特集:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ(前編)
今週にも公開、どうなる!WiMAX規格



2006/11/14
高橋利臣
ノーテルネットワークス


総務省が交付するWiMAX規格のチェックどころはどこか? 総務省が描くWiMAX利用シーンの将来像と事業者によるトライアルの中身を見ながら考えよう(編集部)

 今年こそ、ワイヤレス・ブロードバンド元年!?

 今年8月に総務省より発表された『次世代ブロードバンド戦略2010』によると、ブロードバンド・ゼロ地域の解消に向けて、いわゆる不採算地域においてワイヤレス・ブロードバンド技術も有効なデジタルデバイド解消策の1つとして位置付けられている。

 さらには、MVNO(仮想移動体通信事業者)といったインフラを借り受けてサービスを行う基盤が生まれれば、免許が割り当てられない事業者もワイヤレス・ブロードバンドのサービスに参入でき、新たな市場の創出と市場の活性化が期待されている。

 このように、さまざまな技術の導入と法制度の議論が行われている2006年はまさに、ワイヤレス・ブロードバンド元年といっても過言ではない。

 今年は、第3世代携帯電話の分野においてHSDPAがサービスとして開始され、1xEV-DO Rev.Aも商用化が見込まれている。また、新たな通信方式として802.16eが標準化され、各ベンダはWiMAXの製品化に着手し、各通信事業者はトライアルを実施している。

 ワイヤレス・ブロードバンド技術としては、WiMAX以外にもIEEE 802.20、次世代PHSも候補として挙げられている。

 ワイヤレス・ブロードバンド網の整備により、自宅でインターネットに接続するのと同じ環境が屋外において、しかも移動しながらの利用が期待される。従来の携帯電話とは違うサービスが続々と出現するだろう。

 今週中にも公開か、総務省のWiMAX技術条件案

 国内におけるワイヤレス・ブロードバンド技術に関する動向をお伝えしたい。

 制度的な面では、2006年3月に情報通信審議会配下に広帯域移動無線アクセスシステム委員会が組織された。これは、前身となるワイヤレス・ブロードバンド推進研究会において検討された、「3.5 Gよりも高い周波数利用効率」「3.5Gを上回るダウンリンクスループット」「10Mbps程度を超えるアップリンクスループット」「TDD方式」を満たすシステムという位置付けで、広帯域移動無線アクセスシステムの技術条件の検討に入ったということだ。

 検討のポイントとしては、

  1. 隣接する衛星システムや、同一周波数帯における無線システム間の干渉検討と所要ガードバンド幅の検討
  2. 事業者間の周波数共用技術やMVNOについての検討
  3. デジタルデバイド地域における有線ブロードバンドの代替システムとしての検討

の以上3点である(参照: 「2.5GHzギガヘルツ帯を使用する広帯域移動無線アクセスシステムの技術的条件」についての情報通信審議会への諮問)。技術方式としては、前述しているWiMAXに加えて、IEEE 802.20や次世代PHSも検討の対象となっている。

 当初の予定では、9月に最終報告書案を発表し、11月に答申というスケジュールであったが、ガードバンド幅や干渉などの検討に時間がかかり、スケジュールがずれ込んでいたが、ようやく技術的条件の全貌が見えてきた。

 今月14日に広帯域移動無線アクセスシステム委員会が行われ(広帯域移動無線アクセスシステム委員会(第3回)会合の開催について)、WiMAX規格の技術条件案についてのパブリック・コメントの検討がされる。さらに、会合後速やかに、WiMAX規格の技術条件案が公布されると予想される。

 さて、総務省が交付するWiMAX規格のチェックどころはどこか? 総務省の描くWiMAX利用シーンの将来像と事業者によるトライアルの中身を見ながら考えていこう。

 続々実施される事業者によるトライアル

 総務省の動きに先駆けて、各通信事業者がWiMAXのトライアルを実施している。

 KDDIでは、昨夏からの実験に加えて、今年の2月には移動環境におけるブロードバンドデータ通信のデモや、オールIPベースの「ウルトラ3G」実証システムとの接続実験にも成功した(参照記事:KDDIが大阪でWiMAXの実験、「ウルトラ3Gとの接続にも成功」:2006/2/16)。

 NTTドコモでは、今年の3月に実験局免許を申請し、隣接する移動衛星通信システムとの干渉の評価などを行っている(参照記事:ドコモもWiMAXの実験免許を申請:2006/3/28)。

 ソフトバンクでは、昨秋に第3世代携帯電話システムとWiFiとのハンドオーバ実験に成功し、今年の9月から、ネットワークの規模を拡大して実験を行っている(参照記事:モトローラとソフトバンク、モバイルWiMAX実証実験協力で合意:2006/7/25)。

 アッカ・ネットワークスは、携帯電話事業者ではないものの、既存のADSLの次のビジネスとしてワイヤレス・ブロードバンドを戦略的に位置付けており、WiMAX免許の獲得を目指し、今年7月からWiMAXの実験を行っている(参照記事:アッカ、モバイルWiMAXの屋外実証実験用に無線局免許を取得:2006/7/13)。

 イー・アクセスでは、今年の7月から実験を開始し、多様なアプリケーションを適用した実験を行っている(参照記事:イー・アクセス、23区内で初のモバイルWiMAX実証実験を開始:2006/7/18)。

 YOZANでは、すでに4.9GHzという登録制の周波数帯を使用し、固定WiMAXのネットワークを構築している(参照記事:YOZAN、12月25日に固定版WiMAXスタート:2005/12/15WiMAX+無線LANでユビキタス社会実現の一翼を担う──YOZAN:2006/7/14)。

 また、そのような従来の通信事業者とは別に、各地方でもWiMAX技術を用いた動きが見られる。嶺南ケーブルテレビでは、今年9月に実験局の申請を行い、今年11月より地方でのモバイルWiMAXの実験を開始する予定である。

 民間企業だけでなく、総合通信局においてもWiMAXシステムを用いた実験が行われようとしている。総務省の『次世代ブロードバンド戦略2010』に沿う形で、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を目指し、WiMAXがブロードバンドアクセスを提供する1つのシステムとして大いに期待されていることがうかがえる。次のページでは、総務省の描くWiMAX利用シーンの将来像をお伝えする。


目次:総務省が公表するWiMAX規格のチェックどころ
<page1> 今年こそ、ワイヤレス・ブロードバンド元年!?/今週中にも公開か、総務省のWiMAX技術条件案/続々実施される事業者によるトライアル
  <page2> 総務省の描くWiMAX利用シーンの将来像
  <page3> All IPベースのWiMAX、どう使われる?/IEEE 802.16とWiMAXフォーラムの動向
  <page4> すでに、動画ストリーミングのできる韓国WiBro/カナダ・台湾・米国のWiMAX事例/あらゆるビジネスチャンスを阻害しないWiMAX規格を

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