第2回 RFID利用シーンをイメージさせてこそ一人前


西村 泰洋
富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長
2007年3月5日


 ライフサイクルモデルを使う

 もう1つの手法としてのライフサイクルモデルについて解説します。この手法は、RFIDタグのデータ処理としての始期から終期までにフォーカスしてライフサイクルという形態で表現するモデルです。

 ライフサイクルモデルでは、RFIDタグのデータ処理だけをスナップショットしたような形になりますが、RFIDタグだけにフォーカスして討議する場合などであれば、ライフサイクルモデルの方が分かりやすく見た目にもスッキリします。

 RFIDタグのデータ処理にフォーカスして、6つのステップに分解してライフサイクルモデルを構築してみましょう。

1. 初期発行

 倉庫でRFIDタグに初期データ(日付、出荷番号、配送先コード、商品コード、数量)を入力する

2. データ確認

 ピッキングをした後で、RFIDタグにある出荷指示番号、配送先コードに対する商品コード・数量と、商品の実物に付与された商品コード(バーコード)とを突き合わせする

3. 出荷フラグ入力

 2の処理が正しく行われたRFIDタグに出荷フラグを立てる

4. データ確認

 店舗側では、RFIDタグを読み取りして、出荷指示番号、配送先コードから正しく自店舗に来るべきまとまりか(誤配防止)、商品コード、数量と実物の商品がすべてそろっているか(口割れ防止)を確認する

5. 入荷フラグ入力

 正しく入荷処理が終了したRFIDタグは入荷フラグを立てて倉庫に戻す

6. フォーマット

 倉庫に戻ってきたRFIDタグをフォーマットして再利用に備える

 このようなRFIDタグのデータ処理のステップを、ライフサイクルモデル図にすると以下のようになります。業務プロセスフロー図と比較するとスッキリした図になり、RFIDタグの利用方法が明確になります。

 業務分析と利用シーン想定はRFIDプロフェッショナルの仕事

 ここまで業務分析と利用シーン想定に有効な業務プロセスフロー図、ライフサイクルモデル図の作成について解説をしてきました。

 すでに一般的となっている業務では、新たに業務分析を必要としないケースもあります。しかし、RFIDの利用は大半のユーザーにとって初めての経験ということもあり、業務分析や利用シーン想定を求められるケースがほとんどです。従って、本稿で解説するスキルは必須のものとなります。

 ところで、マスコミなどで、RFIDシステムの普及が当初の予想よりも遅れているといわれることがよくあります。筆者も、そのような意見は正しいと思っていますが、RFIDシステムの導入は確実に進んでいます。以前連載していた「RFIDシステム導入バイブル」でも、日本では製造業への導入が確実に進んでおり、流通業が後を追っているということを申し上げました。

 そこで、「導入が進んでいくケースと進まないケースでは何が違うのか」という問いに、筆者なりの回答をしたいと思います。

 確かに、費用対効果が見えないという理由で導入計画を延伸するお客さまがいることは事実です。しかしながら、実際の導入の現場でたびたび課題になるのは、

RFIDシステムを利用した新業務プロセスフローの考案=利用シーン想定を誰がやるのか

ということです。

 ユーザー自身がやるケースもありますが、たいていの場合はRFIDシステムのプロフェッショナルがやる仕事だと思ってください。対象業務の担当システムエンジニアがすでにいるというケースも多いでしょう。しかし、ユーザーとSEがお互いに譲り合って導入が進まなくなってしまった案件を何度も見てきたことも事実です。

 利用シーンを想定できる人が、RFIDシステムの導入をけん引できる人であり、それがRFIDシステムのプロフェッショナルでもあります。

 冒頭で、車の前輪が業務分析・利用シーン想定であり、後輪がシステムスキルということを申し上げました。これは、業務分析・利用シーン想定でRFIDシステムの導入をけん引しながら方向性を固めて、後輪のシステムスキルでそれを現実のものにできるように後押しをするということにほかなりません。

 利用シーンを想定してそれを現実にシステム化できる人材が多くなれば、RFIDシステムの導入は確実に進みます。筆者はそのような人材が増加することを希望し本連載を執筆しています。

 次回は、RFIDプロフェッショナル養成バイブルの最終回となりますが、人材育成のケーススタディとして、前職が業務システムエンジニアであったOさんを例にして解説します。Oさんが、どのようにRFIDシステムのプロフェッショナルになったのかを見ていただくことが、これからRFIDシステムのプロフェッショナルを目指す方にとっての近道になると考えています。

2/2
 

Index
RFID利用シーンをイメージさせてこそ一人前
  Page1
業務プロセスフロー図を使う
ユーザーと認識を共有することが重要
Page2
ライフサイクルモデルを使う
業務分析と利用シーン想定はRFIDプロフェッショナルの仕事

Profile
西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社
ユビキタスシステム事業本部
ビジネス推進統括部
ユビキタスビジネス推進部
担当課長

物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。

RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、自動車製造業、流通業、電力会社など数々のプロジェクトを担当する。

著書に「RFID+ICタグシステム導入構築標準講座(翔泳社)」がある。

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