第4回
10年前から変わらないRFIDの課題
株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2008年1月30日
RFID導入までに抱える4つの問題点
UHF帯製品などが登場し、技術の飛躍的進歩によって、読取精度の向上、読取時間の短縮が図られた今日では、これら多くの問題は改善されつつあるのは確かです。
しかし、どうでしょう。導入を希望する企業側がRFIDについて、過度の幻想を持っており、いざ検証を兼ねたトライアルを実施すると、そこで初めて、さまざまな運用上の制約、実作業での電波環境状況を知り、幻想を壊すケースがいまだ多いような気がします。
技術的・運用部分での問題は同一なものも多いようにみえます。RFIDの抱えている本質的な問題は、次の4点に集約化できるのではないでしょうか。
1.多くの企業において、真っ先にコスト圧縮を求められる部門が物流部門であること
意外と見過ごされがちですが、物流部門はコスト削減が一番求められる部門です。RFIDで実現する付加価値向上策によってサービスを向上させるよりも、目先のコスト削減に視野が行きがちで、RFIDにかかわらずITシステム導入について消極的なところがあります。ROI(Return On Investment:費用対効果)については、他部門に比べて厳しい見方がされており、現状のRFID導入コストは大きな負担となっています。
もちろん、積極的な付加価値向上策を図る物流業者もあり、そうした企業が伸びていることも確かです。しかし、大多数の企業に浸透するまでには成功事例が周囲にも活発に現れるまで顕在化する必要があります。
2. 実際の現場状況により、RFIDタグの周波数帯、リーダ/ライタの最適なシステム構成がその都度変わる、デジタルでありながら極めてアナログなシステムであること
目に見えない電波技術である以上、RFIDタグの読取結果を可視化する必要があります。作業効率を落とさない可視化には、それなりの工夫とハードウェアが必要です。状況によっては電光掲示板やパトライトなども必要となるでしょう。そのため、ほかのシステム導入に比べて、機器選定に関する多岐にわたる調査と業務分析が必要となります。
さらに物流業者はRFID導入によって、新規顧客を獲得していこうと考えるわけですから、将来的にも対応できる柔軟なシステム構成を取れるかどうかも問われることとなります。ベンダ側は、このようなニーズに応えられているかどうかを認識する必要性があります。
3. レスポンス要求と精度への不安除去と読取ミスへの対応
前項と重複しますが、RFIDは電波技術で見えない特性を持つことから、読み取れないなどのトラブルが発生したときには、その原因をすぐに特定することは難しく、その現場なりの対処方法を確立する必要があります。
例えば、以下のような項目を想定しながら、対応していくことが重要となるでしょう。
- 一括読み取りであるのか、単体読み取りなのか
- 商品自体にRFIDタグを付けているのか、外装だけなのか、専用ケースなのか
- RFIDタグは張り替えてリサイクルできるのか、できないのか。ID情報が別に取れる仕組みがあるのか
- システム運用の形態が変わることも想定し、対処方法はいく通りも用意しているのかどうか
4. それぞれの企業に合った現在のバーコードシステム以上の効果的な利用シーンを想定できるのか
やはり、この点は重要なことです。物流現場では商品やSCM(Supply Chain Management)の流れの違いから、「たとえ同一商品を扱っていたとしても、同じ現場はない」という考え方があります。この考え方は同時に物流業界における共通化、SCMの実現を遅らせる結果となっているのですが、ITベンダ側からすれば、こうした考え方が広まっている業界に、どう納得させるかが鍵となるでしょう。
単純にコストを増加させる要因として、物流業者側の考えを否定するのでは、現場側からの反発が強くなるだけです。現場側の意見をある程度、取り入れた柔軟な仕様を作り出すことが大切となってきます。しかし、柔軟な仕様を提供することは必要ではありますが、現場側からの意見をただ聞き入れていては、カスタマイズに次ぐカスタマイズでシステム導入費はかさばるだけです。
「物流には同じ現場はない」にせよ、現場からの要求を聞き入れるべきところ、聞き入れてはいけないところの判断は下せるようにならなくてはいけないでしょう(この区分の仕方はITベンダ側からの視点ではなく、あくまで作業現場にとって得をする視点からの判断が必要です)。
さて、次回は国内物流業者で初めてUHF帯RFIDシステムを導入した日通商事の活用事例の詳細について取り上げます。
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Index | |
10年前から変わらないRFIDの課題 | |
Page1 多種多様なアパレル品の検品・棚卸作業の効率化に期待 浮き彫りになった読取完了までの時間ロスなどの課題 |
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Page2 RFID導入までに抱える4つの問題点 |
Profile |
株式会社イー・ロジット コンサルティング部 通販物流をはじめとする多品種少量多頻度の物流、いわゆる「小口高回転物流」でビジネスを行う会社を、アウトソーシング、コンサルティング、システム導入支援という3つの側面で全面支援。 「センター立上げ支援」「物流現場改善」「物流システム導入支援」など、多くの経験値を持っている。 |
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