコンテナーテクノロジ入門』(日経BP社)、『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。
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