この15年、変わったことと変わらないこと
高橋 睦美
@IT編集部
2008/6/5
今年も幕張メッセでInterop Tokyoが開催される。展示会がスタートした15年前と比べると、ネットワークの姿は大きく様変わりした。その歩みを改めて振り返ってみよう。(編集部)
日々少しずつ起こる変化には、なかなか気付きにくい。しかし、あるときふと振り返ってみると、実は大きな変化を経ていたことが分かる――日本のインターネットを取り巻くこの15年は、まさにそんな状況ではないだろうか?
例えば15年前、われわれはITとネットワークをどのように利用していただろう。当時はまだ、光ファイバどころか、ADSLサービスですら実験段階にあり、企業でもせいぜい128kbpsといった速度の回線が「専用線」として拠点を結んでいた。また、携帯電話ももっぱら音声通話に用いられ、携帯端末でWebやメールを常にやりとりするなど考えられない時代だった(ちなみに、ADSLのサービスやiモードが開始されたのは1999年のこと)。
これに対しいまでは、光ファイバによるブロードバンド接続が普及し、いよいよNGN(次世代ネットワーク)の商用サービスが開始されようとしている。モバイル環境を見ても、メールやWebはおろか、ワンセグや最大7.2Mbpsでの高速通信、あるいは802.11a/b/gによる無線LAN、さらにはWiMAXといった新サービスが次々に実現されてきた。10年前には夢物語だったものが、いまや現実のサービスとして、誰もが手軽に利用できる状況になっている。
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ネットワークを取り巻く大きな変化
最も大きく変化した要素としては、何といっても「帯域」が挙げられる。15年前ならば、Interop Tokyoの会場である幕張メッセと大手町をつなぐ回線が、あるいは会場バックボーン回線であっても、100Mbpsもあれば「大容量」と称された。しかし現在ではその数字は、社内LANでも家庭を結ぶ「ブロードバンド」回線として当たり前のものになっている。イーサネットも顕著な高速化の例の1つで、10Mbpsから10Gbpsまで、その速度は1000倍に向上した。
基盤が変われば、おのずとその上部構造も変わる。YouTube、あるいはニコニコ動画などが代表例だろうが、潤沢な帯域の上で、動画や音声などの大容量コンテンツを自由に享受できるようになった。また企業では、データと音声をIPネットワーク上で統合したユニファイドコミュニケーションによる、状況に応じたコミュニケーションも現実になっている。
逆に、ネガティブな方向への大きな変化もある。それが「セキュリティ」だ。10年前にもウイルスなどは存在していたが、あくまでユーザーを驚かせる愉快犯的な存在だった。それがいまでは、IDやパスワードをはじめとする重要な情報を盗み取ったり、さらなる攻撃のための踏み台化に用いられるようになり、本格的な犯罪の一環になりつつある。
企業を取り巻く環境も大きく変わった。特に、さまざまな面から社会的責任が大きくクローズアップされるようになっている。例えば、個人情報保護法の施行によって、情報の取り扱いには細心の注意が求められるようになったし、日本版SOX法によってコンプライアンス、内部統制が強く要求されている。さらに2008年は、消費エネルギーを抑え、省エネを図るグリーンITという要素が求められるようになっている。
ただ、年月を経ながらも、あまり変わらない要素もある。その1つが、ITおよびネットワークを支える運用管理者の地道な努力だ。
ネットワークはこの10年で、インフラとしての役割を高め、いっそうの信頼性が求められるようになった。以前ならば、仮にメールやWebが一時的に利用できなくなっても、笑い話で済まされることもあった。しかし現在、ネットワークの停止は即、企業のビジネスに大きなインパクトを与えることになる。そうした事態を招かないよう、また招いたとしても障害を最小限に抑えるための運用管理担当者の努力は、昔もいまも変わらない。
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ただ高速化するだけでなく効率的に
6月11日から13日にかけて幕張メッセで開催される「Interop Tokyo 2008」の展示会では、ネットワークインフラを支え、活用するためのさまざまな製品やソリューションが紹介される。
ネットワークを支える要の機器、ルータ/スイッチ類は相変わらずショウの主役だ。ギガビットから10Gbps、40Gbpsへとどんどん高速化と高密度化が進む一方で、最近では消費電力の節約という要求にも応えようとしている。
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多くのベンダは以前は、高速化という需要に応えるために、ひたすら高密度化、大規模化という道を競ってきた。だが、その流れは1つのピークに達し、いまや転換点を迎えようとしている。
1つの例が、仮想化技術をフルに活用してデータセンターのネットワーク機器を集約し、その上でSaaSという形でサービスを提供することにより、エネルギー効率に優れた形でより優れたサービスを利用できるようになるという未来像も描かれている。これは、セキュリティ向上やコンプライアンスという面からも有効なアプローチだ。
例えば、国産ベンダのアラクサラネットワークスでは、高性能化を図ったマルチレイヤボックススイッチの新製品「AX3640Sシリーズ」を展示する予定だ。同時に紹介される企業・公共向けの小型ルータ「AX620Rシリーズ」ともども、電力効率の良いアーキテクチャを採用し、待機電力を節約する機能を備えている。
もちろんサーバ側でも、同様の努力が進んでいる。むしろネットワーク機器に先んずる形で、消費電力を抑え、リソースを効果的に活用する技術を搭載したサーバ製品が続々投入されている。別記事「ネット最前線に何が見えるか」でも紹介したとおり、データセンター用サーバ「ECO CENTER」を紹介するNECや富士通といった大手に交じり、エーティーワークスなども、省スペース/省電力を図ったサーバを紹介する予定だ。
ただ、このように多くのネットワーク機器やサーバが集約されれば、その分、「見えなくなる」部分が増え、管理者の作業は複雑化する。それを手助けし、ネットワークの運用管理、トラブルシューティングを支援するツールにも注目したい。その1つとして、NetIQでは、WindowsのActive Directory環境のポリシー管理を一元的に行う「Directory and Resource Administrator」や「Group Policy Administrator」を紹介する予定だ。
新しいアプリケーションを可能に
確固としたネットワークインフラが確立されることにより、その上で、マルチメディア、動画などの大容量コンテンツや多様なアプリケーションが利用できるようになった。これは、企業においても例外ではない。
中でも、最近注目されるトレンドの1つに「エンタープライズ 2.0」がある。コンシューマーの分野から始まったWeb 2.0の波が、企業における情報共有の在り方にも影響を及ぼしつつあるのだ。AjaxをはじめとするWeb 2.0技術を活用し、ブログやCMSを既存のアプリケーションに適用しながらコラボレーションを進める、そういった企業の在り方が模索されている。Interopの会場では、その可能性を探る「エンタープライズ2.0パビリオン」も設置される。
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ただ、これはネットワークに対して新たなチャレンジも生み出している。Webアプリケーション化が進み、従来ならばローカルのサーバ上にあったアプリケーションを、ネットワーク越しに利用する形態が広がるにつれ、パフォーマンスやセキュリティ面からの懸念も浮上してきた。それを解決するため、WANアクセスを高速化し、同時にセキュリティを強化するための製品群も登場している。
脇もきちんと固めたい――セキュリティにも注目を
前述のとおり、企業を取り巻く環境は厳しさを増している。中でも、管理者の頭を悩ませ続けているのがセキュリティの問題だ。いまや、ウイルスやスパムといった外部からの脅威の侵入を防ぎつつ、内部からの情報漏えい防止にも取り組まねばならない。
なるべく少ない手間でセキュリティを実現するアプローチとしてこの数年注目されているのが、検疫ネットワークである。セキュリティポリシーに違反している端末をネットワークから排除することで、あらかじめウイルス感染や情報漏えいなどのリスクを押さえ込む仕組みだ。802.1x認証を活用するものに始まり、シスコシステムズの「NAC(Network Admission Control)」、Windows Server 2008で実装された「NAP(Network Access Protection)」も含め、さまざまなアプローチが提案されている。日立電線の「APRESIAシリーズ」もその1つで、ネットワークがただデータを運ぶだけでなく、セキュリティを高める役割も担う。
また、スパムメールやボットからの攻撃、受動的攻撃といったさまざまな脅威の侵入を防ぐ製品や、そうした機能を1台に統合したUTM(統合脅威管理)アプライアンスも、セキュリティベースラインを保つ手助けになる。
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この15年、ネットワークは大きく発展してきた(もちろん、その影には人知れず消えていった技術やサービスもたくさんあるのだが)。Interop Tokyo 2008では、そうした積み重ねの上にさまざまな可能性が花開こうとしていることを確認できるだろう。
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