物流現場から見るRFID


最終回 安心・安全へ活用現場を広げていくRFIDの未来


株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2008年4月1日
RFIDシステムの導入が期待される分野の1つに物流が挙げられる。果たしてITベンダが思い描くRFIDシステムは、物流現場が求めているものなのだろうか(編集部)

 これまで5回にわたり、RFIDの抱えている課題、将来性をさまざまな視点から追ってきました。最終回となる今回は、RFIDの今後の可能性について、語っていきたいと思います。

 北京オリンピック選手村の食料品を原産地からトレース

 食品分野では偽装表示、中国餃子事件といった「食の安心・安全」の根幹を揺るがす事件が多発しています。偽装表示については食品に限らず、製紙・建築業界でも同様の事件が起こり、「偽装表示の根絶」「安心・安全の確保」は、いまの日本における最大の関心事といっていいのではないでしょうか。

 バブル崩壊以降のデフレスパイラルの状況下で、「できるだけ安く、いいものを消費者に届ける」ことから、いつの間にか「価格を下げるためには偽装を行ったり、安全にかかわるコストをカットしたりしてもいい」という体質へと変化してしまった企業が多くなってしまったことは、大変、憂慮すべき点だと思います。こうした「偽装の根絶」や「安全の確保」を図るため、RFIDの注目度が再度、高まりを見せています。

 餃子事件を契機に信頼を大きく損なった中国では、国の威信をかけて、今年開催される北京オリンピックの選手村で出される食料品について、食材生産段階からRFIDによるトレーサビリティ管理を行い、厳しいチェックの下に安全・安心な食料供給を図ると公表しました。RFID管理には多大なコストが掛かりますが、安全に対して多大な投資をすることで、餃子事件によって傷ついた威信を取り戻す狙いがあるようです。

 これまでの連載で言及したとおり、現状ではRFIDを採用したトレーサビリティシステムは、バーコードや2次元コードより必ずしも優れているとはいえません。しかし、先端技術であるRFIDが与えるインパクトは2次元コードの比ではありません。「RFIDを導入するぐらいコストが掛かっているのだから、安全管理は徹底している」という印象を消費者側に植え付ける効果があります。

 実際のところ、偽装表示を防止するという観点から対策を突き詰めていくと、システムの問題ではなく製造者側の意識問題となります。モラル欠如が行き着けば、いくら高度なトレーサビリティシステムが構築されていようと、ごまかしようがあるのですが、危機管理能力の向上にはつながります。

 このへんは、百貨店において婦人靴をはじめ、いくつかの商品でRFIDを導入し、それをCRMに結び付け、集客力増につなげていくケースと似たところがあるのかもしれません。

 今後、中国と同様に国内企業の中からも、偽装表示がないことを消費者側に証明するために、2次元コードではなく、あえてコストの高いRFIDを選択し、高度トレーサビリティシステムを構築する動きが出てくるかもしれません。

 食品業界ではコスト的な兼ね合いから、高級食材や特別なケースを除き、単品管理へのRFID導入は当分進まないと見ています。しかし、メイン食材や高級食材といった一部のみをRFIDで管理し、ほかを2次元コードで管理することで全体のトレースを構築し、消費者側のイメージを上げる宣伝効果とトレーサビリティ体制の構築という実利双方を得る手法が出てくると筆者は見ています。

 老朽家電事故を契機に高まるリコール時の対応

 食品業界同様、家電業界においても、ガス湯沸かし器や温風器事件を契機に安全確保の機運が高まり、リコール時の早期回収を図るべく、RFIDを活用した「安全情報管理システム」導入を検討する動きが出ています。

 ここ数年の老朽家電事故多発の動きを受け、国は2007年に「改正消費生活用製品安全法」を制定。2009年春から、洗濯機・テレビ・エアコンなど家電5品目で、食品の賞味期限同様、安全使用が可能な期間表示をメーカー側に義務付けるとともに、老朽化により重大な事故が発生しやすい製品については、メーカーが消費者へダイレクトメールなどで点検時期が来たことを通知しなければならないようになります。

 メーカー側はこれを完遂するためには、製品を購買した消費者が誰かを把握しなければなりません。しかし現在、メーカー・量販店が行っている購買顧客管理は以下の課題を抱えています。

  1. リコールで対応しなければならない購買顧客特定について、メーカー側は消費者のユーザー登録カード返送で得られる1〜2割程度の顧客情報のみに依存している
  2. 量販店側は現在、販売履歴を基にした情報管理を行っているが、会員・型番のみの対応に限られている
  3. メーカー情報と量販店情報のひも付けがなされておらず、バラバラの管理を行っている

 こうしたさまざまな課題を抱えているが故に、購買顧客特定ができず、リコール回収の対応時には、メーカー側が大々的な告知を長期間行い、それでも必要な改修に到達しないケースが生まれているわけです。

 
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Index
安心・安全へ活用現場を広げていくRFIDの未来
Page1
北京オリンピック選手村の食料品を原産地からトレース
老朽家電事故を契機に高まるリコール時の対応
  Page2
安全情報管理を構築し、即座に購入者を把握できる仕組みへ
法的対応で新システムが求められる中、実現への期待大

物流現場から見るRFID 連載インデックス


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