Linux Square
第9回 読者調査結果発表
〜 Linuxクラスタリングの導入を阻む技術者の悩み 〜
小柴豊
アットマーク・アイティ
マーケティングサービス担当
2003/4/15
2003年も4カ月余り経過したが、この間「富士通/インテルのLinuxサーバ共同開発」「ベリタスのLinux市場参入」「NECのLinuxソリューション強化」といった、エンタープライズLinux関連のニュースが相次いでいる。基幹系などのエンタープライズ用途にLinuxを導入するにはシステムの信頼性向上が不可欠だが、Linuxシステム構築/管理の現場では、その命題にどう取り組んでいるのだろうか? 本稿では、システムの信頼性向上の代表的な手法である“クラスタリング”の実施状況について、Linux Square読者調査の結果からレポートしよう。
Linuxクラスタリング実施状況:約5割が検討/研究中
まずLinuxシステムの構築/管理に携わる読者に、Linuxクラスタリングの実施状況を尋ねたところ、「現在実施している」のは全体の17%であった(図1)。まだ普及しているとはいい難い数字だが、「時期は未定だが検討/研究している」読者が5割弱を占めたことから、その潜在需要の強さがうかがえる。
図1 Linuxによるクラスタリング実施状況(n=190) |
ところで、一口にクラスタリングといっても、その用途/目的は一様ではない。続いて、読者がLinuxでどのようなクラスタ構築を実施/予定しているのか、その内容を見てみよう。
Linuxクラスタリングの種類:フェイルオーバー方式に注目
図2は、Linuxクラスタリングを実施/検討している読者に、適用する(予定の)クラスタ方式を聞いた結果だ。該当者の約7割がデータベースや業務アプリケーションの可用性を高める「フェイルオーバークラスタ」を選択しており、Webサーバなどの応答性を高める「負荷分散クラスタ」がそれに続いている。数値演算を高速実行する「HPC(High Performance Computing)クラスタ」の選択者は、利用場面が限定されるためか1割強にとどまった。
図2 Linuxクラスタリングの種類(Linuxクラスタ実施者/予定者 複数回答 n=129) |
この結果からは、フェイルオーバーのポイントが負荷分散を上回った点に注目したい。フェイルオーバークラスタ需要の背景には、ミッションクリティカルな領域へのLinux適用機会の増大があると考えられるからだ。読者のコメントからは、
昨今の経済状況を考えると、いかにHA(High Availability)クラスタをローコスト導入できるかが、キーポイントであると思う(システムインテグレータ:SE)
との声も聞かれた。フェイルオーバークラスタは、エンタープライズLinux浸透の成否を握るキーテクノロジーの1つとなりそうだ。
Linuxクラスタツールの導入状況は?
ではLinuxクラスタリングを実現するに当たって、読者はどのようなツールを導入/検討しているのだろうか?
現在クラスタリングを実施している読者の利用ツールを見ると、「負荷分散装置などの専用機器」に加えて、「LifeKeeper」や「Turbolinux Cluster Server」といった商用クラスタソフトウェアの利用率が高くなっている(図3青色)。一方、Linuxクラスタの導入予定/検討者層では、専用機器に次いでオープンソースソフトウェア「LVS(Linux Virtual Server)」(負荷分散ツール)およびLVSにフェイルオーバー機能を組み込んだ「Ultra Monkey」に注目する人が多いようだ(図3黄色)。
図3 Linuxクラスタツール導入状況(複数回答) |
Linuxクラスタ・システム構築の課題
図1で見たように、Linuxクラスタリングの潜在需要は高いが、これを実現できている人はまだ多くない。このギャップには、何か原因があるのだろうか?
読者にLinuxクラスタ・システム構築時の課題を尋ねたところ、全体の半数以上が「スキル/ノウハウ/情報不足」を挙げた(図4)。
図4 Linuxクラスタ・システム構築時の課題(3つまでの複数回答 n=190) |
エンジニアが新しいスキル/ノウハウを身に付ける場合、最も確実なのは“実機を使った構築/検証”となるだろうが、クラスタ・システムの場合は、
実機が数台必要になるため、気軽に試せない(情報サービス業:プログラマ)
という事情もあるようだ。また“情報不足”については、クラスタ・システム構築方法などの実務情報に加えて、
クラスタリングシステムを導入したいが、費用対効果がなかなか計算できず資料に説得力がない(製造業:社内情報システム)
クラスタリングを行った際の可用性、信頼性に関する情報がまだまだ不足している(製造業:システムアナリスト)
といった周辺情報の不足を訴える声も多かった。エンタープライズLinuxを確立するには、OSなどの製品力向上と同様に、スキルアップ環境/情報環境の改善が重要となりそうだ。
Linuxシステムのバックアップツール利用状況
今回の読者調査では、Linuxシステムの信頼性に関連するトピックとして、バックアップツールの導入状況も聞いている。最後にその結果を紹介しておこう。
読者のかかわるシステムで現在導入/活用しているバックアップツールを見ると、「tarやdumpなどのコマンド」に6割以上の回答が集中した(図5緑色)。最近はコンピュータ・アソシエイツやベリタスといった、他プラットフォーム上で有力なバックアップ・ツールベンダのLinux参入が続いているが、“今後導入予定/検討している製品”(図5黄色)を見ても、それら商用ツールの検討はまだ進んでいないようだ。
図5 Linuxバックアップツール導入状況(複数回答 n=190) |
しかし図4“Linuxクラスタ・システム構築時の課題”の3番目に「クラスタ構成時のバックアップ/リカバリ体制」が挙げられたように、現在主に使われているコマンドツールでは、大規模/複雑なシステムへの対処は難しくなるだろう。Linuxのエンタープライズ利用を進める際は、バックアップ体制の再検討も必要となりそうだ。
調査概要
調査概要 | |
調査方法
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Linux SquareフォーラムからリンクしたWebアンケート |
調査期間
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2003年2月24日〜3月24日 |
有効回答数
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441件(うち、Linuxで企業システムを構築/管理している190件を集計) |
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連載:Linuxクラスタリングへの招待 | |
書評:Unixバックアップ&リカバリ |
Linux Square読者調査 |
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