第4回
10年前から変わらないRFIDの課題
株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2008年1月30日
RFIDシステムの導入が期待される分野の1つに物流が挙げられる。果たしてITベンダが思い描くRFIDシステムは、物流現場が求めているものなのだろうか(編集部)
イー・ロジットには、アパレル業界におけるRFIDの取り組みを長年、見続けてきたスタッフがいます。いまから10年ほど前に営業倉庫での導入実証実験に参加してから、市場動向を見続けてきた彼は、「RFIDの問題点は10年前の実証実験段階から、本質的なところは変わっていない」と見ています。
技術が格段に進歩し、運用方法が確立されつつあるいま、10年前と現在では、大きな差があるはずです。しかし、彼が「RFIDの抱えている問題は何ら変わっていない」というのには、それなりの理由がありそうです。
今回は、10年前に行われた導入実証実験のケースを引きながら、RFIDにはどういった問題があるのか、運用を図っていかなければいけないのか、という実情に迫ってみましょう。
多種多様なアパレル品の検品・棚卸作業の効率化に期待
10年前に行った実証実験モデルは、
- 扱う商品は高級アパレル。海外の縫製工場から通関を経て入荷し、
- タグ付けや検針を行っていったん倉庫内に保管し、
- 荷主からの出荷指示に従い、路面店やデパートに出荷する
といった形態のものです。
取扱品は荷姿だけ見ても、コートやジャケットなどのハンガー物、セーターやシャツなどの袋物、ベルトやカフス、ピンなどの箱に入った物など、多岐にわたります。保管方法も、ハンガーレールに吊るしてあったり、袋物や小物は出して保管棚に入れてあったり、ダンボールケースに入ったまま積み上げてあったりと商品によって、さまざまな形で保管されています。
こうした状況の中、RFIDタグにはあらかじめ商品コード・カラー・サイズ情報を書き込んでから商品に貼付していました。しかも、当時は値札用タグではなく、プラスチックのワイヤや綿糸を使って、ハンガー物にはタグをハンガーにぶら下げる形で、袋物はほかのバーコードラベルと同様に袋の中に、小物類は商品と一緒に箱の中に貼付して運用を試みました。
多頻度少量化が進み、荷姿も多様なアパレル商品は、1つのダンボールケースにいろいろな商品が雑多に梱包されて、出荷されます。そうした中、バーコードの運用では、バーコードラベルが袖や襟の中に入り込んで隠れてしまい、検品作業時に、ラベルを引っ張り出して読み込む必要があります。
RFIDを導入することで、こうしたラベルの引っ張り出し作業がなくなり、タグの読取検品によって、作業効率が大幅に向上すると期待されていました。棚卸し作業においても、ハンガーのブロック単位やオリコン単位、ダンボールケース単位でRFIDタグを読取検品できれば、効率的になると思われていました。
RFIDタグは、13.56MHz帯のものを採用しました。当時はハンディターミナルタイプのリーダがなかったため、各作業別にトンネル型と据え置きのゲート型、取っ手を付けた1メートル幅くらいのハンドゲート型のアンテナを作成したほか、単品検品用にアンテナ1枚を作業机の上に設置して代用しました。
検品システムはVisual Basicとデータベース(Microsoft Office Access)でプログラムを作成しました。ノートPC上にデータベースを構築し、RS-232CシリアルケーブルでRFIDリーダ/ライタをつなげ、アンテナを適宜つなぎ替えて作業を行ったのです。
浮き彫りになった読取完了までの時間ロスなどの課題
こうして行った実証実験は、いくつかの結果から断念せざるを得ませんでした。
まず、RFIDタグの読取精度が低く、作業現場の環境によって、その精度に大きなバラつきが目立ちました。
倉庫には金属製のハンガーレールが敷かれており、電波環境が悪いことも精度が低くなる要因でした。商品自体に付いているボタンやジッパー、マチ針などの金属部分による影響もあり、読取率を下げる原因となりました。
ダンボールケースには大中小と数種類のサイズがあり、一番大きなケースに合わせるとアンテナトンネル自体が大きくなり、13.56MHz帯では読取範囲を超えてしまうことが分かりました。
また、ハンガー物については、RFIDタグがぶら下がっているため向きが一定でなく、読取不可となるアンテナ垂直面になることも起こりました。さらに、取り付け位置に高低の差が生じるため、予想外にアンテナの読取範囲が狭く、出力が弱くて、1枚のアンテナでは足りないケースも生まれました。
次に、プログラム側の問題もありました。読取精度を上げるために、アンテナや設置場所、プログラムのチューニングに日夜、取り組んだのですが、読取率以外にも複数読取を実現するためにはシステムの制限を超えていたのです。
プログラムには、RFIDタグの重複読取を防止するためのチェック機能を設けていました。しかし、当時のPCの性能もあって、チェック機能を実施すると、10枚ぐらいであれば全部読み取るまでに短時間で終了するのですが、枚数がそれ以上増えてくると読取完了までに時間がかかるのです。結局、「検品枚数を制限しなければいけない」という結論に達しました。
このようなさまざまな問題が分かり、それを解消するために「商品を同じ方向に向けて箱に入れる」「金属類のパーツが付いているものは別に仕分ける」など、次々と運用上のルールを作らざるを得なかったのですが、この新たなルールの追加によって作業現場から不評の声が上がる結果となりました。
また、RFIDの性質上、検品前にその箱の中に商品がいくつ入っているか把握する必要があります。そこで、あらかじめ読取個数をプログラムに入力し、その個数分をカウントアップできれば、OK表示と音が鳴るようにしました。
これは、入力した個数のカウントアップまでに時間がかかるようならば、RFIDタグを読み込んでいないと判断させることを意図したのです。しかし、単に処理時間がかかり過ぎているのか、それとも読み込めていないのか分かりづらい結果となり、こちらも不評でした。
10年前は、RFIDに対し利点ばかりが強調して伝えられ、作業現場側は欠点を何一つ知らされていない状況でした。そのため、これらの状況を知るにつれ、失望感が増し、RFIDに対しネガティブな印象を与える結果とさえなりました。
当時はベンダ側も運用方法を確立しておらず、実験ラボ程度の試験にとどまっていたため、実験室以外の環境や業務内容、商品特性から来る障壁を予想できなかったのでしょう。
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Index | |
10年前から変わらないRFIDの課題 | |
Page1 多種多様なアパレル品の検品・棚卸作業の効率化に期待 浮き彫りになった読取完了までの時間ロスなどの課題 |
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Page2 RFID導入までに抱える4つの問題点 |
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