第2回 生産現場が目指す日本のものづくり革新


株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2007年11月29日


 限定的な取り組みでは高いROIを得られない

 いくつかの工場内物流での導入事例を報告しましたが、こうして事例を挙げると、RFIDの普及は意外に速く進んでいるかのように錯覚されるかもしれません。

 まず、こうした取り組みはRFIDソリューションにかかわるベンダ各社のものだということを忘れてはいけません。各社とも工場内物流の効率化以上に、自社で扱っているRFIDソリューションの販売力強化のために、モデルケースとして進めている色彩が強く、採算(ROI:Return on Investment)を度外視している側面があります。

 RFIDベンダ以外の生産現場での使用例の多くが、「かんばん」や生産指示書をRFID付きのものにする、といった取り組みにとどまっているのが現状です。こうした限定的な取り組みは、後述する物流センターでも例外ではありません。

 前回も述べたとおり、RFIDの利用を考えた場合、最もROIが得られる形はサプライチェーンマネジメント(SCM)全体の取り組みです。その意味から、クローズドな環境の、しかも限定的なRFID利用にとどまる状況に歯がゆさを覚えます。

 しかし、SCM全体の導入までにさまざまな課題が残されている中で、現場の立場からこれまで改善に取り組んできた筆者から見ると、いつ来るか分からない将来を見据えて多額の投資を行うより、いまできる付加価値向上策と効率化を見据えてRFIDを活用していく方が得策だと考え、それに見合った仕組みを勧めるようにしています。

 もちろん、筆者としても現在の状況にただ手をこまぬいて見ていくつもりはありません。現状を改善すべく、ベンダ関係者と会う際は、

  • これだけ自社内工場での導入は積極的に行って外向きにはSCMを提唱しているのだから、自社が属する家電業界のSCM全体の取り組みを早期に実現させて、それをほかの業界に対して横展開していくべきではないか
  • 小売側との綱引きに従事するより、導入コストで負担がたとえ大きくなったとしても、その後のビジネスで取り返すことができるのではないか
  • 普及効果でコストが下がれば、ほかの業界にも導入しやすくなるはずだし、大所高所に立った普及に臨んでくれるなら、現場側の人間も拒むことはないはず

と、強く訴えています。

 進みつつある物流センターのRFID対応

 さて、物流センター内でも、数こそ多くありませんが、導入事例は着実に増えています。

 例えば、4万点に及ぶ金型管理を行うアルティア橋本(現アルティア)では、2.45GHz帯のRFIDタグを使って金型の在庫管理を行っています。金型は、高熱・油・振動・高湿度の環境に置かれており、バーコードを貼付しての管理が難しく、従来は紙台帳と金型番号を目視照合することで対応してきました。

 しかし、この作業では時間がかかり、また番号がかすれてしまうことで見落とす可能性があります。このような状況を改善するため、金属の影響を受けにくいメタル対応と呼ばれる特殊なRFIDタグを用い、管理を実施しました。この結果、金型棚卸し作業工数を50%削減し、確実な読み取りを実現、効果を上げています。

 このほかにもピッキング分野でRFIDを活用した仕組みを取り入れ、デジタルピッキングの代替として使用するケースも出ているようです。

 生産現場と同様に、多くは限定的な活用にとどまっています。しかし、RFIDの需要は徐々に物流分野でも浸透しつつあります。

 日通商事は2006年に物流・包装業界では国内で初めてUHF帯を活用した仕組みを構築しました。例えば、鈴鹿LSセンターでは自動車部品メーカーの東洋電装の輸出量産梱包業務などに導入、他センターでも実稼働のための取り組みを進めるなど、物流業者の立場から積極的に普及に努めています。日通商事の導入事例については、回を改めて詳細に報告する予定です。

 RFID付き通い箱は積載品管理まで発展できるか

 通い箱管理もRFIDが使用されるジャンルの1つとして挙げられます。代表的な事例として、加工食品卸大手・菱食の広島フルライン物流センターのケースを見てみましょう。

 ここでは2006年春から、商品を納める通い箱(クレート)にUHF帯タグを貼付しています。通い箱は物流センター・小売りを行き交うこととなるため、紛失が発生するなど管理に問題を抱えていましたが、RFID導入により紛失防止に大きく効果を上げています。また、食品を扱うため、通い箱の洗浄を行っているのですが、洗浄履歴の追跡が図られるようになったことで、衛生面の向上にもつながっているようです。

 菱食は、現状は通い箱の管理にとどまっているわけですが、将来的には通い箱に積載する商品とひも付け、積載商品の管理に結び付けることで、さらに大きな効果を上げようとしています。

 個体管理の適用は、コストなどの側面を考えると、限定的な条件以外での導入は当分ないといわざるを得ないわけですが、ケース、あるいはパレットなど物流容器に取り付けての使用であるなら、普及は早いといわれています。

 実際、物流容器のレンタルシステムメーカーとして最大手の日本パレットレンタルでは自社が流通する700万枚ものプラスチックパレットを、2010年までにRFIDタグを貼付したものに置き換える構想で事業を進めています。同社が提案する物流容器での活用が最も現実的な利用法であることは間違いありませんが、それでも現場を見る限り、業界をまたがりSCM全体に普及するには、ハードルは依然、高いように見えます。

【関連記事】
UHF帯タグを付けてパレット利用を効率化、JPR

 これまで2回にわたり、現状のRFID動向を物流現場の視点から伝えてきました。次回からはこれまで当社が具体的にかかわったRFIDシステム構築事例を述べ、さらに突っ込んだ話をしていきたいと思います。

2/2
 

Index
生産現場が目指す日本のものづくり革新
  Page1
部品調達時間を短縮し、在庫の半減に成功
ネットワーク未整備環境にも耐えるUHF帯システム
Page2
限定的な取り組みでは高いROIを得られない
進みつつある物流センターのRFID対応
RFID付き通い箱は積載品管理まで発展できるか

Profile
株式会社イー・ロジット
コンサルティング部

通販物流をはじめとする多品種少量多頻度の物流、いわゆる「小口高回転物流」でビジネスを行う会社を、アウトソーシング、コンサルティング、システム導入支援という3つの側面で全面支援。

「センター立上げ支援」「物流現場改善」「物流システム導入支援」など、多くの経験値を持っている。

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