元麻布春男の視点PCも暑さでダウンする? |
どうやら、このところの関東地方の暑さは記録的らしい。この暑さにへばるのは人間だけではないようで、筆者の仕事場のPCも多くのトラブルに見舞われ続けている。この2カ月あまりで潰れたハードディスクが4台。どれも型番も違えば症状も異なるため、すべてを暑さのせいにはできないが、経験的には、夏場にトラブルが増えるような気がする。
プロセッサが暑さに耐えられない
ハードディスクよりもっとハッキリと暑さのせいだといえるのは、PCのフリーズだ。通常、筆者が仕事に使うPCは、パワーマネジメントは有効にしてあるものの、電源は落とさないようにしている。だが、さすがに仕事部屋のエアコンまでつけっぱなしにはしないため、少なくとも1日に何時間かは、空調が切れた部屋でマシンが稼動することになる。どうやらこれがこたえたようで、ある日、起床してPCを見ると電源がオンになったままフリーズしていたのだ。
特に最近マシンの設定を変えたわけではないし、同じ設定で6月までは何の問題もなかった。それにもかかわらず、寝ている間にフリーズしたというのは、どうもおかしい。しかも、この後もう1度同じ症状が現れたが、試しにエアコンをつけておくと、フリーズする様子はない。というわけで、とりあえずプロセッサに装着するCPUクーラーを、Boxed版プロセッサ(化粧箱に入れてCPUクーラーとともに販売されているプロセッサ)標準のものから、市販されているサードパーティ製の大型のものに交換してみた。それ以来、寝るときはエアコンを止めているにもかかわらず、いまのところフリーズする様子はない。
購入したCPUクーラーとBoxed Pentium III標準のCPUクーラー |
この夏の暑さ対策に購入したCPUクーラー(右)。左はBoxed版Pentium III-600EB MHzに付属していたCPUクーラー。いままで、標準のCPUクーラーで困ったことはなかったのだが、今年の夏は越えることができなかった。 |
筆者が仕事マシンに使っているのは、いまとなっては遅い部類に入るPentium III-600EB MHz(FC-PGAのCoppermine)。このマシンを使い出したのは今年に入ってからで、今回が初めての夏である。昨年の夏は、Pentium III-450MHz(SECC2のKatmai)だったが、このような問題はなかった。SECC2の方が放熱に使える面積が広いためなのか、それともプロセッサの動作クロックがじわじわと上がっていることによるものなのか、はたまたそれだけ今年の夏が暑いということなのか、ハッキリとした理由は定かでないが、どうやら原因がプロセッサの放熱にあったらしいことは確かだ。ちなみにケースには、電源以外にファンが2個搭載されているので、ケースとしての放熱は十分なはずなのだが……。
Pentium 4のTCC機能とは
実は、同じ部屋にあと2台、24時間運転のPCがある。1台はPentium Pro-200MHzを搭載したサーバ、もう1台はPentium 4-1.7GHzのPCだ。サーバについては、動作クロックが低いことに加え、ハードディスクを外付けにしており、その分の発熱がないためか、とりあえず問題は生じていない。外部接続のハードディスクは、今や絶滅してしまった5400RPMのSCSIドライブだ。このシステムはすでに数回、夏を越した実績もあり、ハードウェア的には心配していない。蛇足だが、ソフトウェア的にはWindows 2000にして以来、調子が悪くて困っているが。
もう1台のPentium 4マシンは、とりあえず現在はビデオ録画用のPC(?)となっているのだが、こちらもまったく心配していない。1つの理由は、仕事マシンと違い、このマシンについてはACPIのS3モードへのサスペンド(Suspend to RAM:メイン・メモリにハードウェアの状態などを保存して待機状態になること)を有効にして運用しているということにある(仕事マシンはサスペンドすると調子が悪い)。そして、もう1つの理由はPentium 4が備えるThermal Monitor機能を信用しているからだ。
Thermal Monitor機能というのは、ダイの温度を計測するために設けられたオン・ダイの温度センサ(サーマル・ダイオード)とTCC(Thermal Control Circuit:温度制御回路)で構成される、プロセッサの温度管理機構のこと。正確に温度を計測できるように、温度センサ用のダイオードをダイ上に作り込んであり、その計測値が一定の温度を超えると、TCCが一定周期でプロセッサ・コア内部の動作クロックを一時停止するようになる。つまり、プロセッサ・コアの動作を定期的に繰り返し休止させることで消費電力を削減し、発熱量を減らして温度を下げ、システムの誤動作やダイの焼損などを回避する。
TCCの動作モードには、Automaticモード(自動モード)と、On-Demandモードの2つがある。自動モードでは、プロセッサの温度が一定の温度を超えると、クロックを停止/駆動する期間の比率(デューティ比)が一律に50%に設定される。例えば、クロック停止期間が2μ秒の場合、2μ秒クロックを止めたら次の2μ秒はクロックを有効にし、その次はまた2μ秒止める、という繰り返しになる。つまり、1.7GHzのPentium 4は、実質的にクロック周波数850MHz相当での動作となり、発熱量も減少する。そして、温度が一定以下に下がると、TCCの自動モードは解除され、プロセッサの動作は再びフル駆動の状態(デューティ比100%)に戻る。この自動モードは、起動時にBIOSで有効にしておく必要があるものの、それさえ忘れなければ、外付けの回路やソフトウェア(デバイス・ドライバなど)のサポートを一切必要としない。
動作クロック (GHz) | ケース内の最大温度(度) | 推奨最大ファン導入口温度 (度) | TDP(W) |
1.3 | 69 | 40 | 48.9 |
1.3 | 70 | 40 | 51.6 |
1.4 | 70 | 40 | 51.8 |
1.4 | 72 | 40 | 54.7 |
1.5 | 72 | 40 | 54.7 |
1.5 | 73 | 40 | 57.8 |
1.6 | 75 | 40 | 61.0 |
1.7 | 76 | 40 | 64.0 |
1.8 | 78 | 40 | 66.7 |
Boxed Pentium 4の温度仕様 | |||
TDP(Thermal Design Power)とは、温度の観点から設計した場合の消費電力で、熱設計電力と呼ばれる。動作可能な温度上限が同じ場合、この値が大きいほど、より強力に冷却しなければならない。 |
一方のOn-Demandモードは、温度センサの情報とは無関係に、ACPIのコントロール・レジスタへの書込みにより動作するモードだ(BIOSあるいはデバイス・ドライバなどのサポートが必要)。最大の違いは、デューティ比を12.5%〜87.5%まで、12.5%刻みで設定できることにある。その名前のとおり、OEMやユーザーの必要に応じて、デューティ比を下げるためのモードである(なぜデューティ比を下げる必要が生じるのか、という理由は、Pentium 4のようなクライアントPC用のプロセッサではあまり思いつかないが)。また、On-Demandモードと自動モードを併用することも可能だ。この場合自動モードが優先権を持ち、一定以上の温度に達した場合、On-Demandモードに設定していても、自動モードが設定したデューティ比50%が用いられる。
このTCCによる保護に加えて、TCCが有効になっているかどうかにかかわらず、温度センサの検出温度が約135度に達すると、プロセッサは自動的にHALTし、温度が下がった状態でリセットされるまで、プロセッサは動作を停止する。このように二重の温度保護機能を備えているのがPentium 4の1つの特徴といえる。
TCC機能の威力
実は筆者は、TCCによる温度管理を経験したことがある。Intel純正のPentium 4対応マザーボードであるD850GBには、冷却ファンに電力を供給する3ピン・コネクタが4カ所あるのだが(D850GBの製品情報ページ)、そのうち3つがプロセッサ・ソケット周辺に集中している。プロセッサ・ファン、プロセッサの電圧レギュレータ用ファン、RIMMファンの3つだ。ちなみに、もう1つのシャシー・ファンは離れた場所にある。
あるとき筆者は、CPUクーラーの冷却ファンの電源ケーブルを、プロセッサ・ファンのコネクタではなく、RIMMファンのコネクタに接続してしまった。通常の利用では、RIMMファンが必要になるほど、RIMMが熱くなることはないので、ヒートシンクの冷却ファンをRIMMファンのコネクタに接続すると、まったく回転しない。しかし筆者は、それに気付かず、Windows 2000のインストールを開始してしまった。
現在の高クロック動作のプロセッサの場合、通常であれば、Windows 2000のインストールがいくらも進まないうちに、プロセッサがHALTしてしまうか、熱暴走するか、のいずれかになってフリーズしてしまう。こうした状態では、インストール途中で実行されるハードディスクのフォーマットが完了できないのが普通だ。ところが、Pentium 4は、CPUクーラーの冷却ファンが停止しているにもかかわらず、Windows 2000のインストールが完了してしまった。もちろんこれは、たまたまプロセッサの温度が135度に達しなかったためであり、必ずしも冷却ファンなしでWindows 2000のインストールが可能なわけではない。筆者は周囲に漂うちょっと焦げくさい臭いで異常事態に気付いたのだが、同時に感心したことを覚えている。
ほかのプロセッサでは夏場に注意
ほかのプロセッサ、例えばPentium IIIの場合、温度センサは備えているが、その情報をどう扱うかは、マザーボードとBIOSに任されている。プロセッサが独自に動作クロックを引き下げる、といった機能は備えていない。多くのPentium III対応マザーボードが、ナショナルセミコンダクター製のモニタ・チップを実装し、BIOSセットアップで温度管理について設定可能になっているが、クロックを下げながら動作を続けるのではなく、一定以上の温度に達した場合、システムを停止させることで、破壊を防ぐといった趣旨である。この夏、何度かフリーズした筆者の仕事マシンも、おそらくHALTすることで、プロセッサ自身、さらにはマザーボードが破損する事態から免れたのだろう。
AMDの場合、Thunderbird/Spitfire(Duronの初代コアの開発コード名)の世代には、オン・ダイの温度センサは搭載されておらず、温度管理は外部の温度センサとマザーボード、BIOSに依存している。Palomino/Morgan(Duronの第2世代コアの開発コード名)からは、オン・ダイの温度センサが実装されたため、外部の温度センサなしに、正確な温度の測定が可能となった。Pentium 4のようなTCCによる自動管理といかないまでも、Pentium III並(測定はプロセッサ、管理はマザーボードとBIOS)にはなったわけだが、Thunderbird/Spitfire対応の古いマザーボードでは、オン・ダイの温度センサに対応していない可能性が高い(TCCのようにスタンドアロンで利用可能な温度管理機能まであれば、古いマザーボードでも自動的に恩恵に浴せるのだが)。Pentium III同様、夏場を考えると仕様で規定されたよりも大きめの(つまり冷却能力の高い)CPUクーラーを使う、というのが安全だろう。
関連リンク | |
D850GBの製品情報ページ | |
Intel Pentium 4 Processor In the 423-pin Package Thermal Design Guidelines(23ページ参照) |
「元麻布春男の視点」 |
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