忙しい管理職、若手メンバーとの「対話の時間」をどう確保する?:仕事が「つまんない」ままでいいの?(128)(2/3 ページ)
「時間がない」と諦めるのは早過ぎるかも。若手との対話は、離職防止、チーム強化、そして多忙な管理職を救う「先行投資」となるかもしれません。
若手と「対話する時間」を確保するために
まず、「対話する時間の確保」について。
良くも悪くも、全ての人に与えられている1日の時間は24時間です。その中で、人は「何に時間を使うか」を選択しています。
若手メンバーとの対話に時間を割けない(割かない)のは、恐らく、対話に対する「優先度が低い」のでしょう。時間の優先度に影響を与える理由は、危機感、緊急性、生産性の低さ、未来への投資に値しないなど、幾つか考えられます。それらをてんびんにかけたとき、若手との対話は優先度が低い。その結果「時間がない」と思ってしまうのでしょう。
「いや、若手をないがしろにしているわけではありません。本当に時間がないんです」と言いたくなるでしょう。でも、どんなに忙しくたって「大切な顧客からクレームがあったとき」や「家族が大けがをしたとき」は後回しにしないように、若手との対話が本当に大切だと思っているなら、優先するはずですよね。そういうものだと思います。
となると、若手と「対話をしないことによって起こるリスク」や、「対話をすることによって得られる価値」を再認識する必要があるでしょう。
若手と対話をしないことによって起こるリスク
若手メンバーと対話をしないことによって起こるリスクは何でしょうか? それを知る手段として「最近の若手が何を考えているのかよく分からない」ことによって生じる課題を、改めて言語化してみましょう。
若手と対話をしないことによって、いろんなことが起こっていると思います。「人となりがよく分からない」「信頼関係が構築できない」「心を開いてくれている感じがしない」「得手不得手が分からないから、何を任せたらいいのか分からない」「困っていること、悩んでいることが分からない」「将来、どんな理想を描いているのかよく見えない」「本当は、何をしたいのかよく分からない」など。
もう一歩踏み込んで考えてみましょう。「人となりがよく分からないことによって起こることは?」「信頼関係が構築できないことによって起こることは?」「心が開かれないことによって起こることは?」「仕事が任せられないことによって起こることは?」「悩みが分からないことによって起こることは?」「将来目指していることがよく見えないことによって起こることは?」「何をしたいのかよく分からないことによって起こることは?」――その結果が、若手の離職につながるかもしれません。
そこまで大げさに捉えなくても、「忙しいから」という理由によって、さまざまなことが失われているかもしれません。もし、若手が「何が得意で」「どんなことをしたいと思っていて」「将来目指していること」をよく分かっていたら、実は彼らは、忙しい皆さんの仕事を手助けしてくれる存在だと分かるかもしれません。
若手と対話をすることによって得られる価値
若手メンバーとの対話をすることによって「得られる価値」は何でしょうか? 僕が経験したことをお話ししましょう。
僕も以前は、若手が何を考えているのかよく分からない管理職でした。当時は、「管理職たるもの、仕事に関することは全て1人で考え、指示命令し、若手に仕事をさせる」ものだと思っていました。
こう思っていたときの仕事はとても孤独で、嫌なものでした。「何で俺ばっかり、こんな苦労をしなくちゃいけないんだよ」「君たちはいいよな。言われたことをやっていればいいんだから」と、不満に思っていたほどでした。まさに「管理職は罰ゲーム」です。
一方で「これじゃ嫌だな」とも思っていました。どうせ仕事をするなら、楽しくやりたい。周囲の若手にも楽しく働いてほしい。そのためにはまず、若手のことをよく知る必要がありました。
そこで学び始めたのがコミュニケーションでした。傾聴や質問など、いろいろなスキルを学びました。さらに、学んだことを実践したいと思い、メンバー1人につき30分「毎月、全員と話をしよう」と決めて、実行しました。最近では当たり前となりつつある「1on1ミーティング」です。
話の聞き方としては、「相手の話を要約し、確認しながら話を聞く」という手法を実践しました(専門用語で、「バックトラッキング」といいます)。最初からうまくいったわけではありませんが、自分が言いたいことは脇において、とにかく相手の話に耳を傾ける……これを繰り返し実践したところ、僕自身に変化が表れました。
1つ目は、「メンバー一人一人の考えや状況がよく理解できた」ことです。「いま、どんなことを考えていて」「何に悩んでいるのか?」「本当は、何を、どうしたいのか?」――一人一人と対話をすることで、相手の状況がとてもよく分かるようになりました。
2つ目は、メンバー一人一人の状況がよく分かることによって「問題を早めにキャッチアップできるようになった」ことです。チームの中で何かしらの問題が起こったとき、対話をする以前は「起こってから対処する」のが当たり前でした。また、問題が大きくなってから発覚するため、その対応も大変でした。
しかし、毎月対話を重ねることで、問題を早めにキャッチアップできるようになりました。その結果、問題が大きくなる前に対応できるようになりました。
3つ目は、メンバー一人一人の状況がよく分かることによって、「相手が置かれている立場が分かった」ことです。例えば「最近、調子が悪そうだな」と思っていたメンバーと対話をしたら、「実は、家族の体調があまり良くない」ことを知りました。不安感が仕事に影響を与えていたのです。そこで「家族あっての仕事であること」「無理する必要はないこと」などを伝えたところ、次第に元気になり、以前のように元気に働いてくれるようになりました。
メンバーにも徐々に変化が表れました。
1つ目は、「メンバーが自発的になった」ことです。メンバーとは毎月話をしていたため、「今度、○○をしてみたい」といった話を日頃から聞いていました。「じゃあ、できることから始めてみたら? やってみて、課題があったら次回教えてよ」といった対話を繰り返すことで、メンバーの成長意欲や行動を支援できて、メンバーが自発的になりました。「今度の週末、他のメンバーと勉強会を開きたいのですが、会議室を借りてもいいですか?」と、自ら声を出してくれるようになったときは、とてもうれしかったです。
2つ目は、「チーム全体の温度感が上がった」ことです。僕が管理職になった当初のチームの状況は、お世辞にも「いい状態」とは言えませんでした。ストレスも多めでした。ですが、毎月対話を重ねることで、イマドキで言うところの「心理的安全性」が高まったのでしょうね。お互いを気付かうようになったのか、チーム全体の温度が上がったような感じがしました。
このような経験を通じて気づいたのは「管理職は一人で頑張らなくていいんだ!」ということでした。以前の「管理職たるもの、一人で頑張らなければならない」と思っていた僕にとって、それは大きな気付きでした。定期的に話を聞いて、不安要素があれば早めに取り除く。やりたいことは任せてみる。そうすることで、メンバーは行動的になる。その結果、管理職は一人で頑張らなくてもよくなる……。
「そんなに都合良くいくものか!」と思うかもしれません。ですが、少なくとも、僕の経験ではそうでした。もし、こうした可能性が少しでもあるのなら、対話を重ね始めてみるのも悪くないと思いませんか?
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