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仕様書通りだけど提案書とは違うシステムだったので訴えます「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(139)(2/2 ページ)

ベンダーからの提案書を見て発注を決めた基幹業務管理システム。だが出来上がったものは、提案書とは性能の異なる代物だった。ベンダーは「あなたたちが作ったコンピュータ仕様書に従ったまで」と言うが――。

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要件の不備を指摘し、是正させるのもベンダーの役割

広島地方裁判所 平成11年10月27日判決より(つづき)

本件契約は、ユーザー企業側でシステムに関する要望事項をとりまとめ、ベンダーがこれをサポートする形で管理の迅速化などを図ることを提示して、コンピュータシステムを利用する範囲内容を確定したのであるから、ベンダーは、その提案では、ユーザー企業の目的実現に問題であることが予想できたのだから、その製作に関し、自らが有する高度の専門的知識経験に基づきその点を指摘するなど、要望の実現に努める責務がある。これを怠ってソフトウェアを作成したことは債務不履行に該当する。

 裁判所の判断はユーザー企業に有利なものとなった。

 法律上の債権・債務論では、「受注者の仕事や責任は、その契約の目的に照らして決まる」という原則がある。情報システムの開発を請け負う契約でベンダーが負うべき責任は、示された要件の実現のみではなく、発注者の目的に資するシステムを開発することだ。

 発注者が作成したコンピュータ仕様書に加え、旧システムの仕様書や契約書、伝票などの参考資料や調査結果を基に、発注者の業務内容を分析する。その上で、「専門技術的な視点で判断して、必要と思われる事項を提案、指摘する」などの「発注者サポート義務」も受注者の仕事だ。

 こうした判断は本判決に限ったものではなく、「システム開発はユーザー企業とベンダーの協業であり、専門家たるベンダーは、ユーザー企業に足りない点があれば、指摘し支援する」とする考えは、ある程度共通している。実際、このような体制、役割、認識のプロジェクトの方が、成功確率が高いように思われる。

 なお、契約の「目的」は、ベンダーの役割や責任、開発すべき機能・非機能の指針だが、「約束」までするものではない。例えば、「システムの導入によって従業員の作業工数を3割削減することを目指したが、実際には1割しか削減できなかった」としても、これをもってベンダーの債務不履行とはならない。ベンダーが負う責任は「3割削減を目指すに資すると思われる機能・非機能を具備するシステムを開発すること」にとどまると考えるのが妥当であろう。

軽視できない提案書の売り文句

 もうひとつ申し述べておきたいことは、「提案書に書いたさまざまな言葉の重み」についてである。

 本件でも、ベンダーの提案書には、システム化の目的として管理の迅速化・合理化がうたわれていた。ベンダーは、「これはユーザー企業に聞かされたことを、そのまま文書に乗せただけ」と言いたいかもしれないし、定量的でもない。そもそも契約前のいわばセールストークが債務として扱われるのはおかしいとの論もあるかもしれない。

 しかし本件以外でも、提案書に書かれたシステム化の目的がベンダーの責任の裏付けとして扱われるケースがままある。提案書といえども後の契約の内容に大きな影響を与えると認識した方がよいし、たとえユーザーの言葉の受け売りであっても、その意味するところ、それによって自らがなさねばならないことをよく確認しながら書くべきであろう。

 つまるところ、ベンダーがいかにユーザー企業の立場に立ち、ワンチームのメンバーとして開発に参加しているかだ。

 ベンダーが本当に「ユーザー企業の業務を改善したい。そのための開発だ」と考えるなら、提案書はセールストークにはならないし、ユーザー企業が示した要件の不備にも真摯(しんし)に対応するだろう。「自分たちは言われたことだけをやっていれば仕事を完遂している」との考えを捨てられないのなら、請負契約でのシステム開発は避けた方がいいだろう。

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細川義洋

細川義洋

ITプロセスコンサルタント。元・政府CIO補佐官、東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまでかかわったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系基幹システムのアドバイザー業務に携わった

個人サイト:CNI IT アドバイザリ

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