物流現場から見るRFID


最終回 安心・安全へ活用現場を広げていくRFIDの未来


株式会社イー・ロジット
コンサルティング部
2008年4月1日


 安全情報管理を構築し、即座に購入者を把握できる仕組みへ

 RFIDの活用は、こうした状況を改善するためのものであり、メーカーから物流センター、量販店、消費者の手に渡った段階までの家電流通SCMを構築し、製品の型番・製造年月日といった商品情報と消費者情報をひも付けすることで、リコール該当製品が出たときに、即座に該当製品を購入した人の連絡先が分かる仕組みを目指しています。

 この取り組みは、経済産業省によるRFID実証実験の一環として、みずほ情報総研が音頭を取り、家電電子タグコンソーシアムと大手家電懇談会の協力を受け、2008年2月上旬から下旬にかけて、家電量販店・エディオン高井戸店で行われました。

 実験は、ビデオカメラ本体の液晶部分(非金属)に日立製のUHFタグ(響タグ)を埋め込み、検証。本体に埋め込んだのは「箱や証明書に貼付した場合、製品や消費者の手に渡った時点で紛失するケースがあるから」(みずほ情報総研情報コミュニケーション部情報科学技術チーム阿部一郎シニアコンサルタント)のようです。

 実験では、RFIDタグのユニークコードと製造番号、JANコードが製造時にひも付けされた状態となっており、店舗ではポイントカードを持っている会員、ポイントカードを持たない非会員向けに分けて実施しました。

 まず、ポイントカードを持つ会員については、ポイントカード取得段階で、消費者情報は量販店データベースに吸い上げられた状態となるわけですが、販売時に購買客が店員に渡すポイントカードに印字されているバーコードをハンディターミナルを使って読み取ることで顧客情報を端末画面に表示させます。

 次に、販売製品を収納された箱から取り出し、ハンディターミナルによって本体に埋め込まれたRFIDタグを読み取り、これによって顧客情報と製品情報がひも付けされることとなります。

 一方、ポイントカードを持たない非会員については商品購入時に連絡先などを聞き、随時入力。製品情報とのひも付けがされる形となっています(ちなみにこの作業は、消費者側への製品安全管理への浸透が進んでいるとの前提で行っています)。

 ここで管理されるデータは、量販店側に設置されているデータベースによって管理されますが、このデータベースはEPCglobal体系に準拠したWebデータベース(製品安全情報管理データベース)と接続することで、メーカー側からの閲覧・データ操作を可能とします。

 そのため、例えばリコールが発生した場合、メーカー側は端末上から製品の型番、製造年月日を入力するだけで、該当製品の購入者住所・連絡先一覧のデータを得られるようになります。こうした仕組みが出来上がることで、リコール時や今後対応が迫られる老朽家電点検のお知らせといった際の迅速な対応が可能となるわけです。

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 法的対応で新システムが求められる中、実現への期待大

 検討されている作業内容をRFIDや家電業界に精通している方が見れば分かるとおり、運用にこぎ着けるまでの課題が山積しています。

  1. ビデオカメラの場合、液晶という非金属部分があったため、読み取りが可能だったが、多くの家電は金属で構成されているため、製品本体にRFIDを埋め込んだ際の読み取りに問題はないのか
  2. 販売時に箱からわざわざ製品を取り出し、ハンディターミナルで読み取る面倒な作業を家電量販店側に理解を求めるのは果たして可能か
  3. 非会員からの情報提供は果たしてスムーズにできるのか
  4. 量販店別にデータベースを設置することを前提に置いたシステムではあるが、統廃合時への対応はどうするのか。大手量販店以外の中小家電専門店経由で販売された製品の対応はどうすればいいのか

 当然のことながら、これらに加えRFIDタグやシステム構築に掛かるコストの問題も挙げられます。こうして問題点だけを並べていくと、いつ実現するか分からない夢物語のように聞こえますが、筆者は今回の取り組みは何らかの形で実を結ぶと思っています。

 それはSCM構築による効率化、付加価値向上のメリットと、システム構築に掛かる多大なコストというデメリットにより導入段階で足踏みする通常の対応とは違って、法への対応を図るために何らかの形で新たな仕組みづくりとコストを負担することが、あらかじめ決められたケースだからです。

 メーカー側は「改正消費生活用製品安全法」に基づき、家電5品目については、購買者の特定をするシステムを何らかの形で構築せざるを得ません。期限が定められ、法的強制力を持つ中、その対応としてRFID導入が進み、SCM実現による効率化を進めていく可能性を筆者は期待しています。

■ □ ■

 さて、これまで6回にわたり、RFIDをシステムベンダとしての立場ではなく、物流現場側の視点に立って、今後の期待を込めつつ、時には現状の問題点を挙げながら、取り上げてきました。

 これまで連載中に度々、指摘してきた「SCMの実現による効率化」「付加価値向上」という側面だけにとどまらず、「安全・安心への対応」「コンプライアンス強化」といった現状の社会変化に対応するため、RFIDが有望な自動認識機器として活用の幅を広げていくことに期待を寄せつつ、本稿を締めたいと思います。ご愛読ありがとうございました。

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Index
安心・安全へ活用現場を広げていくRFIDの未来
  Page1
北京オリンピック選手村の食料品を原産地からトレース
老朽家電事故を契機に高まるリコール時の対応
Page2
安全情報管理を構築し、即座に購入者を把握できる仕組みへ
法的対応で新システムが求められる中、実現への期待大

Profile
株式会社イー・ロジット
コンサルティング部

通販物流をはじめとする多品種少量多頻度の物流、いわゆる「小口高回転物流」でビジネスを行う会社を、アウトソーシング、コンサルティング、システム導入支援という3つの側面で全面支援。

「センター立上げ支援」「物流現場改善」「物流システム導入支援」など、多くの経験値を持っている。

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